粉瘤(アテローム)とは、皮膚にできる良性の腫瘍です。放置すると徐々に大きくなるため「悪い病気だろうか」と不安になる方もいるでしょう。
今回の記事では、粉瘤ができやすい場所・粉瘤ができる原因のほか、粉瘤ができた場合の治療方法・手術の合併症なども解説します。
記事の最後にはアテロームと似た皮膚疾患も紹介するので、気になる症状が現れた際には参考にしてください。
粉瘤(アテローム)はおしりにできる?
粉瘤のなかで多いのは表皮嚢腫と呼ばれる分類の腫瘍です。今回の記事では、主に表皮嚢腫について解説します。
皮膚は、表層にある表皮と、その下にある真皮の2層構造です。このうち、表皮の組織は表面に近いほうから順に角質として剥がれ落ちたり、皮膚表面を保護するために皮脂を分泌したりしています。
粉瘤とは、何らかの理由で表皮が真皮の中に入り込んで袋状の構造物を形成し、その袋の中に本来は剥がれ落ちるべき角質や皮脂が溜まる病気です。
粉瘤は皮膚であればどの部位にも発生する病気ですが、特に頭部・顔・背中・臀部(おしり)にできやすいといわれています。
粉瘤は良性の腫瘍ですが、内容物が増加するにしたがって腫大し、大きさは数mm~数cmになることもあります。そのため、おしりに粉瘤ができると、座るたびに圧迫感や痛みがある方もいるでしょう。
なお、表皮嚢腫以外の粉瘤では、外毛根鞘性嚢腫・多発性毛包嚢腫(脂腺嚢腫)が挙げられます。
外毛根鞘性嚢腫(がいもうこんしょうのうしゅ)は表皮嚢腫よりも硬く、頭部に好発する粉瘤です。
また、多発性毛包嚢腫(たはつせいもうほうのうしゅ)は腕・首・腋窩などに発生し、つぶすと無臭でマヨネーズ状の内容物が出てきます。
粉瘤(アテローム)がおしりにできやすい人とは?
粉瘤の原因となる袋状の構造ができる原因はわかっていませんが、外傷・ヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス)の感染などが関連していると考えられています。
なお、粉瘤は角質・皮脂が溜まることで腫大しますが、清潔が保持できていないから発生するなど生活習慣に問題があって発症するものではありません。
このように、はっきりとした要因がわからないため生活改善などによる予防が難しく、治療をしても粉瘤を繰り返す方もいます。
粉瘤(アテローム)の治療
粉瘤は徐々に増大していく腫瘍であり、自然に治癒するケースはほとんどありません。
また、強く圧迫すると隆起の中心から粥状の内容物が出てくることがありますが、内容物を出しても時間の経過とともに再び腫大してくるでしょう。
そのため、主な治療方法は摘出手術となります。なお、粉瘤は良性腫瘍であり、痛み・生活への支障などがない場合の治療は不要です。
しかし、圧迫されやすい場所にできて炎症・破裂の可能性がある場合や、目立つ場所にできて見た目が気になる場合、すでに炎症を起こしている場合などには手術を検討します。
なお、強い炎症を起こしたまま手術を行うと合併症のリスクが高まるため、投薬などにより炎症を落ち着かせてから手術するケースが多いです。
ただし、炎症により痛みが強い場合・膿が溜まっている場合などは、応急処置的に切開をして排膿を行うことがあります。
摘出手術の流れ
粉瘤を治療する場合、どのような流れで手術を行うのでしょうか。ここからは、粉瘤の代表的な治療法である摘出術・くり抜き法の一般的な流れを紹介します。
麻酔
小さな粉瘤の場合は、局所麻酔で手術ができる可能性があります。しかし、巨大な粉瘤を摘出する場合は入院して全身麻酔での手術が必要です。
また、子どもの患者さんなど局所麻酔下で安静を保つことが難しい・不安が強いなどの場合は、小さな粉瘤であっても全身麻酔で治療を行う可能性があります。
皮膚を紡錘形に切開
摘出術の場合は、麻酔をかけた後に粉瘤が発生した部分の表皮を紡錘形に切開します。
一方、小さな粉瘤に対しては筒状のメスで粉瘤をくり抜くように切除するくり抜き法(へそ抜き法)を適用する場合もあります。
くり抜き法は摘出術よりも治療時間が短いなどのメリットはありますが、下記のような場合には適用できません。
- 手のひら・足裏の表皮嚢腫
- 周囲組織との癒着が強い粉瘤
嚢腫のみを摘出
粉瘤の手術では、紡錘形の切開部から真皮の中にできた袋状の病巣をすべて摘出する方法が一般的です。
摘出術は袋状の構造ごと粉瘤の病巣を取りきるため、再発の少ない治療法といえます。
一方、くり抜き法は筒状のメス(ディスポーザブルパンチ)で開けた4mm程の穴から内容物をもみ出すように排出させ、袋状になった部分も可能な限り取り除く方法です。
粉瘤は再発率の高い病気ではありませんが、このように病巣の一部が皮膚の中に残ることで再発する場合があります。
皮膚縫合
摘出術を行った場合には、最後に紡錘形に切開した表皮を縫合します。手術が終わった時点で傷が閉じている状態になるため、くり抜き法と比較すると短期間で完治するのが特徴です。
一方、くり抜き法の場合には基本的に治療後の縫合を行いません。術後に止血を行った後は、開放創として治癒するのを待ちます。
縫合を行わないケースでは、抜糸が必要ない点はメリットですが、定期的に消毒を行う必要があります。また、手術終了〜完治までの時間は摘出術よりも長くなるでしょう。
摘出手術後の合併症
粉瘤の摘出術・くり抜き法などを行った後は、手術によってできた傷によりいくつかの合併症が起こる可能性があります。
代表的な合併症である赤み・腫れ・痛みについて、どのような症状なのか、症状が気になる場合にはどのような対処をするのかをまとめました。
赤み
赤みは小さなケガなどをした場合にもよくみられる症状で、炎症が治るにつれて赤みも引いていくことが多いです。しかし、炎症による赤みだけでなく内出血が起こる場合があります。
内出血が次第に吸収されれば問題ありませんが、内出血した部分に血腫が形成される場合があるため注意が必要です。
創部に血腫ができた場合は除去手術を行うこともあるため、たとえ日帰りの手術であっても治療後の定期診察にはしっかりと通いましょう。
また、体質などにより創部がケロイド・肥厚性瘢痕となって赤く盛り上がることがあります。このような場合には、軟膏・内服薬による治療を行うことがあります。
腫れ
粉瘤の手術では、創部を縫合する場合と開放創として治癒を待つ場合があります。
いずれも傷のある状態のため、腫れや痛みは多くの患者さんにみられる症状です。
しかし、長期にわたり腫れが引かない場合には、手術創が感染を起こしている可能性があります。このような場合、状態によっては抗生剤の投与・小切開による排膿などが必要です。
痛み
痛みも、腫れと同じく創が完治するまではみられる可能性がある症状です。しかし、上記のとおり術後に細菌感染による炎症が起こることがあります。
痛みが長く続く・強くなるなどの場合は、腫れが引かない場合と同様に対処が必要です。
赤み・腫れ・痛みなど傷口周囲の変化が気になった場合は、治療を受けた医療機関に相談することをおすすめします。
なお、粉瘤は一度手術をして治癒しても、病巣が取りきれていないと以前の病巣付近に再発する場合があります。
確率は稀ですが、治療を行った後に再び粉瘤の症状が現れることがある点にも注意しましょう。
注意すべき似ている皮膚疾患
皮膚にできる良性腫瘍には、粉瘤以外にもいくつかの種類があります。ここから紹介する病気は、見た目・症状が粉瘤に似た皮膚疾患です。
粉瘤と同じく自然に治癒しないものが多いため、下記のような皮膚疾患を疑う症状があり腫れ・痛みなどがみられた場合は、医療機関を受診することをおすすめします。
皮様嚢腫
皮様嚢腫は、瞼の耳側(目尻と眉毛のあいだ)に好発する良性の腫瘍です。粉瘤と異なり先天的な皮膚腫瘍で、子どもによくみられます。
胎児期に表皮になるはずの組織が真皮の奥へ嵌入して発生するといわれ、粉瘤よりも皮膚の深い部分にでき、骨に癒着した腫瘍です。
手術は小児期に行われることが多いため、基本的に全身麻酔での摘出術が選択されます。
側頸嚢腫
胎児の身体が形作られる過程で、胎生2~3週頃に鰓弓・鰓裂・鰓溝という凹凸がみられるようになります。これらは、顎から首に作られる器官のもととなるものです。
魚の鰓(えら)のように隆起した鰓弓の間には鰓裂という裂け目がありますが、通常であれば分化の過程で鰓裂は閉鎖していきます。
側頸嚢腫(そくけいのうしゅ)は顎下三角部(顎の下)に好発する皮膚腫瘍で、この鰓裂が閉鎖せずに遺残して発生すると考えられます。
嚢腫内部から外へつながる瘻孔がある側頸嚢腫は、出生してすぐに診断されることが多いです。
しかし、瘻孔がない場合は嚢腫が小さい幼少期にはわかりにくく、徐々に増大して20〜40代になってから自覚されることが多いでしょう。
また、側頸嚢腫と似た発生メカニズムを持つ皮膚腫瘍として正中頸嚢胞(せいちゅうけいのうほう)があります。
側頸嚢腫が顎の左右いずれかにできることが多いのに対して、正中頸嚢胞は首の正中(真ん中)に当たる喉の周辺に好発する腫瘍です。
正中頸嚢胞の原因は、鰓裂が閉鎖する過程で本来は別の部位になるはずだった細胞が皮下に取り残されたことです。
側頸嚢腫・正中頸嚢胞ともに無症状であり治療を必要としない場合があります。しかし、粉瘤と同じく化膿・炎症により急激に腫れたり痛みが出たりした場合は治療をおすすめします。
外歯瘻
外歯瘻(がいしろう)とは、歯周病・むし歯などにより歯根部が慢性的な炎症を起こし、その膿を排出するための瘻孔(通り道となる穴)が顔面・頚部の皮膚に形成される病気です。
皮膚表面に瘻孔が形成されるまでには、顎の周辺組織に軟部組織炎・蜂窩織炎がみられるほか、瘻孔が皮下まで至り膿瘍もみられるようになります。
症状が皮膚に現れるため皮膚科・外科などに受診する方が多いですが、外歯瘻の原因は歯根部にあるため、歯科医院での治療が必要です。
毛巣洞
毛巣洞(もうそうどう)は中に毛を含む小さな穴で、仙骨・尾てい骨と肛門の中間あたりに好発する病気です。
以前は皮様嚢腫・側頸嚢腫と同じく先天的な病気とする考えもありましたが、近年では体毛が後天的に皮膚に刺入することが原因とされています。
粉瘤とは異なり、毛巣洞になりやすい方にはいくつかの共通点があります。毛巣洞のリスク要因は下記のとおりです。
- 肥満
- 体毛が多い
- 座っている時間が長い
このようにいくつかの要因がわかっているため、術後は減量する・立つ時間を増やすなど原因を解消していくことで再発予防が期待できます。
発症のメカニズムは異なりますが、発症しても無症状であり炎症を起こした場合などに手術を検討する点は、粉瘤と似ているといえるでしょう。
石灰化上皮腫
石灰化上皮腫は、毛母細胞から発生する良性の皮下腫瘍です。毛母細胞は毛の根本に存在し、毛髪・体毛のもとになります。
毛母細胞から腫瘍が発生する原因はわかっていないため、予防は困難な病気といえるでしょう。
石灰化上皮腫を発症すると、皮膚の一部が石灰のように硬いしこりになります。無症状のケースも多いですが、押すと痛みを感じる場合もあります。
硬い・腫瘍表面に凹凸があるなどの特徴は悪性腫瘍と似ていますが、腫瘍自体に可動性がある点が悪性腫瘍と石灰化上皮腫を判別する目安です。
ただし、石灰化上皮腫であっても可動性が悪い場合や、皮膚の表面が破裂した場合などは悪性腫瘍との判別が難しいでしょう。
小児・若年者に好発し、顔・首・腕によくみられます。主な治療法は摘出術で、小学校高学年以上の場合は局所麻酔での日帰り手術が可能なケースが多いです。
癤・せつ(おでき)
できものの正式名称は癤(せつ)といいます。粉瘤の場合は本来は存在しない袋状の構造物が原因ですが、癤はもともとある毛穴に膿が溜まることで発症します。
膿が溜まる原因は、黄色ブドウ球菌という細菌による感染です。黄色ブドウ球菌は食中毒の原因になることもありますが、健康な方の20%が常在菌として保菌しているといわれています。
症状は炎症を起こした粉瘤に似ているものの、毛穴が病巣となっているため炎症がおさまれば自然に治癒し、手術などは必要ありません。
まとめ
粉瘤は良性腫瘍ですが、徐々に腫大して生活に支障が出る・炎症を起こして痛みがあるなどの場合には、手術により摘出する場合もあります。
なお、粉瘤はニキビなどのようにつぶしたり放置したりしても、自然に治癒することはほとんどありません。また、発生メカニズム・外見が似ている疾患がいくつかあります。
そのため、適切な治療をするには、まず医療機関での検査・診断を受けることが大切です。気になる症状があれば、まずは皮膚科を専門とする医療機関へ受診してみましょう。
参考文献
- Q1 毛が伸びる、または生えかわる仕組みはどのようになっているのでしょうか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- Q2 イボ(ウイルス性疣贅)は、どうしてできるのですか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- Q8 よく似た皮膚腫瘍で注意したほうがよいものはありますか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- Q9 治療はどうしますか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- まぶたの腫瘍(できもの)|札幌医科大学 形成外科学教室
- 側頚嚢胞|一般社団法人 日本形成外科学会
- 正中頚嚢胞|一般社団法人 日本形成外科学会
- 毛巣洞|一般社団法人 日本形成外科学会
- 石灰化上皮腫|一般社団法人 日本形成外科学会
- 外歯瘻の3例ー医科的に診た経過と病期的考察ー
- ケロイドおよび肥厚性瘢痕の予防と治療法
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus)|日本細菌学会
- 症状・病気をしらべる|公益社団法人 日本整形外科学会
- 皮膚腫瘍|一般社団法人 日本形成外科学会
- ほくろ(色素性母斑:Pigmented nevus)|独立行政法人 労働者健康安全機構 岡山ろうさい病院
- Q2アテロームにはどんな種類がありますか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- Q1アテロームとはどんなものですか?|公益社団法人 日本皮膚科学会
- 「術後感染症」|公益社団法人 日本整形外科学会