胃の検査と聞くと、胃カメラの検査やバリウム検査を思い浮かべる方がほとんどではないでしょうか。しかし、それぞれの検査の違いについて問われたときに、正確に説明できる方は多くはないかと思います。そこで本記事では、初めて胃の検査を受ける方にもわかりやすいように、胃カメラ検査とバリウム検査の特徴や、メリット・デメリットなどについて解説いたします。胃の健康を守るためにも、たくさんの知識を身に付けましょう。
胃カメラ検査とは
胃カメラの検査とは、カメラを直接挿入し、胃に病変がないかを調べる検査です。医療機関によって、胃内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査と呼んだり、ホームページに表記されていたりします。「検査方法が違うのか」と勘違いされる方もいるかもしれませんが、検査の名称が異なるだけであって、検査方法に違いはありません。胃カメラの検査は、胃の病気を特定する検査だということはおわかりいただけたかと思います。検査の重要性であったり、具体的にどのような疾患を診断できたりするのかについて以下で説明します。
胃カメラ検査の概要
胃がんの発症を事前に防ぐ治療はありませんが、早期に発見や治療ができれば、重篤な状態を招かずに済みます。そのため、胃のなかを直接観察できる、胃カメラの検査を定期的に受けることが健康を維持することにつながると言えるでしょう。
近年、医学技術が進歩していくなかで、カメラの性能や画像の解析度が上がったことで、小さな病変も見落としにくくなっています。また、がんの疑いがあれば、検査時に組織を採取することができます。採取した組織を生検で調べることで、がんの有無・進行具合を速やかに特定することが可能です。
胃カメラ検査でわかること
胃カメラ検査は、食道から胃、そして十二指腸までの消化器官を直接視覚的に調べることができる検査です。様々な症状の原因を特定し、適切な治療法を決定するための重要な手掛かりを得ることができます。
・食道の検査
食道は、口から胃へと食物を運ぶ管です。胃カメラによる食道の検査では、食道の内壁の状態や、食道がんの早期発見、食道炎などの炎症の有無を確認できます。また、食道の狭窄や食道拡張症などの異常も視認することが可能です。この検査により、飲み込みにくさや胸焼けの原因などを明らかにすることができます。
・胃の検査
胃カメラによる胃の検査は、胃潰瘍や胃がん、胃炎などの診断に非常に有効です。胃の内壁を直接見ることで、炎症や出血、ポリープ、潰瘍などの異常を検出することができます。特に胃がんの早期発見には、この検査が欠かせません。胃の形や動きも観察することができるため、消化不良の原因にも迫ることができます。
・十二指腸の検査
十二指腸は、胃の次に続く小腸の最初の部分で、消化に重要な役割を果たしています。胃カメラによる十二指腸の検査では、十二指腸潰瘍や十二指腸炎など、十二指腸特有の病変を発見することが可能です。また、胆道や膵臓の異常が十二指腸の状態に影響を与えることもあり、これらの器官の健康状態についても一定の情報を得ることができます。
胃カメラ検査の種類
胃カメラの検査方法は、口から挿入する方法だけでなく、鼻から挿入する方法で胃のなかの様子を確認することができます。ここでは、それぞれの検査方法の特徴や注意点について説明するほか、鎮静剤を使用することのメリットやデメリットについても、詳しくお伝えします。
胃カメラの種類
胃カメラの種類は大きく分けて二つあります。一つ目は、口からカメラを挿入する経口内視鏡です。カメラの性能が良いため、胃のなかを明るく照らすことができ、きれいな画像で病変の有無を確認することができます。ただ、カメラの大きさは、直径8から9mmありますので、患者さんによっては嘔吐反射を起こす場合があります。二つ目は、鼻からカメラを挿入する経鼻内視鏡です。
カメラの大きさは直径5から6mmと小さいです。経口内視鏡のカメラと比べると性能が少し下がりますが、舌根部に触れないため、嘔吐反射を起こしにくいというメリットがあります。また、検査中は医師と会話することが可能です。経鼻内視鏡のデメリットは、鼻の奥が曲がっていたり鼻の穴が小さかったりするとカメラを挿入するのが難しく、患者さんの鼻の構造によっては検査を受けることができないことです。
麻酔・鎮静剤の有無
経口内視鏡も経鼻内視鏡も、痛みを感じにくくするために、ゼリー状の麻酔を喉に塗ったりスプレー状の麻酔を鼻にかけたりしてから検査を行います。また、麻酔をしても嘔吐反射を起こし、検査にトラウマがある場合や初めての検査で不安が強い場合は、鎮静剤による検査を検討すると良いでしょう。
鎮静剤を使うことで、ウトウトと眠った状態で検査を受けられるため、恐怖心や痛みがなく検査を終えることができます。ただし、鎮静剤の作用が消失するまでに時間がかかり、検査当日は車やバイクの運転を控える必要があります。
胃カメラ検査のメリット・デメリット
初めて胃カメラを受ける方は、検査内容はもちろん、検査にかかる時間や費用などわからないことがいっぱいだと思います。胃カメラの検査には、どのようなメリットやデメリットがあるかを解説します。
胃カメラ検査のメリット
胃カメラの検査は、胃のなかの様子がきれいな画像で確認できます。小さな病変の見落としが減ったことで、ピロリ菌やがんといった重篤な疾患の早期発見・早期治療ができるようになったことが大きなメリットと言えるでしょう。病変を直接確認できることで、診断のスピードも格段に上がっています。
また、胃カメラの検査は、レントゲンと違って、放射線による被ばくの影響を心配する必要がありません。経鼻内視鏡の場合は、医師と会話をすることができますので、検査中に気になることがあれば質問することが可能です。なお、胃カメラ検査は、胸焼けや食欲不振などの症状があったり、胃に何らかの疾患があると診断を受けたりした場合、保険適用にて受けることができます。
胃カメラ検査のデメリット
胃カメラの検査は、レントゲンやエコー、採血などの検査と比較すると、長い時間を要します。また、胃を隅々まで確認するのに適している検査と言えますが、バリウム検査と比べると、胃全体を把握するのには不向きな検査と言えます。さらに、自由診療になると、医療費にかかる負担が増えます。
胃カメラの種類でも前述したように、経口内視鏡の場合は嘔吐反射を起こしたり、経鼻内視鏡の場合は鼻の穴が小さいと粘膜を傷つけ出血したりする恐れもあります。カメラで胃のなかを直接観察するため、穿孔(せんこう)が起きてしまうリスクもあるということを理解しておきましょう。
バリウム検査とは
バリウム検査とは、バリウムと呼ばれる造影剤とレントゲンで、食道・胃・十二指腸といった消化器の内部を観察する検査です。検査の流れは、まずバリウムを服用します。バリウムの量は医療機関によって変わりますが、150mlほどです。そして検査台に乗り、身体の向きを変えながらエックス線を連続的に照射して、バリウムの流れや消化器の動きを観察します。そのため、胃の全体像を把握するのに優れた検査と言えます。
バリウム検査の概要
バリウム検査では、服用したバリウムの流れを観察することで、ポリープや隆起、くぼみなどの有無を捉えることができ、潰瘍の有無のチェックもできます。潰瘍とは、胃液という強い酸によって、胃・十二指腸の組織が剝がれ、粘膜がただれた状態を指します。潰瘍にバリウムが入り込むと、壁から飛び出したような画像を確認することができます。こうした胃の異常をモニターで広範囲に観察することができます。
バリウム検査のメリット
バリウム検査のメリットは、繰り返しになりますが、胃の様子を全体的に捉えられることです。また、スキルス胃がんを発見しやすいということも大きな強みと言えます。スキルス胃がんは、がん細胞の塊をつくらず、胃壁の内部にばらけて広がっていくため、胃カメラでの発見が難しいとされています。また、バリウム検査の費用は、胃カメラの検査の費用を比べると、保険診療・自由診療ともに安価です。さらに、バリウム検査は、検診車でも行える検査となっていますので、病院やクリニック以外に、企業や役所などの検診会場でも受けることができます。
バリウム検査のデメリット
初めて知る方は、驚くかもしれませんが、服用したバリウムは全て排出する必要があります。バリウムが残った状態のままでいると、便の水分が吸収され、硬くなってしまいます。そうすると、排便するのが困難になり、最悪の場合は手術を受けなくてはなりません。また、普段のエックス線検査と比べると、造影剤の検査は長い時間放射線にあたるため、被ばくによる不安を強く感じる患者さんもいるかと思います。
もちろん、人体に影響のない範囲に被ばく量は調整されています。バリウム検査中にげっぷが出てしまうと、検査が初めからやり直しとなり、再びバリウムを服用する必要があることもデメリットの一つと言えます。さらに健康診断で要精密検査と結果が出た場合は胃カメラの検査を受ける必要があるため、初めから胃カメラ検査を受ければ良かったと思われる方も少なくありません。
胃カメラ検査とバリウム検査の違い
胃の隅々を観察するのに適しているのが胃カメラの検査で、胃の全体を把握するのに優れているのがバリウム検査となります。どちらの検査が良い・悪いはなく、発見しやすい疾患はそれぞれ異なりますので、時間や金銭面に余裕があれば両方の検査を受けることで、胃の健康を守ることにもつながります。
胃カメラ検査を受けるべき基準
胃がんは、大きな自覚症状がないまま進行することがあります。では、胃がんを早期発見し進行を食い止めるにはどのタイミングで検査を受けるべきか解説します。
年齢による基準
胃に症状がない方でも、40代を過ぎたら一度は胃カメラの検査を受けたほうが良いでしょう。なぜなら、胃がんは早い方で30代から発症し、40代を過ぎると胃がんを患う方が増えていくからです。また、50代を超えると、胃がん患者が急増するため、定期的に検査を受けることが大切になります。血縁者のなかに胃がんを患っている方がいれば、がんを発症する可能性が高まるので、早めに検査を受けることを視野に入れてください。
症状による基準
基本的に、薬を飲んでも胃に何らかの症状を抱えている方は、一度胃カメラの検査を受けることを検討ください。具体的には、「吐き気を催し、嘔吐してしまう」「胃に強い痛みや不快感がある」「食欲が低下し、ご飯を残してしまう」「体重がどんどん減少している」「吐血や下血がある」などです。こうした症状がある場合は、食道・胃・十二指腸に異常がある可能性が高いと言えます。がんはもちろん、ピロリ菌や逆流性食道炎、十二指腸腺腫などの病気の疑いがありますので、できる限り早めに医療機関を受診しましょう。
胃カメラ検査の流れ
胃カメラ検査を受ける際には、一つ一つの段階に注意を払い、それぞれの手順を丁寧に実行することが大切です。 検査前日には、夕食は消化の良い軽めの食事をとり、アルコールや刺激物は避けることが重要です。特に夜9時以降は絶食が求められます。また、検査当日の朝までには水分摂取を控えめにし、検査数時間前からは完全に絶飲絶食となります。前日は早めに就寝し、十分な休息をとることが望ましいです。持病がある場合や血液をサラサラにする薬を服用している場合は、事前に主治医や検査を行う医師に相談し、検査当日の服薬について指示を受けます。
検査当日は、指定された時間に病院やクリニックの受付を済ませ、詳細な問診が行われます。その後、専用のガウンに着替え、貴重品はロッカーに預けます。喉の違和感を和らげるために、口腔内に麻酔スプレーが使用されることがあります。 検査は横になった状態で、胃カメラが口または鼻から挿入されます。検査中はリラックスして深呼吸を心掛け、苦しくなった場合はスタッフに知らせることが大切です。検査直後は、少しの間休憩室で横になって身体を休めます。その後、喉の麻酔が切れてから食事や日常活動を再開します。 胃カメラ検査は、適切な準備と理解により、安全かつスムーズに行うことができます。検査に対する不安や疑問がある場合は、事前に医師に相談することをお勧めします。
胃カメラ検査を受ける際の注意点
胃カメラ検査は、正確な診断を得るための非常に有効な手段ですが、検査を受ける前にいくつかの注意点を理解し、遵守することが必要です。また、特定の状況下では検査を受けることができない場合もあります。
胃カメラ検査前の注意点
検査前日の21時以降は、食事を控える必要があります。夕食はおかゆやスープなど消化にやさしいメニューを選び、アルコールや香辛料など胃に刺激を与える食べ物は取らないでください。またタバコは、胃液が多くなることで病気の診断が難しくなるので、検査前日も当日も吸ってはなりません。なお、水分は普段通り摂って構いません。持病がある方は、薬を服用して問題ないか、担当の医師に確認を取ってください。検査当日に備えて、睡眠時間を十分に確保し、体調を整えましょう。
胃カメラ検査を受けられない場合
胃カメラの検査は、誰しも受けられる検査ではありません。例えば、検査に耐えられる体力がないご年配の方、妊娠中や授乳中の方、パニック障害を患っている方、抗血栓薬を服用している方などです。ご年配の方以外は、検査時期をずらしたり一時的に休薬したりすることで、胃カメラを受けることができます。また、胃カメラが難しい場合は、精度は変わりますが、エックス線検査やエコー検査などで胃の状態を確認することが可能です。
まとめ
この記事を通じて、胃カメラ検査の重要性、その流れ、そして検査を受ける際の注意点について詳しく解説してきました。胃カメラ検査は、消化器系の疾患を早期に発見し、適切な治療を行うために非常に有効な手段です。検査は比較的短時間で完了し、食道、胃、十二指腸の状態を直接確認することができます。
ただし、検査前の準備や検査当日の過ごし方、検査を受けられない場合の条件など、様々な側面に注意を払う必要があります。 胃カメラ検査を受けるかどうかを検討する際には、この記事で紹介したポイントを参考にしていただき、必要に応じて専門の医師と相談することをお勧めします。正しい知識と理解を持つことで、胃カメラ検査はより安心して受けられるものとなります。健康を守るための一歩として、胃カメラ検査の選択を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献