肛門の3大疾患の一つに数えられる切れ痔は、罹患者数がいぼ痔(痔核)に次いで2番目に多い病気です。繰り返して切れるうちに慢性化し、肛門が細くなって排便に支障が出る場合もあります。
出血よりも痛みで気付くことが多く、排便の都度痛みに襲われる辛い病気です。この記事では切れ痔(裂肛)の原因や症状・治し方を解説します。
そして、病院ではどのような治療方法が採られるのか、病院へ行くタイミングや予防法も紹介しましょう。悪化させると苦痛も大きく長引くので、早めの受診がおすすめです。
切れ痔(裂肛)の原因
切れ痔(裂肛)は、便通と深く関わります。バナナ状の重量・外観の便が毎日出ていれば問題ありませんが、以下の便や便通なら要注意です。
- 硬い便
- 便秘
- 慢性的な下痢
便と切れ痔の関係を詳しく解説します。
硬い便
便が硬い場合はなかなか排便しにくく、力を込めて出さざるを得ません。そのときに通過する硬い便によって、肛門の皮膚(肛門上皮)にできる裂傷・びらん・潰瘍が切れ痔(裂肛)と呼ばれます。
便秘の方や、毎日便通があっても硬い便の方に多くみられます。便が硬くなるのは大腸で水分が必要以上に吸収されることや水分の摂取不足のためです。
切れ痔(裂肛)になると、一般的に裂けた部分に痛みが生じます。そのために便意があってもトイレに行くのがためらわれ、それがさらに便を硬くする方向に働きます。
その結果、裂け目が深くなるとか新しい裂肛ができるなどの悪循環に陥りやすいのも特徴です。
硬い便は食生活の影響を強く受けるほか、利尿薬による水分の排出促進作用によってもみられます。また、抗コリン薬・鉄剤・制酸剤などの作用で腸管の動きが抑制され、便の滞留時間が長くなり水分の吸収が進むことも便が硬くなる原因です。
便秘
便秘で切れ痔(裂肛)になるのは、排便時に強くいきむことで肛門に圧力がかかって裂けたり傷ついたりするためです。
便秘になると、数日に一度かさらに長期間にわたって排便がありません。肛門付近に溜まった便で不快感があり、何とか出そうとして何度もトイレに入りいきむことを繰り返します。
いきむ圧力に耐えられず、肛門上皮が裂けるのが切れ痔(裂肛)になる原因です。こうした状態では、便秘を改善しない限り肛門への圧力がかかり続けます。
したがって症状は改善しにくく、悪化する一方です。そして慢性化すると、切れ痔(裂肛)の裂け目が深くなり、いぼやポリープ・肛門狭窄などの症状がおこります。
便秘にはいくつかの種類があるなかで、自律神経の乱れが原因の痙攣性便秘・排便反射が弱い直腸性便秘が硬い便に多くみられる原因です。
また、水分不足も原因になり、1日2リットル以上の水分摂取が推奨されています。
慢性的な下痢
切れ痔(裂肛)は下痢も原因の一つです。
下痢による水様便が勢いよく排出されるとき、肛門付近にある細い血管の集まり・動静脈叢(どうじょうみゃくそう)に負担をかけ、肛門上皮に傷がつきやすい状態を作ります。
この傷は擦り傷といっていいもので、洗浄便座の水流が強い場合でもおこる可能性があります。
下痢が続くと切れ痔(裂肛)ができ、慢性的に下痢が続く状態では治りにくい疾病です。便秘がちで定常的に下剤を使い、日頃から下痢状の便を排出している場合によくみられます。
切れ痔(裂肛)の症状
痔では痛みや出血が代表的な症状ですが、進行・悪化するにつれてさまざまな症状が増えてきます。切れ痔(裂肛)では下記のような症状です。
- 痛み
- 出血
- いぼ・ポリープ
- 肛門狭窄
順に詳しく解説します。
痛み
切れ痔(裂肛)ができるのは、直腸と肛門の境界にあるギザギザ状の歯状線の肛門側が一般的です。
この部分は皮膚組織のため痛覚があり、切れ痔(裂肛)によって損傷すると肛門痛を感じます。痛みの感じ方には個人差があり、強い痛みを感じる方からほとんど感じない方までさまざまです。
痛みは排便中から排便後にかけておこり、排便後も数時間痛みが続く場合もみられます。初期では切れた場合に鋭い痛みがあり、排便が終わると治まるのが一般的です。
何度も切れるうちに慢性化して傷が治りにくくなり、次第に深くなっていきます。傷が肛門上皮の下の肛門括約筋まで達し、排便後も痛みが長時間続く状態です。
排便時・排便後には、刺激で肛門括約筋の緊張・痙攣によるジンジンする痛みが続きます。さらに進んだ状態が、傷が炎症をおこして強い痛みに襲われる肛門潰瘍です。
出血
痛みとともに特徴的な切れ痔(裂肛)の症状は出血ですが、出血する量は多くありません。トイレットペーパーに鮮紅色の血液が付く程度で、多くても数滴したたる程の出血です。
出血が始まるのは排便中ですが、多くの方は出血には気付きません。排便後にペーパーを見て初めて出血を認める場合がほとんどです。
いぼやポリープ
切れ痔(裂肛)が慢性化するにつれ、傷が深く潰瘍化して治りにくくなります。周辺組織も次第に硬く変化し、傷の周辺が盛り上がっていぼ状のものができます。
裂肛の傷より外の肛門側にできる見張りいぼと呼ばれるもので、痔核(いぼ痔)とは違い痛みはありません。この見張りいぼができると、傷の修復は難しい段階と判断されます。
同じ時期に、見張りいぼとは逆の直腸側にできるのが肛門ポリープです。歯状線より内側の粘膜上にできるもので、痛みは感じません。
このポリープも見張りいぼと同じでき方で、何度も繰り返して切れた周辺組織が硬くなって盛り上がったものです。
サイズは米粒大から手の指先大まであり、傷を越えて肛門外まで出てくることもあります。悪性化せず放置可能ですが、裂肛の手術があれば同時に切除します。
肛門狭窄
いぼやポリープと同様に、慢性化した切れ痔(裂肛)に伴う症状です。繰り返して切れた裂肛の傷が潰瘍化・瘢痕化した結果、肛門が狭くなった状態で排便に支障が出ます。
健全な肛門はペットボトルの先端程の太さの便が通過できます。しかし、狭窄をおこした肛門では小指程の太さの便しか出せません。
肛門狭窄で排便困難になれば、再び切れ痔(裂肛)から潰瘍・瘢痕化への悪循環に陥ります。瘢痕化した部分は伸縮性が失われていて、対応は手術です。
切れ痔(裂肛)の治し方
切れ痔の治療は市販薬によるセルフケアと、肛門科の病院を受診する方法があります。それぞれ解説しましょう。
市販薬を使用する
切れ痔(裂肛)は初期のうちであれば、市販薬を使用して治せる可能性があります。近くのドラッグストアで売っている注入軟膏などを試してみてください。
切れ痔の市販薬では外用薬が中心です。痛み・出血・腫れ・かゆみなど切れ痔の症状を緩和する効果が期待できます。
剤型は軟膏・注入軟膏・坐剤があり、痔の種類・症状により使い分けてください。内服薬もあり、こちらは体内から作用して出血・痛み・炎症を抑える効果が望めます。
また、切れ痔の治療は便秘対策も必須です。市販薬では便をやわらかくして習慣性がないマグネシウム剤をおすすめします。
市販薬は長期使用せず、外用では1週間使って改善しなければ病院治療に切り替えてください。
出血や痛みは痔とは限らず別の病気の可能性があるので、市販薬の長期使用は危険です。
病院を受診する
市販薬をしばらく使っても効果が思わしくない場合は、早目に病院を受診してください。
受診するのは肛門外科か肛門内科が適切です。痔の治療は専門性が高く、適切に対処しないと長引かせてしまうことになりかねません。
肛門外科や肛門内科には必要な設備が整っていて、迅速な診断と適切な処置が行えます。痔で病院へ行けば即手術というイメージを抱きがちですが、実際はそうではありません。
かなり進行して受診したのではない限り、手術は最終手段です。まずは原因である便秘の解消から始めます。
問診や診察で状況を把握した後は、原因となる生活習慣の改善や薬物を使って経過をみます。多くはそれでよくなりますが、1割程度は手術の対象です。
切れ痔(裂肛)の病院での治療方法
切れ痔(裂肛)治療で病院を受診した場合、治療方法は保存療法と手術療法の2つです。初期であれば保存療法が優先され、すでに進行している場合は手術療法が選択されます。それぞれの治療法を解説しましょう。
保存療法
切れ痔(裂肛)の治療は基本的に保存療法です。便秘や下痢を防ぎながら薬で傷を治す方法で、正常な便通を取り戻す生活療法と薬物療法に分けられます。
生活療法では、いきまず短時間で済ませる規則的な排便習慣と、水分と繊維質の多い食生活が必須です。必要なら緩下剤や整腸剤などを使い、硬い便からやわらかく流動性が高い便に改善します。
また、下痢対策では暴飲暴食・アルコール・冷たい飲み物を控え、整腸剤・ヨーグルト・納豆などの摂取が有効です。すでにできてしまった裂傷に対しては、出血を抑える薬や消炎鎮痛作用がある薬・傷口を保護する薬による薬物療法が行われます。
手術療法
初期の切れ痔から何回も切れ続けているうちに慢性化して、組織が厚く硬く(繊維化・瘢痕化)なってきます。
周辺に肛門ポリープやいぼができ、肛門の内径が狭くなって肛門狭窄がおこると選択肢は手術しかありません。手術は以下の4種類です。
- 用手肛門拡張術:傷の刺激で肛門を締める肛門括約筋が過度に緊張して痛みが継続する場合に、手指で括約筋を広げる手術
- 側方皮下内括約筋切開術(LSIS):上記の手術で手で広げずに切開する手術・合併症に便失禁がある
- 裂肛切除術:傷が硬く深く治りにくい場合に傷全体を切除
- 皮膚弁移動術(SSG):硬い傷を裂肛切除術で切除し、その跡を周囲の皮膚で覆う
これらの手術で痛み・慢性化が解消しますが、再発の可能性は残ります。
切れ痔(裂肛)で病院を受診する目安
切れ痔(裂肛)は急性期と慢性期に分けられます。急性期の特徴は以下のとおりです。
- 痛みや出血は排便時だけ
- 硬い便や便秘時におこる
- 4~5日で治まる
この急性期では、便秘を避けて肛門周辺を清潔にしていれば数日で治ります。基本的に病院を受診する必要はありません。しかし、急性期の適切な対応を誤って悪化すると慢性期へ移行します。
そうなるとセルフケアはできず、病院での治療になります。慢性期の特徴は以下のとおりです。
- 排便の後も痛みが持続する
- 傷が治りにくくなる
- 肛門ポリープ・見張りいぼが傷の近くにできる
- 肛門が潰瘍化して狭くなり便が細くなる
自分ではわからない部分もありますが、痛みや出血が数日で治まらなくなれば慢性化が進んでいます。これを病院へ行って受診する目安としてください。
切れ痔(裂肛)を予防する方法
切れ痔(裂肛)は痛みがつらいので、できれば経験したくありません。切れ痔の原因は日常生活のなかにあるので、そこを抑えれば予防ができます。そのポイントを3つ紹介しましょう。
排便時に強くいきまない
排便時にあまりいきまないのが切れ痔予防のポイントです。
いきむと肛門上皮が切れて切れ痔になります。いきまなくても出せるやわらかい便にするため、水分を十分に補給して食物繊維・乳酸菌が多い食物を積極的に摂ってください。
また、毎朝定期的に排便する習慣をつけます。朝は時間に余裕をもって起き、すぐにコップ1杯の水を飲むのがコツです。
水による胃への刺激が腸にも伝わり、蠕動(ぜんどう)運動のスイッチが入ります。毎日朝食をきちんと摂ってトイレに行くように習慣づければ、自然に便意がおこるはずです。
便秘や下痢にならないように注意する
便秘は便が硬くなる原因になり、その硬い便を出す時の強いいきみが切れ痔につながります。また、下痢は肛門への刺激物になり、肛門上皮に炎症・ただれ・裂傷を作る原因です。
こうした便通の異常が切れ痔に直結するので、予防には日常生活面で便通を整えることが大切になります。
便秘には生活習慣の影響が大きく、前項で紹介した、いきみ対策が便秘対策でもそのまま有効です。繰り返す慢性的な下痢では、病気でなければストレスなどによる過敏性腸症候群の可能性があります。
この対策は暴飲暴食・高脂肪・刺激物を避けて、乳酸菌を積極的に摂ることで改善が望めます。
冷えに注意する
腰回りが冷えると血流が滞り、腸の活動が抑制されて切れ痔(裂肛)の原因になる便秘・下痢を誘発しやすくなります。
切れ痔予防には冷えへの対策が大切で、冬はもちろん夏もエアコンの冷え過ぎに注意が必要です。毎日入浴して腰を温めると、肛門周りの清潔さも維持できます。
そのため入浴は切れ痔予防に大変有効な方法です。シャワーではなく、ぬるめでいいので浴槽にゆっくり浸かることをおすすめします。
寒い冬は使い捨てカイロを下着の上から肛門部に当てて、保温に努めてください。
まとめ
切れ痔(裂肛)では強い痛みに悩まされます。硬い便や排便時のいきみ・下痢などによって肛門付近が傷つき、裂けて痛みや出血がおこる病気です。
ここまで切れ痔(裂肛)の原因や治し方・予防法を紹介しました。原因は便通の異常で、治療は便通を正常に戻しながら傷の修復を図る治し方です。
ごく初期なら便通の改善と市販薬で治せても、基本は病院での保存的治療で手術は全体の1割といわれます。
排便時に痛みを感じたら、まず便通の改善に取り組んでください。早目の対応がいい結果をもたらしてくれるでしょう。
参考文献