肛門疾患と聞くとほとんどの人が「痔」を思い浮かべるのではないでしょうか。現在肛門疾患で悩んでいる人は人口の約28%で約3,000万人(2015年時点)もいるといわれています。
肛門疾患のほとんどは3大疾患である痔核・痔樓・裂肛ですが、良性か悪性かに関わらずさまざまな疾患が存在するのです。
本記事では、肛門疾患の種類・原因・検査方法・治療について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
肛門疾患の種類や原因
- 肛門疾患にはどのような種類がありますか?
- 肛門の疾患にはさまざまな種類がありますが、約75%は痔です。特に3大疾患と呼ばれる3種類は以下のとおりです。
- 痔核(いぼ痔)
- 痔瘻(あな痔)
- 裂肛(切れ痔)
良性疾患で、成人の3人に1人が痔疾患に悩まされているのです。痔以外には以下のような肛門疾患が存在します。
- 肛門がん
- 肛門ポリープ
- 肛門周囲膿瘍
- 肛門狭窄
- 尖圭コンジローマ
- クローン病
肛門疾患は良性・悪性に関わらず存在し、疾患を確定するには診察が必要です。気になる症状があれば早めに肛門科を受診しましょう。
- 主な肛門疾患の原因を教えてください。
- 肛門疾患の大半を占める痔の原因は、肛門の刺激やうっ血とされています。例えば、排便時のいきみや長時間同じ姿勢でいることは、肛門うっ血につながります。
便秘や下痢も肛門への刺激となるため、刺激物などの摂取は控えて清潔状態を保ちましょう。また、肛門ポリープも慢性的な刺激によって引き起こされます。一方、肛門周囲膿瘍は肛門線からの細菌感染によって発症し、尖圭コンジローマはHPV性感染によって発症します。肛門がんは悪性腫瘍のなかでも稀であり、確定的な原因はありませんが、慢性的な痔樓の放置やHPV感染が危険因子です。
疾患によって原因が異なりますが、日常生活のなかで肛門への刺激やうっ血を避けることで、発症リスクを抑えられる疾患もあります。
- 主な肛門疾患の症状について教えてください。
- 肛門疾患の主な症状は痛み・出血・できものです。症状を自覚して受診されるケースも少なくありません。痔の場合種類によって症状が異なるものの、痛みを感じることが多いです。
なかでも痔核ではイボ状のできものが発生し、手に触れるものもあります。肛門周囲膿瘍では排便に関係なく常に痛みを感じる点が特徴です。ただし、肛門ポリープなど痛みや出血をともなわず、できもののみを症状とする疾患もあります。
- 肛門疾患になりやすいのはどのような人ですか?
- 肛門疾患のなかでも痔は生活習慣や体質によって左右されやすいものです。特に、以下のシチュエーションに当てはまる人は痔核になりやすいため注意しましょう。
- 排便時にいきむ
- 長時間同じ体勢が続くことが多い
- 刺激物を頻繁に食べる
- アルコールを摂取することが多い
- 便秘がち
- 妊娠中あるいは産後
裂肛も便秘の人がなりやすい疾患です。日常生活で心あたりのある人は、なるべく肛門に負担をかけないように意識してみましょう。
肛門疾患の検査や治療
- 肛門疾患で行われる検査にはどのようなものがありますか?
- 肛門疾患の検査では、まず症状を感じた期間や主な症状を問診したうえで触診と肛門鏡を用いて検査を行います。ほとんどの肛門疾患はその時点で診断できますが、疾患に応じて肛門超音波検査・CT検査・MRI検査を実施します。
なかでも肛門から大腸にかけて、がん・ポリープ・クローン病などの炎症性疾患が疑われる場合は大腸内視鏡検査を実施するケースもあるのです。特に肛門がんの場合、組織検査を実施し、確定診断につなげます。そのほか、肛門機能検査など症状に応じて検査する必要があります。
- 主な肛門疾患の治療方法について教えてください。
- 肛門疾患の約75%を占める痔を含め、良性疾患のケースが多いため基本的に安静・内服・座薬・軟膏などによる保存的治療を選択します。ただし、良性疾患の場合でも痛みで生活に支障をきたす場合は、手術療法を実施することもあります。
内痔核の治療にはALTA療法と呼ばれる硬化療法も選択されます。痔を硬化して粘膜に固定させる治療法です。切除する手術方法と比べて痛みも少なく、短期の入院で実施できます。また、痔核の治療において手術を選択する場合、根治性の高い結紮切除術を用います。重症例も適応となるため、痔核を切除したいケースで実施されることが多いです。最近ではPPHと呼ばれる器具を使用して、粘膜の切除と縫合をする術式を実施する医院も多い傾向にあります。
根治度が高いうえ痛みを感じにくく、従来の結紮切除術と比較しても非侵襲的です。肛門周囲膿瘍や痔樓は、膿をいち早く摘出する必要があるため切開排膿など手術を実施する方が多い傾向にあります。肛門がんの治療方法は抗がん剤治療と放射線治療を組みわせた方法が一般的です。
一方で、手術を取り入れた場合、人工肛門の増設が必要となります。なるべく肛門を温存する方法として化学放射線療法がメジャーですが、化学放射線療法後もがんが残る症例については、手術を検討する例もあるのです。
肛門疾患の治療は保存的治療できるものから、手術が必要なものまで、多岐に渡ります。症状に合わせて最善の治療方法を選ぶ必要があります。
- 肛門疾患で手術が行われるのはどのようなケースですか?
- 肛門疾患のなかでも痔核においては、臨床的な分類に基づいて手術を選択します。主に判断材料となる分類は以下のとおりです。
- 解剖学的分類
- 内痔核の脱出度に関する臨床分期分類
- 肉眼的分類
- 発症経過分類
以上の分類に基づき、手術が有用かどうかを見極める必要があるでしょう。なかでも内痔核の場合、指で押し込まないと戻らない場合や激しい痛みをともなう場合は手術を選択します。肛門の痛み・出血・脱肛の症状がある場合は、早めに受診しましょう。
- 肛門疾患の手術後の過ごし方について教えてください。
- 肛門疾患の手術後は1週間程度安静に過ごすのが望ましいです。術後の状態や経過によって異なりますが、退院後1週間は重労働や運動を控えましょう。
また、術後は排便時に血液が混ざることがありますが、傷によるものと考えられます。清潔な状態を保ち、医師に指示されたとおりに過ごしてください。退院後も経過観察のため通院を忘れないようにしましょう。
肛門疾患の予防や注意点
- 肛門疾患を予防する方法はありますか?
- 肛門疾患の予防で重要なポイントは、肛門疾患となりうる主な原因を避けることです。特に注意したい点は以下のとおりです。
- 清潔を保つ
- 排便異常(便秘・下痢)にならないようにする
- 排便時にいきまない
- 長時間同じ姿勢を続けない
- アルコールや刺激物の摂取を控える
以上に注意して肛門周囲への刺激やうっ血をなるべく避けるようにしましょう。例えば、排便後にペーパーで拭き取るだけでは、便が肛門周囲に残っている可能性もあります。
洗浄機付きトイレを使用して清潔にすることで、便に含まれる刺激物が肛門に刺激を及ぼすリスクも減らせるでしょう。日常生活において少し意識を変えるだけで、肛門疾患予防に有効です。
- 普段の生活での注意点について教えてください。
- 肛門疾患を予防するポイントに加えて、ストレスを溜め込みすぎない環境でいることが重要です。日頃から生活環境の変化や強いストレスを感じると、排便がいつもと異なるのを経験した人もいらっしゃるのではないでしょうか。
なるべく肛門への負担を減らせるよう、日常生活の中からストレス因子を排除しましょう。また、食生活も大変重要なポイントです。食物繊維が豊富な食品を積極的に摂取し、腸内環境を整えてください。
さらに、一度肛門疾患を治療し終えた人も再発の可能性があります。治療期間を終了した後も、日常生活を見直し肛門へ負担がかからないように注意しましょう。
編集部まとめ
肛門疾患はほとんどが良性で罹患者も多いことから、症状を感じても放置してしまっている人もいるのではないでしょうか。
肛門疾患は状態や経過を観察し、治療を選択する必要があります。医療機関を受診せず自己判断で放置してしまうと、日常生活に支障をきたす恐れもあります。
また、良性疾患だけでなく肛門周囲の悪性疾患との鑑別も重要です。肛門科と聞くと羞恥心から受診をためらってしまう人もいるようですが、症状を感じたら早めに受診しましょう。
日頃から肛門への負担をかけないよう、日常生活のなかで少し意識をしてみてください。
参考文献
- これからの肛門科診療 ―90 年間を振り返って―
- 肛門疾患|日本大学病院
- 痔 痔を予防する(悪化させない)ためには?|日本医師会
- 肛門周囲膿瘍・痔瘻|兵庫医科大学病院
- 肛門がん(こうもんがん)/ 肛門管扁平上皮がん(こうもんかんへんぺいじょうひがん)|国立がん研究センター 中央病院
- 痔核の治療|一般社団法人 日本大腸肛門病学会
- 痔・肛門疾患外来|川崎医科大学 総合医療センター
- 肛門の様々な症状、病気|奈良県医師会
- 痔・肛門疾患|日本臨床外科学会
- 痔瘻(じろう,あな痔)ってなに?肛門周囲膿瘍ってなに?|一般社団法人 日本大腸肛門病学会
- 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱 診療ガイドライン2020年版 改訂第2版
- 肛門疾患(痔核・裂肛・痔瘻)