鼠径ヘルニアは、腹部の弱い部分から内臓が突出する状態です。特に鼠径部に膨らみや痛みとして現れます。咳をしたときに症状が顕著になることが多く、ときには腸閉塞などの深刻な合併症を引き起こすこともあります。鼠径ヘルニアの診断には問診、視診、触診のほか、超音波検査やCT検査が用いられ、治療法は鼠径部切開法、腹腔鏡下修復術などの手術が一般的です。本記事では、鼠経ヘルニアの症状について以下の点を中心にご紹介します!
- そもそも鼠経ヘルニアとは?
- 鼠経ヘルニアの種類について
- 鼠経ヘルニアの症状について
鼠経ヘルニアの症状について理解するためにもご参考いただけると幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
そもそも鼠径ヘルニアとは?
鼠径ヘルニア、一般に脱腸とも呼ばれる状態は、腸や脂肪などの腹腔内臓器が腹壁の薄弱部を通じて外に突出する状態を指します。鼠径部、すなわち足の付け根に位置するこのヘルニアは、特に中年以降の男性に多く見られ、筋膜の薄弱化が主な原因です。男性の場合、鼠径管という特有の構造が関係しており、加齢や物理的圧力によりこの部位が弱まることでヘルニアが生じやすくなります。 乳幼児では、先天的な筋肉の薄弱化により発生することがあり、成人とは異なる原因と治療が必要です。鼠径ヘルニアの典型的な症状には鼠径部の膨らみがあり、ときには痛みや不快感を伴うことがあります。
鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアは主に、「外鼠径ヘルニア」「内鼠径ヘルニア」「大腿ヘルニア」の3種類に分けられます。以下で具体的な症状について解説します。
外鼠径ヘルニア
外鼠径ヘルニアは、鼠径部の外側から腹部内容物が突出する病態で、鼠径部ヘルニアの中でも一般的なタイプです。このヘルニアは、特に男性に多くみられます。内鼠径輪と呼ばれる筋肉の隙間から腸が脱出することで、足の付け根周辺に膨らみや痛みが発生することが特徴です。 幼児では先天的な要因が、成人では筋肉の衰えによるものが少なくないとされています。鼠径部に膨らみが見られ、押しても戻らない、または血流が悪くなるといった症状が見られる場合は、医療機関の受診が推奨されます。経過観察が選択されることもあれば、緊急性が高い場合は直ちに手術が必要となることもあります。
内鼠径ヘルニア
内鼠径ヘルニアは高齢男性に頻繁に見られる状態で、腹部の筋肉隙間から内臓が飛び出す状態です。このヘルニアは鼠径部の内側から生じ、特に足の付け根に膨らみや痛みとして現れることが少なくないとされています。 鼠径部に触れると膨らみが感じられ、ときには押し込むことで元に戻ることがありますが、臓器の血流が損なわれると腫れや痛みが増すことがあります。 症状の有無にかかわらず、経過観察が選択されることもありますが、ヘルニア内容物の壊死を避けるため、必要に応じて緊急手術が行われることもあります。
大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは、中年以降の女性に多く見られ、特に出産経験が多く体型が痩せ型の女性に発生しやすいとされています。このヘルニアは大腿管を通って太ももの付け根の内側から出てくるタイプで、全体のヘルニア発生率は低いものの、嵌頓(臓器が閉じ込められて血流が悪くなる状態)に陥りやすいという特徴があります。 主な症状は太ももの付け根に現れる膨らみで、嵌頓が起こると強い腹痛や吐き気を伴うことがあり、これは緊急手術が必要な状況を示しています。 大腿ヘルニアが疑われる場合は、嵌頓を防ぐためにも、早期に医療機関での診断と適切な治療を受けることが重要です。
鼠径ヘルニアになりやすい人
鼠径ヘルニアは特に中高年男性に多く見られますが、以下の特徴に当てはまる方も鼠径ヘルニアになりやすいとされています。 年齢: 40歳以上の男性に多く、60歳前後での発症が特に少なくない傾向があります。 性別: 女性よりも男性の方が発症しやすいですが、20〜40歳の女性も外鼠径ヘルニアのリスクがあります。 職業・活動: 重いものを持ち上げる労働や長時間の立ち仕事に従事されている方。 健康状態: 便秘や前立腺肥大で腹圧が増加している方、慢性的な咳がある方。 生活習慣: 肥満、多産や出産経験がある方、喫煙されている方。 これらの条件は、腹壁の筋膜が弱くなり、腹腔内圧が高まることで鼠径ヘルニアの発症リスクを増加させます。鼠径管の構造的な違いも男性の発症率を高める一因と考えられます。 上記に当てはまる方は、予防措置を講じるとともに、少しでも鼠径ヘルニアの症状が現れてた際には病院を受診することをおすすめします。
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニア病状は初期から末期にかけて症状の変化が顕著になり、早期発見と治療が重要です。 初期症状では、腹に力を入れた際に鼠径部に軽い膨らみが現れることが多く、押すと元に戻る柔らかい膨らみ、突っ張り感や不快感、引っ張られる感覚があります。この段階では、症状は軽く、日常生活に大きな支障はありませんが、放置すると徐々に症状が進行します。 中期症状に進むと、鼠径部の膨らみはより顕著になり、痛みや不快感を伴います。腸などの内臓が鼠径部を通って脱出する「脱腸」が発生し、膨らみは押しても元に戻りにくくなります。また、便秘や排尿障害など、内臓のどの部分が飛び出しているかによって異なる症状が現れることがあります。 末期症状では、膨らみが硬くなり、押しても引っ込まない「嵌頓状態」に陥ります。この状態は腸の血流が遮断され、腸閉塞や腹痛、嘔吐などの重篤な症状を引き起こす可能性があり、壊死や敗血症のリスクも伴います。嵌頓状態は緊急手術を要する医療状況であり、早急な対応が必要になります。 鼠径ヘルニアの症状は、痛みや不快感、体位による膨らみの変化、そして嵌頓による急性の腹痛や嘔吐など多岐にわたります。これらの症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診し、医師の診断を受けることが重要です。早期発見と適切な治療によって、鼠径ヘルニアによる合併症のリスクを大幅に低減させます。
鼠径ヘルニアの原因
鼠径ヘルニアの原因は、大きく先天性と後天性に分けられます。先天性鼠径ヘルニアは主に乳幼児に見られ、腹膜鞘状突起が自然に閉じないことが原因で、内臓が鼠径部に突出します。一方、成人の鼠径ヘルニアは後天性要因により多く見られ、筋膜の加齢に伴う弱化が主な原因です。この弱化は、腹部に存在する筋膜のトンネル状の管の緩みを引き起こし、腹圧が高まる瞬間に内臓が押し出されることでヘルニアが形成されます。特に、重い物を持ち上げる動作、便秘による過度ないきみ、長時間の立ち仕事など、腹圧を高める活動がリスクを増加させます。 成人においては、特に40歳を超えると筋膜の衰えが顕著になり、鼠径ヘルニアの発生率が高まります。これらのリスク要因に該当する人は、鼠径ヘルニアに特に注意が必要です。 鼠径ヘルニアは自然治癒することはなく、放置することで症状の悪化や合併症を引き起こす可能性があるため、違和感や膨らみを感じたら早期に医療機関を受診することが重要です。治療の選択肢としては外科的介入が一般的で、症状の程度や患者さんの健康状態に応じて適切な治療法が選択されます。鼠径ヘルニアの予防には、適切な体重管理、定期的な運動、便秘の予防など、健康的な生活習慣の維持がおすすめです。
鼠径ヘルニアの検査方法
鼠径ヘルニアの診断には複数の検査方法が用いられ、それぞれの症状やヘルニアの種類に応じて適切な検査が選択されます。以下は、鼠径ヘルニア診断のための主要な検査方法です。 問診:患者さんの自覚症状、生活習慣、ヘルニア発生前の活動などを詳細に聞き取ります。この過程では、痛みの程度や膨らみの観察状況など、症状の具体的な情報が収集されます。 視診・触診:医師が直接患部を視覚的に確認し、手で触れて膨らみの有無や性質、腹圧をかけた際の変化を調査します。患者さんに咳をさせたり、立ってもらったりすることで膨らみがどのように変化するかを観察します。 超音波検査:高い分解能を持つ超音波を用いて、鼠径部の構造を詳細に映し出し、ヘルニアの有無や内容物(腸管など)を確認します。 CT検査:鼠径部を含む腹部全体の断層画像を得ることで、ヘルニアの正確な位置や大きさ、腸管の状態などを把握します。特に複雑なヘルニアやほかの疾患との鑑別が必要な場合に適しています。 これらの検査は、鼠径ヘルニアの正確な診断と適切な治療方針の決定に不可欠です。鼠径ヘルニアの疑いがある場合には、早期に治療することが推奨されます。
鼠径ヘルニアの治療法
鼠径ヘルニアの治療法は主に手術によるもので、開腹手術や腹腔鏡手術が一般的です。これらの手術はヘルニアの突出部を修復し、再発を防ぐために行われます。以下で具体的な治療法を解説します。
鼠径部切開法
鼠径部切開法は、約4cmの切開を鼠径部に行い、腹部の内容物が飛び出している部分を元の位置に戻す方法です。この手術では、ヘルニアの原因となる筋肉や靭帯の隙間を特定し、ヘルニア嚢を剥離して切除または還納し、その後、メッシュを使用して弱った部分を補強するか、あるいは組織を直接縫合して閉鎖します。リヒテンシュタイン法やプラグ法など、さまざまな修復方法があります。鼠径部切開法は、手術時間の短縮、費用の削減、局所麻酔下での手術できる可能性などのメリットがありますが、大きな傷跡が残ることや、慢性疼痛のリスクがあるというデメリットも存在します。 したがって、鼠径部切開法の治療法は患者さんの具体的な状態や医師の診断に基づいて選ばれ、個々のニーズに適した方法が採用されます。
腹腔鏡下修復術
腹腔鏡下修復術は、鼠径ヘルニアの治療において先進的な手法の一つです。この手術では、親指ほどの小さな穴を腹部に数か所開け、腹腔鏡と特殊な器具を使用してヘルニアを修復します。その後、メッシュを使用してヘルニアの開口部を補強し、再発を防止します。 この腹腔鏡下修復術のメリットは、従来の鼠径部切開法により傷が小さく、回復が早く、術後の痛みが少ないことです。一方で、腹腔鏡下手術高度な専門技術と経験が必要とされるため、手術できる病院が限られるなどのデメリットも存在します。 メリットとデメリットがありますが、腹腔鏡下ヘルニア修復術は、患者さんの負担を軽減しつつ、ヘルニアを治療する選択肢として、多くの医療機関で採用されています。
鼠径ヘルニア手術後に起こる可能性のある合併症
鼠径ヘルニア手術は、いくつかの合併症が発生する可能性があります。一般的な合併症は漿液腫と血腫で、これらは手術部位に体液や血液が溜まることで発生します。これらの合併症は多くの場合、自然に解消され、特別な治療を必要としないことが少なくないとされています。しかし、押しても引っ込まない、血流が悪くなるなどの症状が見られる場合は、医療機関での診断と治療が必要です。 出血はもう一つの合併症で、輸血や止血のための再手術が必要になることは稀です。ただし、過去の開腹手術歴がある方や、特定の薬剤を服用している方ではリスクが高まる可能性があります。 また、慢性疼痛も手術後に発生する可能性があります。術後長期にわたって痛みが続くことがあります。この痛みはさまざまな形で現れ、治療法も多岐にわたりますが、ときにはメッシュを取り除く手術が必要になる場合もあります。 これらの合併症は鼠径ヘルニア手術後に発生する可能性がありますが、これらのリスクは全体的には低いとされています。手術を検討している場合は、これらの合併症の可能性について医師と十分に話し合い、適切な情報を得ることが重要です。
まとめ
ここまで鼠経ヘルニアの症状についてお伝えしてきました。 鼠経ヘルニアの症状の要点をまとめると以下の通りです。
- 鼠径ヘルニアは腹壁の腹膜や腸などが飛び出す状態で、主に中年以降の男性に少なくないとされている。鼠径部の特有の構造、加齢、または物理的圧力が原因で発生しやすく、乳幼児では先天的な筋肉の薄弱化が原因である。
- 鼠径ヘルニアには外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類に分けられる。外鼠径ヘルニアは鼠径部外側から腸が脱出し、特に男性に多く見られるが、内鼠径ヘルニアは高齢男性に頻発する。しかし、大腿ヘルニアは中年以降の女性に少なくないとされている。
- 鼠径ヘルニアの症状は、主に鼠径部周辺の膨らみで、初期は膨らみを押すと収まることが少なくないが、進行すると押しても戻らない嵌頓(かんとん)状態になり、腸閉塞の症状(痛み、便秘、嘔吐)が起こり、緊急手術が必要になることがある。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。