小腸はほかの臓器のように発症する疾患はあまり多くありません。しかし検査を行っていないと、疾患の発見が遅れて治療が困難になる可能性があります。
小腸に対する検査方法はいくつかあり、なかでも病変が直接確認しやすい内視鏡検査は疾患の早期発見に役立ちます。とはいえ検査が不安な方もいるでしょう。
そこでこの記事では、内視鏡による小腸検査の特徴を取り上げます。カプセル・ダブルバルーン内視鏡検査を受ける際の参考にしてください。
内視鏡の小腸検査について
日本は消化器内視鏡の分野で常に世界を牽引しています。ファイバースコープ初期の時代から、全消化管を内視鏡で観察しようと試みられてきました。
全小腸内視鏡検査が日本で成功したのは1971年です。それからロープウェイ方式とのちに開発されたゾンデ方式が、小腸検査を担ってきました。
とはいえ、小腸はほかの臓器程は発症する疾患が多くない器官です。腫瘍ができても良性の割合が大きいために、あまり検査が重視されていませんでした。
そのため、小腸疾患が疑われる場合は腹部CT・シンチグラム・X線検査などで初期診断を行い、必要に応じて術中内視鏡検査が行われるのが通常でした。
21世紀に入り、すでに確立されていた内視鏡による小腸検査に新たに加わった検査方式が、カプセル内視鏡ならびにダブルバルーン内視鏡です。
これらの方式の開発により、小腸疾患の初期診断から確定診断までを内視鏡で行えるようになりました。外科的手術が必要な症例でも治療の幅が広がっています。
思いがけない小腸疾患に悩まされないためにも、内視鏡の小腸検査は積極的に行うようおすすめします。この記事を参考に小腸検査への理解を深めてください。
カプセル内視鏡の小腸検査の特徴
カプセル内視鏡は小腸疾患の初期診断に役立つ検査方式です。従来の内視鏡のイメージを覆す手軽さがあり、医療現場で大きな役割を担っています。
患者さんにとっても利用しやすいカプセル内視鏡の特徴をご紹介します。メリット・デメリットもよく確認しておきましょう。
カプセル型の内視鏡を飲んで検査を行う
カプセル内視鏡検査は名称のとおり、外径11mm・全長26mmのカプセル型をした内視鏡を、患者さん自身が飲み込んで行う検査です。
カプセルにはカメラ・バッテリーならびに腸内を照らす光源が内蔵されており、消化管の蠕動(ぜんどう)運動によって移動しながら、1秒間に2枚撮影します。
検査にかかる時間は約8時間で、合計約6万枚の撮影が可能です。撮影された画像はカプセル本体から順次画像を記録するレコーダーに蓄えられていきます。
撮影終了後、医師が画像データを専用のコンピュータを用いて読影・診断します。カプセルは排便とともに自然と排出され、回収もしやすいです。
検査による苦痛が少ない
カプセル内視鏡はやや大きいビタミン剤を飲むようなイメージで行えるため、内視鏡検査に不慣れな患者さんも抵抗を感じずに受けられるでしょう。
また内視鏡検査でよくみられるチューブ挿入による違和感・不快感を避けられ、患者さんの苦痛を軽減できる点も優れています。
長時間にわたる検査ですが、嚥下してから1〜2時間後には病院を出られます。通常の生活に戻れるため、検査終了まで緊張感に悩まされないでしょう。
しかし、カプセル内視鏡が2週間以上腸管内で滞留した場合、内視鏡的または外科的処置が必要になる可能性があります。誤嚥による気道閉塞の危険も伴います。
このような偶発症を回避するために、腸閉塞の患者さん・ペースメーカー装着者・妊婦は検査の適用外です。滞留時の開腹手術に同意しない方も検査が行えません。
組織の切除や治療はできない
カプセル内視鏡は病変を観察・指摘するのに主な有用性があり、経過観察にも優れています。病変部位の位置・性格を推定するのに役立つ検査です。
しかし、カプセル本体で検査中に発見した病変組織の切除・治療を行ったり、生検し組織学的に確定診断したりする機能はありません。
検査によって症状の原因疾患が推定されても、確定診断するにはほかの検査を受けなければならず、治療完了まではさらに時間がかかってしまいます。
小腸の奥までは観察できないこともある
従来の内視鏡検査であれば医師の判断で病変が疑われる箇所を重点的に調べられますが、カプセル内視鏡はカプセルが通過している箇所しか撮影できません。
小腸全体をスクリーニングし、責任病変ではない微小病変を指摘するのが得意な一方、小腸の奥にある病変を見落とす可能性があります。
特に粘膜に異常が認められない病変は指摘しにくいです。この致命的な欠点を補うために、病変部位にアプローチできる自走機構搭載の研究が行われています。
ダブルバルーン内視鏡の小腸検査の特徴
ダブルバルーン内視鏡は、カプセル内視鏡とは異なる性質を持つ方式です。より精密に小腸を調べられ、治療の選択肢を広げてくれます。
小腸疾患でどのような役割を果たしているのかを知るために、ダブルバルーン内視鏡の用い方・特徴を取り上げます。
経口または経肛門で挿入する
ダブルバルーン内視鏡の挿入箇所は、経口または経肛門の2種類です。検査前に病変部位が推定される場合は、近い方から挿入箇所されます。
経口挿入・経肛門挿入の両方行えば、小腸全体の検査が可能です。2回の検査による身体の負担は大きいものの、より丁寧で精密な検査が行えて効果的です。
経肛門挿入の方が患者さんにとって楽に受けやすいため、基本的に経肛門から可能な限り深部まで検査し、小腸の約3分の2を観察します。
その際、目印のために少量の墨を粘膜下層に注入しておき、後日残りを経口経由で観察します。こうして経口挿入での検査時間を短くするのがよいです。
なお、負担を軽減するために鎮痛剤・精神安定剤なども使用されます。痛み・不快感が心配な方は前もって医師に伝え、万全の状態で受けましょう。
2つのバルーンを伸縮させることで進めていく
ダブルバルーン内視鏡の名称は、内視鏡ならびにオーバーチューブの先端にそれぞれ付いた2つのバルーンを伸縮させることです。
通常、小腸に内視鏡を押し込むとシャフトで屈曲した腸管が引き伸ばされ、奥まで挿入するのが難しくなります。
そこで、オーバーチューブ先端のバルーンが腸管の把持固定に役立ちます。オーバーチューブが挿入されている分だけ、内視鏡がスムーズに進むのが特徴です。
また、さらに奥を検査するにはオーバーチューブも深く挿入する必要があります。その際に内視鏡が抜けてこないよう、内視鏡先端のバルーンを膨らませます。
2つのバルーンを状況に応じて伸縮させるため、2mもの長い内視鏡でありながら操作性に優れ、カプセル内視鏡が通過できない患者さんも検査可能です。
X線透視で位置を確認しながら行う
検査中、医師はX線透視下にて内視鏡の進み具合・位置を確認しながら、手元のコントローラーでカメラを操作し挿入を進めます。
X線透視により、内視鏡が深部まで挿入できない症例や腹部手術後で癒着がみられ挿入が困難な場合にも、無理に進めて腸管を傷付けるリスクを避けられます。
挿入に時間がかかると患者さんの負担が大きくなるため、X線の併用が重要です。さらに、抜去時にも病変・癒着部位を刺激するのを予防できます。
止血やポリープの切除なども可能
ダブルバルーン内視鏡がカプセル内視鏡と大きく違う点は、外科的処置が行える点です。検査中に出血部位が見つかれば、内視鏡的止血術を速やかに行えます。
また、出血部位に留まり洗浄・色素散布しての観察、超音波ミニプローブを用いた精査も可能です。検査中に出血が生じても中断する必要がありません。
さらに腫瘍・狭窄が見つかった場合は、造影剤を注入しての選択的造影ならびに組織生検が行えるため、その後の検査を効率よく進められる点も利点です。
そのほかの主な治療は、小腸狭窄部位でのバルーン拡張術ならびにポリープの切除術です。すぐに治療が必要な症例でも滞りなく治療を行えます。
バルーンの内圧をコントロールしながら検査から治療まで一連で行える特徴から、身体が小さな小児患者さんの治療にも適した検査方法です。
カプセル内視鏡で異常が見つかった場合の精密検査として行われることも
ダブルバルーン内視鏡による小腸検査は単体で行われるだけでなく、カプセル内視鏡で異常がみられた患者さんの精密検査で用いられるケースもあります。
例えば原因不明の消化管出血が疑われる場合で出血がすでに止まっている、あるいは非顕性出血の症例ではまずカプセル内視鏡で病変の存在診断を行います。
その際に病変が確認されてから、ダブルバルーン内視鏡で質的診断・治療を行うのが一般的です。異常がなくても症状が続く場合は追加検査を検討します。
大きく異なる特性を持った検査方法のため、患者さんの病状・身体的負担を考慮しつつ状況に応じて併用するのが有効です。
内視鏡の小腸検査の流れ
カプセル内視鏡ならびにダブルバルーン内視鏡はどちらも小腸内を直接観察できるものの、検査方式が異なるために検査の流れにも違いがあります。
実際に小腸検査を行う前に検査の流れを知っておくなら、余裕を持って検査を受けられるでしょう。各検査の前日〜当日の手順を解説します。
カプセル内視鏡検査の流れ
カプセル内視鏡検査を受ける患者さんは約8時間の絶食が必要のため、前日の午後10時までに食事を終えましょう。食事は消化のよいものにしてください。
検査当日は身体の状態を問診したのち、血圧・脈拍などのバイタルサインを測定します。緊張する必要はないため、ぜひリラックスして受けましょう。
問診が終了したら、患者さんの体表にセンサアレイ(アンテナユニット)を8箇所貼ります。センサアレイは画像記録用のレコーダーに接続されます。
レコーダーを入れたポーチを身体に装着してから、患者さん自身でカプセル内視鏡を飲みましょう。嚥下2時間後には飲水、4時間後には軽食が可能です。
カプセルが大腸まで達したら検査終了です。病院にセンサアレイ・レコーダーを持参し、後日検査結果が伝えられます。
ダブルバルーン内視鏡検査の流れ
ダブルバルーン内視鏡の場合、身体への負担が大きいため基本的に入院が必要です。前日に入院し、経口・経肛門のどちらから挿入するかが決定されます。
まず、前日の午後9時以降は水・白湯の飲水を除き絶食します。検査に続いて治療する可能性があるため、義歯・金属類はあらかじめ外してください。
経口挿入を受ける方で内服薬を服用している場合は、検査開始の3〜4時間前までに内服しましょう。検査当日は検査前に洗浄剤を1リットル内服します。
一方、経肛門挿入では就寝前に下剤の内服が必要です。当日朝には洗浄剤を2リットル内服し、便スケール4〜5と確認されてから昼頃より点滴を開始します。
検査の所要時間は約1〜2時間です。状況に応じて生検・外科的処置が順次進められ、検査後2日目には退院できるでしょう。
外来で受ける場合でも、万が一の事故に備えて付き添い同伴で受診してください。合併症が心配される際は緊急入院となる可能性がある点も覚えておきましょう。
内視鏡の小腸検査で見つかる可能性がある疾患は?
内視鏡の小腸検査で見つかる可能性がある疾患は、病変のタイプによって分類されます。代表的な疾患は、出血性病変・小腸腫瘍・小腸潰瘍です。
小腸腫瘍では良性ポリープの割合が大きいものの、なかにはがんあるいは悪性リンパ腫が見つかるケースもあります。
またダブルバルーン内視鏡で小腸狭窄が認められた場合の原因疾患は、炎症性疾患が半数以上を占めます。主な炎症性疾患は以下のとおりです。
- クローン病
- ベーチェット病
- 腸結核
- NSAIDs起因性小腸傷害
小腸は生体恒常性を維持する機能を持ち、全身と深く関係があります。そのため、以下の全身性疾患に伴う小腸病変にも内視鏡検査が重視されています。
- アミロイドーシス
- 膠原病
- 消化管ポリポーシス
- IgA血管炎
さらに、吸収不良症候群・蛋白漏出性腸症のように原因が多岐にわたる疾患でも、内視鏡検査および生検による病理検査が診断に有効です。
症状が似ていて原因をはっきりと判別するのが難しかった疾患も、内視鏡検査により診断しやすくなっています。積極的に検査を受けるようおすすめします。
内視鏡の小腸検査の費用相場
身体の不調が気になっていても、検査費用を心配してためらってしまう方もいるでしょう。一方、費用を知っていると検査を受けやすくなるかもしれません。
ここからはカプセル・ダブルバルーン内視鏡検査でかかる費用相場を、検査ごとにご紹介します。検査を受ける際の目安にしてください。
カプセル内視鏡検査の費用相場
カプセル内視鏡の場合は検査・診断料に約17,000円(税込)、内視鏡機器代に約80,000円(税込)かかります。よって、全体で約100,000円(税込)となる見込みです。
しかし保険適用となるため、3割負担で約30,000円まで費用を抑えられます。この費用相場は検査のみであり、診察料は別途加算されます。
保険の適用条件は受ける施設および患者さんの状況により異なるため、受ける前に前もって確認しておくのがよいでしょう。
ダブルバルーン内視鏡検査の費用相場
厚生労働省が発表している医科診療報酬点数表によると、ダブルバルーン内視鏡は6,800点です。1点の単価は10円のため、検査費用は68,000円となります。
保険適用された場合の自己負担額は、3割負担で約20,000円です。ただし、入院での検査となれば別途入院費が必要になるでしょう。
さらに外科的処置が行われた患者さんは、処置の内容によって費用が大きく変動します。上記の価格はあくまで検査のみとご理解ください。
まとめ
この記事では、内視鏡による小腸検査の種類ごとに特徴・流れ・費用を解説しました。小腸検査の理解を深めるのに役立てられたでしょうか。
一般的に小腸疾患はあまりなじみがなく、検査への意識も向きにくいでしょう。しかし、検査を行うなら疾患の早期発見・早期治療につながります。
検査は患者さんの日常を守るために大切です。小腸検査の経験がない方、または腹部に不調を感じる方はぜひ内視鏡の小腸検査を受けてみてください。
参考文献