肛門周囲皮膚炎(肛囲皮膚炎)は、肛門や周囲の皮膚に炎症が起きる病気です。肛門にかゆみ・痛みを感じた経験のある方は多いでしょう。
また肛門のかゆみや痛みが気になるけれど、病院に行くのをためらっている方もいるのではないでしょうか。
肛門周囲皮膚炎(肛囲皮膚炎)は放置すると症状が悪化する可能性があり、注意が必要です。
今回は肛門周囲皮膚炎(肛囲皮膚炎)の症状や治療法について解説しますので、肛門に気になる症状がある方はぜひご一読ください。
皮膚炎(肛囲皮膚炎)の症状・原因について
- 肛門周囲皮膚炎とはどのような病気ですか?
- 肛門周囲皮膚炎は、何らかの原因によって肛門やその周囲が炎症を起こしかゆみや痛みを感じる病気です。肛門の病気としては痔が有名ですが、かゆみをともなう痔は少なく肛門のかゆみのほとんどは肛門掻痒(そうよう)症といわれています。
肛門掻痒症は、明らかな原因がない肛門のかゆみのことです。肛門掻痒症以外には、真菌症・かぶれ・皮膚疾患・悪性腫瘍・痔・ぎょう虫症といった病気でも肛門周囲に炎症が起きます。
- 肛門周囲皮膚炎の症状について教えてください。
- 肛門周囲皮膚炎には、以下のような症状がみられます。
- 肛門周囲のかゆみ
- 痛み
- 熱感
- しみるような違和感
- ベトつき
- ただれ
- 浸出液で下着が汚れる
- 出血や化膿
かゆみ症状は排便後やお風呂あがりに強くなるのが特徴で、悪化するとかゆくて眠れなくなるケースもあります。肛門のかゆみやベトつきが気になって紙で何度もこすると、赤くなったり湿疹ができたりして余計にかゆくなるので注意が必要です。
引っ搔いて皮膚が傷ついたりただれたりすると、さらに悪化してしまいます。ヒリヒリした痛みや水がしみることによる痛みを感じるので、切れ痔だと勘違いしてしまうこともあるでしょう。
- 肛門周囲皮膚炎の主な原因は何ですか?
- 肛門周囲皮膚炎の主な原因には、以下のようなものがあります。
- 排便後の拭き過ぎ・入浴時の洗い過ぎ
- 温水洗浄便座の使い過ぎ
- 下痢
- 汗
- 肛門まわりの不潔
- 生理
- 長時間のドライブや下着のこすれ
- 真菌感染(カンジダ・白癬菌などのカビ)やインキン・タムシ
- アレルギー性疾患
- 肛門疾患(痔ろう・痔核など)
拭きすぎや頻繁な温水洗浄便座の使用などによって強い刺激が加わると、肛門周囲の皮膚が傷ついて皮膚が炎症を起こします。拭き過ぎや洗い過ぎは皮膚のバリア機能も低下させるので、かゆみを感じやすいです。
また下痢が続いたり内痔核が脱出したりすると、腸液が肛門のまわりについてただれやすくなります。かゆいからといって搔き壊すと浸出液が出たり出血したりして、さらに悪化してしまうので注意が必要です。
外的刺激だけではなく、ほかの疾患や感染症が原因となることもあります。
- 発症しやすい人の特徴を教えてください。
- 肛門周囲皮膚炎は年齢・性別に関係なく発症する病気です。発症しやすい人には、以下のような特徴があります。
- コーヒー・アルコール・香辛料・乳製品・チョコレートなどを多く摂る
- 下痢や軟便が多い
- 温水洗浄便座をよく使う
- お風呂でおしりをゴシゴシ洗う
- トイレでおしりを何度も強く拭く
- 排便時にいきみすぎてしまう
便・分泌液や拭き過ぎ・洗い過ぎなどによる刺激は、肛門周囲皮膚炎を発症しやすくする原因です。またコーヒーやアルコールといった食物の刺激によって引き起こされることもあります。
皮膚炎(肛囲皮膚炎)の治療法
- 病院に行く目安について教えてください。
- ただのかゆみだと思って放置しておくと、症状が強くなり睡眠不足や痛みなどによって日常生活に影響が出てしまう可能性もあります。肛門周囲を清潔に保ち、刺激を与えないようにして3〜4日様子をみてもよくならない場合は、病院に行くのがおすすめです。
受診する科は肛門科もしくは皮膚科となりますが、皮膚科では恥ずかしいという方は肛門科の専門の医師にみてもらうとよいでしょう。ただのかゆみ・皮膚炎だと思っていたら、パジェット病やボーエン病などの皮膚がんや肛門がんだったケースもあります。
肛門や周囲の症状が続く場合は、勇気を出して病院を受診し医師に患部をみてもらいましょう。
- 肛門周囲皮膚炎はどのように診断しますか?
- まずは肛門を視診し、状態を確認します。痔ろう・痔核・直腸脱などの肛門疾患があるかどうかも診断するうえで大切です。皮膚炎の原因として真菌や細菌が疑われる場合は、培養検査を行います。
ただし検査結果が出るまでは1週間ほどかかるため、治療は初診日から始めることが多いです。3ヵ月ほど治療を行っても症状が改善しない場合はほかの菌や腫瘍の可能性もあるので、生体検査を行うことがあります。
- どのような治療を行いますか?
- 治療は内服薬(抗ヒスタミン薬)やステロイド軟膏を使ってかゆみ・炎症を抑えますが、カンジダや白癬菌などの真菌が原因の場合はステロイド軟膏を使用すると逆効果です。そのため、培養検査で真菌が原因と診断されたら抗真菌薬の軟膏で治療します。
また傷ついた皮膚を保護しバリア機能を正常化させる目的で、ワセリンやアズノール・ヒルドロイドなどの保湿剤が処方されることもあるでしょう。過度な刺激が原因となっている場合は、日常生活での肛門への刺激を取り除くことも大切です。
肛門周囲をこすったり石鹸で洗ったりするのは避け、排便後は紙で拭かずシャワーか温水トイレで洗います。洗った後に水分が残っていると蒸れてかゆくなりやすいので、柔らかいタオルで水分を拭き取りましょう。刺激を与えないよう注意し、内服薬や軟膏を使用すれば2〜3週間で完治します。
日常における肛門周囲皮膚炎(肛囲皮膚炎)の対処法
- 肛門周囲皮膚炎は予防できますか?
- 肛門周囲皮膚炎を予防するためには、肛門と肛門周囲を清潔にしておくことが大切です。しかし、きれいにしようと洗い過ぎたり排便後に紙で拭き過ぎたりすると刺激になってしまいます。
洗い過ぎや拭き過ぎは皮脂を落として皮膚のバリア機能を低下させ、感染もしやすくなるため注意が必要です。温水洗浄便座の使用は適度にし、お風呂で洗う際に石鹸は使用しない方がよいでしょう。
また、おしりを清潔に保つために販売されている市販の洗浄綿には刺激となるアルコールが配合されているものもあるので、成分を確認してから購入するのがおすすめです。
コーヒーやアルコールなどの食物やおしりの蒸れが肛門周囲皮膚炎を引き起こすこともあります。コーヒー・香辛料・アルコールなどを摂りすぎない・長時間座らないことも、予防策として有効でしょう。
- 患部に市販薬を使用してもよいですか?
- 肛門にかゆみや痛みがあっても、羞恥心から病院に行くのをためらってしまう方もいるでしょう。市販薬にもステロイド軟膏はありますが、自己判断で使用するのはおすすめできません。
肛門にかゆみや痛みがある場合、まずは肛門を清潔にして刺激を控えましょう。肛門周囲皮膚炎の原因にはさまざまなものがあり、原因に合った治療を行わないと改善しなかったり悪化させてしまったりするケースもあります。
また、単なる皮膚炎ではなくコンジローマやヘルペスなどの感染症やパジェット病・肛門がんなどの悪性腫瘍である可能性も否定できません。適切な治療を行うためにも、市販薬は使用せず専門の医師の診断を受けて処方された薬を使用しましょう。
- 炎症がほかの部位にも広がることがありますか?
- 肛門周囲皮膚炎は、放置するとほかの部位にも炎症が広がってしまうことがあります。肛門がかゆかったりベトついたりすると、気になって紙でこすってしまうこともあるでしょう。すると、余計にかゆみが強くなって引っ掻いてしまい、ただれや膿を持った水膨れができます。
症状が悪化すると、炎症が肛門周囲だけではなくおしりにまで広がることもあるでしょう。また症状があるのに治療せず放置していると、炎症が内部にまで広がり切れ痔になるケースもあります。
編集部まとめ
今回の記事では肛門周囲皮膚炎(肛囲皮膚炎)がどのような病気なのか、症状や治療法について解説しました。
肛門周囲皮膚炎は肛門やその周囲に炎症が起きる病気で、かゆみや痛み・ベトつきなどの不快な症状が出ます。
ほかの病気や感染症以外に、洗い過ぎや拭き過ぎなどの刺激が原因で発症することも多いです。
完治するためには原因に合った治療を行うことが大切なので、症状が続く場合は自己判断せず専門の医師の診察を受けましょう。
参考文献