「お尻が腫れていて座ると痛い」「肛門が腫れて熱を持っている」といった場合、その原因は痔や肛門周囲膿瘍などの病気かもしれません。この記事では、お尻の腫れの原因として考えられる病気やその見分け方、治療法や対処法について解説します。早めに適切な処置をすることが症状を長引かせないためには大切ですので、ぜひ参考にしてください。また、お尻の腫れを再発させないための予防法についても解説しています。
お尻の穴が腫れる症状の種類と見分け方
お尻の穴が腫れている場合、その原因として内痔核や嵌頓痔核、血栓性外痔核、肛門周囲膿瘍などが考えられます。これらはどのような疾患で、どのような症状があるのかを見ていきましょう。
内痔核の症状と見分け方
まずは、内痔核について説明します。内痔核は、痔核(いぼ痔)が肛門の内側にできた状態です。肛門から何か出ているような違和感や腫れがある場合は、内痔核の可能性があります。内痔核の場合、痛みを感じることはあまりありません。症状として多いのは、排便時の出血やいぼの脱出です。いぼに関しては、症状が軽い場合は脱出は見られませんが、進行するにつれて「排便時のみ脱出して戻る」「排便時に脱出して手で押し込まないと戻らない」「手で押し込んでも元に戻らない」のように変化していきます。
嵌頓痔核の症状と見分け方
次に、嵌頓痔核について説明します。嵌頓痔核は、内痔核が進行し、脱出したいぼに血栓ができた状態です。血栓ができていることからもわかるように、腫れがひどく、強い痛みも伴います。また、内痔核と同様に排便時に出血することもあります。見分け方としては、肛門からいぼが出ていること、そのまわりも大きく腫れていることなどがポイントとなるでしょう。医療機関での応急処置が必要になる症状のため、このような症状がある場合は直ちに肛門外科を受診しましょう。
血栓性外痔核の症状と見分け方
肛門の出口付近が突然ぷっくりと腫れあがった場合は、血栓性外痔核の可能性があります。肛門の内側にできる痔核が内痔核であるのに対し、肛門の外側にできるのが外痔核であり、この外痔核が血栓を伴っている場合を血栓性外痔核と呼びます。血栓ができているため、触るとしこりのような腫れを感じるでしょう。痛みを伴っていることがほとんどですが、中には違和感程度の痛みしかない場合もあります。嵌頓痔核とは、痔核ができている場所が肛門の外か中かによって見分けることができます。
肛門周囲膿瘍の症状と見分け方
「ズキズキ」とした痛みを感じる場合には、肛門周囲膿瘍の可能性があります。肛門周囲膿瘍は、肛門周辺の組織が細菌感染を起こし、炎症して膿を伴っている状態です。お尻全体のズキズキとした痛みや腫れ、膿、発熱などが症状として挙げられます。いぼのようなできものができているわけではないのに、お尻が腫れていたいという場合には、肛門周囲膿瘍を疑ってみてください。また、触るとやわらかさを感じる場合も、肛門周囲膿瘍の可能性があります。肛門周囲膿瘍は膿が排出されると痛みが和らぐことが多いですが、慢性化すると痔瘻と呼ばれる状態になり、手術が必要となるため、早期に医療機関で治療を受けておきましょう。
お尻の穴が腫れる症状の原因
痔には痔核・痔瘻・裂肛などの種類があり、これらはお尻の穴が腫れる原因となります。では、これらの痔疾患は、何が原因で発症するのでしょうか。それぞれの原因を解説しますので、予防や再発防止に生かしていただければと思います。
痔核になる原因
まず、内痔核や外痔核といった種類がある「痔核」の原因について解説します。内痔核・外痔核ともに、代表的な原因として挙げられるのは血行不良です。長時間座りっぱなしの姿勢でいたり、トイレで強くいきんだりすることが原因で血液の流れが悪くなり、痔核が生じます。また、アルコールや香辛料の過剰摂取、身体の冷え、便秘・下痢、妊娠・出産なども痔核につながると考えられています。
痔瘻になる原因
次に痔瘻についてです。痔瘻は、「肛門周囲膿瘍の症状と見分け方」の項目でもふれたように、肛門周囲膿瘍が悪化した状態です。肛門周辺の組織に膿がたまり、その膿を外に出そうとトンネルのような管が形成されることで痔瘻と呼ばれる状態になります。肛門周辺が細菌感染を起こし膿をためてしまう原因は、はっきりとは判明していません。しかし、便が下痢状態であると肛門組織に入り込みやすいことから、下痢が原因の一つだと考えられています。そのほかに、肛門に傷がある場合や、肛門まわりが不衛生である場合に発症しやすいとされています。
裂肛になる原因
裂肛は、肛門の皮膚が裂けた状態を指します。切れ痔とも呼ばれており、排便時に痛みや出血を伴います。裂肛が形成される主な原因は、便秘や下痢です。便秘の場合には硬い便や太い便が肛門を通る際に、強い力が加わり肛門が裂けてしまいます。下痢の場合は、便が勢いよく肛門を通ることや、肛門周辺が炎症を起こしやすい状態になることで、裂肛が生じると考えられています。また、肛門括約筋の緊張や、炎症性腸疾患などでも裂肛になることがあります。
お尻の穴が腫れるときの対処法
お尻の穴が腫れてしまうと、トイレの際はもちろん、デスクワークや運転中など座っている状態でも痛みや違和感を覚えるようになります。そのような状態を一刻も早く解消できるよう、ここからは対処法や治療法について解説します。まずは、自分でできる対処法からです。
自分でできる対処法
夜中に腫れを感じ、すぐには病院に行けない場合などは、まずは自分でできる対処法をお試しください。血栓性外痔核や内痔核などの場合に効果的なのは、血行を良くすることです。お風呂にゆっくりと入る、座浴をする、ホットタオルをあてる、使い捨てカイロをあてるといった方法で患部を温め、血流の改善を促しましょう。少し温めただけでも、痛みが和らぐかと思います。
ただし、肛門周囲膿瘍や痔瘻で肛門周辺が化膿している場合には、温めるのは逆効果です。これらの症状は排膿をすることが腫れや痛みを和らげる近道ですので、できるだけ早く医療機関に出向きましょう。医療機関に行けない場合には、まずは安静にし、患部は温めるのではなく冷やすことをおすすめします。また、即効性がある対処法ではありませんが、便通を改善することも肛門の腫れの軽減と再発予防につながります。座薬や軟膏、注入軟膏といった市販薬で応急処置をするのもおすすめです。
対処をしても改善しないとき
上記で挙げた対処をしても腫れや痛みが引かない場合は、できるだけ早く医療機関に足を運びましょう。適切な治療をしないと悪化してしまう場合もありますし、「痔だと思っていたらほかの病気だった」という可能性もあります。特に、肛門から膿が出ているなど、痔瘻の可能性がある場合には、市販薬やセルフケアでは根本的な改善はできませんので、肛門を専門とする医師に診てもらうことをご検討ください。
お尻の穴が腫れたときの治療法
お尻の穴の腫れで医療機関を受診する場合、診察では腫れや痛みがある箇所や、症状が出始めた時期、排便習慣や食生活などの問診が行われます。その後、診察用ベッドに寝転がった状態で、視診や触診、肛門鏡による検査が行われるのが、診察の一般的な流れです。その後、診断結果に基づいて薬の処方や生活指導、外科手術の提案などが行われます。治療法は、内痔核・嵌頓痔核・血栓性外痔核・肛門周囲膿瘍など、疾患の種類によって異なります。
内痔核の治療法
内痔核の場合には、座薬や注入軟膏、飲み薬といった薬の処方と生活習慣改善で経過を観察するのが一般的です。生活習慣改善において特に大切なのは、排便習慣を整えることです。便秘や下痢はうっ血や炎症の原因になりますので、これらを解消できるように食事や運動についてのアドバイスが行われることが多いでしょう。こういった保存的治療で症状が落ち着くことがほとんどですが、中には症状が変わらない場合もあります。その場合は、切除術やALTA療法(ジオン注射)といった外科的治療が行われます。ALTA療法は、痔核を硬化縮小させる作用のある注射をすることで、症状の改善を促す方法です。切開をしないため、日帰りで行うことができ、患者さんの負担が少ないというメリットがあります。
嵌頓痔核の治療法
嵌頓痔核に関しても、まずは座薬や注入軟膏などで症状を落ち着かせるのが一般的です。座浴などで血行を良くし、腫れを引かせる場合もあります。しかし、これらの治療法は一時的な対処法であり、根本的な治療法ではありません。再発のリスクや腫れが引かない可能性もありますので、そういった場合には内痔核と同じように外科的処置が必要となります。
血栓性外痔核の治療法
血栓性外痔核に対しては、ステロイドが入った座薬や消炎作用を持つ鎮痛剤などが処方されます。「排便時にいきまないようにする」「便秘や下痢を解消する」といった生活指導も並行して行われるのが一般的です。これらの方法で症状が改善しない場合や再発を繰り返す場合は、血栓の摘出と外痔核を切除する手術が行われます。手術は一般的に日帰りで行うことが可能であり、激しい運動などを避ければ手術直後から日常生活に戻ることができます。
肛門周囲膿瘍の治療法
肛門周囲膿瘍は、症状の程度によって治療法が異なります。痛みや腫れがほとんどなく、たまっている膿の量が少ないなど症状が軽度の場合には、抗菌薬の服用で経過を観察することが可能です。そうでない場合には、局所麻酔をして切開することで膿を外に出す処置が必要となります。また、肛門周囲膿瘍が悪化して痔瘻となっているケースでは瘻管を開放する手術が必要となります。排膿のみの場合は外来での処置が可能であり、痔瘻の手術は術式にもよりますが1週間程度の入院が必要となります。
お尻の穴が腫れる症状の予防法
痔や肛門周囲膿瘍には、治療をしてもその後の生活習慣が改善されなければ再発する恐れがあるという特徴があります。では、どのようなことに気をつけていればお尻の穴の腫れが再発するリスクを防げるのでしょうか。大切なのは、お尻の穴に負担をかけないこと、お尻を清潔に保つこと、血流を改善することなどです。便秘や下痢を避ける食生活を心がけ、適度にストレッチをしたりゆっくりとお風呂に入ったりすることで、痔や肛門周囲膿瘍の再発を防ぎましょう。また、お尻の炎症やかゆみなどを防ぐためには、以下のようなことに気をつけることも大切です。
お尻を拭きすぎない
まず、トイレットペーパーでお尻をごしごしとこすったり、1日に何度もせっけんでお尻を洗ったりするのは控えましょう。拭きすぎや洗いすぎは皮膚にダメージを与える原因となり、傷がついた箇所からばい菌が入って炎症を起こすリスクにもつながります。温水洗浄の場合は、適度な水圧に調整しておくことも大切です。
長時間座ることを避ける
座りっぱなしや立ちっぱなしなど長時間同じ姿勢でいることは、肛門への負担や血流の低下につながり、内痔核や外痔核などの原因となります。しかし、それ以外にも座りっぱなしを避けておいたほうが良い理由があるのです。それは、座りっぱなしの姿勢は「お尻の蒸れ」につながってしまうということです。蒸れている状態は、角質層がふやけてはがれやすくなり、皮膚にもともと備わっている保湿成分が溶け出してしまう原因となります。その状態では、乾燥による炎症やかゆみなどにつながります。
保湿剤を使用する
乾燥や炎症を防止するために、顔や手などに保湿剤を使っている方は多いと思います。実は、このように保湿剤を使用することはお尻の穴の腫れを防ぐためにも役立ちます。お尻にまで保湿剤を塗るなんて…と考える方もいるかもしれませんが、肛門まわりの皮膚の健康を守ることにつながりますので、ぜひ試してみてください。
まとめ
お尻に関する悩みは、人に相談しづらいことかと思います。特にお尻の穴に関することは、腫れや痛みを感じても恥ずかしさが勝り、まわりの人に相談したり、医療機関を受診したりできない人も多いのではないでしょうか。この記事では、そのようにお悩みの方のセルフケアや受診目安の参考になるよう、考えられる原因や治療法、予防法などを説明しました。自分のお尻の腫れの原因がどのようなものなのかを知ることで、症状改善に役立てていただければと思います。
参考文献