下肢静脈瘤は足の血管が膨れて、網目状やこぶ状に浮き上がって見える病気です。日本での患者数は1,000万人以上とされており、身近な病気の1つといえるでしょう。
下肢静脈瘤を発症すると、足のむくみや痒みなどの症状が現れます。重症化すると皮膚炎や潰瘍が起こり手術が必要となるケースがあるため、注意が必要です。
今回の記事では、下肢静脈瘤の改善方法・治療方法について詳しく解説します。また、予防方法も紹介するので、下肢静脈瘤の疑いがある場合はぜひ参考にしてください。
下肢静脈瘤の原因や症状
- 下肢静脈瘤とはどのような病気ですか?
- 下肢静脈瘤とは、足の静脈が膨れて太くなり、網目状やこぶ状に浮き上がって見える病気です。なお、静脈とは全身に送られた血液を心臓に戻す血管です。
足の血液は心臓よりも下にあるため、足の静脈の血液が心臓に戻るには重力に逆らって上昇する必要があります。そこで、ふくらはぎの筋肉がポンプのような作用をすることで心臓の方に血液を流します。
また、血液が逆流しないためには、静脈内にある血液の逆流を防ぐ静脈弁が欠かせません。しかし、何らかの原因で静脈弁が壊れたり弁の機能が弱まったりすると、血液が逆流しやすくなります。
そのため、静脈に血液が滞り静脈が膨れて瘤(こぶ)になり下肢静脈瘤が発生するのです。下肢静脈瘤は命に関わる危険性はほとんどありませんが、足がだるくなったりむくんだりするため生活に支障を来す可能性があります。
- 下肢静脈瘤の原因を教えてください。
- 下肢静脈瘤の原因ははっきりわかっていませんが、何らかによって足の静脈が圧されたり静脈弁に負担がかかったりすることで発生すると考えられています。
また、以下のような要素が発生に関与しているといわれています。- 加齢
- 肥満
- 立ち仕事・デスクワーク
- 妊娠・出産
- 激しいスポーツ
- 遺伝
加齢に伴い静脈弁の機能が低下するため、下肢静脈瘤が発生しやすいとされます。
実際に年齢が高いほど発生する確率が高くなるようです。肥満の方はお腹にたまった脂肪によって腹圧が上がることで、足の静脈に負担がかかりやすくなります。また、肥満の方の多くは運動不足の傾向にあるため、筋肉のポンプの作用が弱く発症する可能性もあるでしょう。
立ち仕事やデスクワークでは長時間同じ姿勢を続けているため、血流が滞りやすく静脈瘤ができやすいとされます。足に負担のかかるスポーツをしているもしくは過去に足の怪我をしたことがある場合も、発症するケースがあるようです。
さらに発症する可能性があり、生まれつき静脈弁の機能が悪い・足の血流が滞りやすい方は注意が必要です。
- どのような症状が出るのですか?
- 下肢静脈瘤では、足が疲れやすくなる・重だるさを感じる・痒みや痛みを覚える・むくむといった症状が現れます。
ただし、初期では症状がほとんどないケースもあるようです。症状が進行すると、皮膚や静脈に炎症が起こり湿疹が生じます。また、皮膚の色が黒っぽくなる色素沈着・皮膚が硬くなる皮膚硬結が起こります。
さらに、重症化すると皮膚や粘膜が傷つきえぐれた状態になる潰瘍が発生するのです。
- どちらかといえば女性に多いのはなぜですか?
- 下肢静脈瘤が女性に多いのは、妊娠や出産がある・筋肉量が少ない傾向にあるからです。
妊娠すると女性ホルモンが増加します。女性ホルモンには血管を拡張させる作用があるため、静脈が太くなることで静脈弁の機能が弱まり血液が逆流しやすくなります。妊娠が進むと子宮が大きくなり骨盤や下腹部の静脈が圧迫され、足から心臓に戻る血液の流れが滞り静脈瘤が起こりやすくなるのです。
また、足の筋肉量も静脈瘤の起こりやすさに関係していると考えられます。一般的に女性は男性に比べて筋肉量が少なく、足の血液を心臓に戻す際に役立つふくらはぎのポンプの作用が弱くなりやすいとされます。
実際に下肢静脈瘤の患者数は、男性よりも女性の方が数倍多いようです。また、妊娠や出産経験のある女性の半数が発症するという報告もあります。
下肢静脈瘤の改善方法や治療方法
- 下肢静脈瘤は自然に改善するのですか?
- 下肢静脈瘤は、自然に改善するのが難しいとされます。そのまま放置していると、徐々に症状が悪化し手術が必要となる可能性があります。
そのため、下肢静脈瘤の発症に気付いたら早めに治療をすることが大切です。
- セルフケアで改善できる方法はありますか?
- 日常生活では、下肢静脈瘤の発症に関連していると考えられる要因を解消することがポイントです。
長時間の立ち仕事やデスクワークをしている場合は、長時間同じ姿勢で過ごすことを避けるように心がけましょう。足のマッサージやストレッチも改善効果が期待できます。
足を心臓よりも高くして休憩したり寝たりすると、足の血液が心臓へ流れやすくなります。また、肥満も下肢静脈瘤を引き起こす要因となるため、肥満に該当する方は減量に努めることが望ましいです。
- 根本的に改善するためには医療機関の受診が必要ですか?
- 下肢静脈瘤を根本的に治療するためには、医療機関の受診が必要となります。
日常生活でのセルフケアは進行の抑制・症状の緩和につながりますが、完治が難しいとされます。また、下肢静脈瘤にはいくつか種類があり、種類によって治療法が異なるため医療機関を受診し正確な診断をしてもらう必要があるでしょう。
- 医療機関での下肢静脈瘤の治療法を教えてください。
- 医療機関で行う治療法は圧迫療法・手術・硬化療法です。
圧迫療法とは、弾性ストッキングを着用して足を圧迫する方法です。弾性ストッキングが筋肉のポンプのような役割を果たすことで、足の血流が促進され症状の改善が期待できます。圧迫療法は、進行の抑制・再発防止の目的で行われることが多いようです。
下肢静脈瘤の手術には、静脈を抜き取るストリッピング手術・静脈を縛ることで逆流を止める高位結紮術などがあります。主に、伏在静脈という太い静脈に発生している静脈瘤に対して行うケースが多いとされます。
また、硬化療法とは静脈瘤の中に硬化剤という薬剤を注入して血管を固めることで、静脈瘤を消失させる治療法です。主に、細い静脈に発生している静脈瘤に対して実施されます。
実際の治療では、患者さんの希望・下肢静脈瘤の種類によって治療法を選択します。基本的にいくつかの治療法を組み合わせて行うことが多いようです。
下肢静脈瘤の予防方法や日常生活での注意点
- 下肢静脈瘤を予防する方法はありますか?
- 下肢静脈瘤を予防するためには、足の血流が滞らないようにすることがポイントです。主な予防法として以下の5つが挙げられます。
- 長時間の同じ姿勢を避ける
- 適度な運動をする
- 足のマッサージをする
- バランスのよい食事を摂る
- 弾性ストッキングを使用する
長時間にわたり同じ姿勢で過ごしていると、足の血流が滞り下肢静脈瘤を招く可能性があります。立ちっぱなしや座りっぱなしを避け、1時間に1回はトイレに行く・座りながらかかとの上げ下げを行うとよいでしょう。
また、普段運動をしない場合はウォーキングやサイクリングなどのふくらはぎを動かす運動を取り入れることもおすすめです。なお、運動が難しい場合は、足のマッサージも有効とされています。
また、栄養バランスのよい食事を摂り、規則正しい生活を送ることもポイントです。自身の生活習慣を見直し、できるところから改善するとよいでしょう。
- 日常生活で注意することがあれば教えてください。
- 下肢静脈瘤では、一度静脈弁が壊れると自然に治ることも治すこともできません。そのため、下肢静脈瘤を予防するには早期発見が重要です。
いつもより足が疲れやすい・むくんでいる・つりやすいなど気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
編集部まとめ
下肢静脈瘤は、静脈弁の機能不全や損傷により足の静脈がこぶ状に膨れてしまう病気です。
命の危険はほとんどありませんが、放置していると進行し皮膚炎や潰瘍を引き起こし
日常生活に支障を来す可能性があります。そのため、早期発見・早期治療が大切です。
下肢静脈瘤の治療では、患者さんの希望や状態に合わせて圧迫療法・手術・硬化療法を組み合わせて行います。また、足のマッサージ・肥満の改善・適度な運動などのセルフケアも重要です。
さらに、立ち仕事やデスクワークは下肢静脈瘤を招く要因となるため、長時間にわたり同じ姿勢で過ごさないように心がけましょう。
いつもより足が疲れやすい・重だるい・むくんでいるなど、気になる症状がありましたら血管外科や専門の医療機関を受診してください。
参考文献