胃や大腸などの消化管を調べる検査に内視鏡検査があります。内視鏡検査は消化管を直接観察できる検査で、病気の早期発見に有効です。
今回は内視鏡検査の種類・大腸内視鏡や胃カメラで見つかる病気・内視鏡検査を受ける際の注意点などにを解説します。
内視鏡検査を受ける際に参考にしていただけると幸いです。
内視鏡検査でわかることは?
内視鏡検査は、胃や大腸といった消化管に発生するがんなどの異常の早期発見に役立ちます。
胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査では、胃や大腸の内壁の状態をカメラを通して直接観察できるので、がんなどの病変の有無がわかります。
胃がんや大腸がんなど、消化管の内壁に発生するがんは、早期には自覚症状がほとんどありません。
何故なら、がんが発生する粘膜には痛みを感じる痛覚がないからです。
そのため、自覚症状が現れた段階では、すでにがんが進行している場合が多くあります。
このように、ほとんど症状が現れない消化管の早期がんの発見に、内視鏡検査はとても役立ちます。
2019年度に発表されたがん罹患数(がんに罹った人の数)では、男女総数で大腸がんが1位、胃がんが3位でした。
日本人に多くみられる胃がんや大腸がんですが、早期に発見するほど治療しやすく、生存率が高くなります。
がんなどの消化管疾患の早期発見には、定期的な内視鏡検査がおすすめです。
内視鏡検査の種類
内視鏡検査には主に以下の4種類があります。
- 上部消化管内視鏡検査
- 大腸内視鏡検査
- カプセル内視鏡検査
- 超音波内視鏡検査
それぞれの検査方法を詳しく解説します。
上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査では、食道・胃・十二指腸が観察できます。上部消化管内視鏡検査に用いられる内視鏡は主に2種類あります。
- 経口内視鏡
- 経鼻内視鏡
経口内視鏡は口から挿入するタイプの内視鏡です。直径が8〜9mm程と太いため「オエッ」という嘔吐反射が起きやすいデメリットがあります。
しかし、直径が太い経口内視鏡は経鼻内視鏡よりもライトが明るく、解像度の高い画像が得られる点が大きなメリットです。拡大機能が搭載されている経口内視鏡もあり、病変の詳しい評価に役立ちます。
また、組織採取やポリープ切除といった器具を用いた処置を行う際にも、鉗子口の広い経口内視鏡を用いるのが一般的です。
経鼻内視鏡は鼻から挿入するタイプの内視鏡です。直径が5〜6mm程と、経口内視鏡の約半分の細さとなっており、嘔吐反射が起きにくいというメリットがあります。
そのため、嘔吐反射が強く出てしまう方は、経鼻内視鏡で検査したほうが負担が少ないでしょう。しかし、鼻腔が狭い方は経鼻内視鏡が鼻から挿入できないため、口からの検査になる場合があります。
検査の負担が少ない経鼻内視鏡ですが、直径が細いため経口内視鏡よりもやや画質に劣る傾向にあります。
また、経鼻内視鏡は鉗子口が狭いため、一部の器具が使用できません。そのため、ポリープ切除などの処置が必要な場合には、経口内視鏡に切り替えて処置を行うのが一般的です。
どちらの内視鏡検査が適しているかは、患者さんの状態や検査目的によって異なるため、検査前に担当医と相談するようにしましょう。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入し、大腸内を観察している検査です。
まず初めに内視鏡を大腸の一番奥の回盲部まで到達させ、戻りながら大腸内を観察していきます。
この時、大腸内に空気を入れて大腸を膨らませながら観察するので、お腹が少し張る感じがするでしょう。空気は内視鏡で吸い出したり、おならとして外に出たりするため心配ありません。
大腸内視鏡検査を行ううえで特に重要となるのが、腸をきれいにするための前処置です。大腸内に便などが残っていると、大腸内壁が十分に観察できず、病変を見落とす可能性があります。
そのため、下剤や腸管洗浄剤を使って大腸の内容部をすべてきれいに洗い流し、内壁がしっかりと観察できる状態にするのがとても重要です。
大腸内視鏡検査では大腸内の観察のほか、ポリープや早期がんの切除も可能です。
カプセル内視鏡検査
カプセル内視鏡とは、カプセル型の内視鏡を口から飲み込んで検査する方法です。
カプセル内視鏡はほかの内視鏡検査と違い、カメラがチューブにつながっていません。そのため、患者さんは少し大きめのカプセルを飲み込むだけで検査が受けられるので、負担が少ない点がメリットです。
カプセル内視鏡の主な検査目的は小腸疾患の有無を調べることです。
上部消化管内視鏡検査や大腸内視鏡検査でも、十二指腸や回腸の一部は観察できますが、小腸全域の観察はできません。
しかし、カプセル内視鏡を使えばこれまで観察できなかった範囲も映し出せるので、小腸疾患の診断に役立ちます。
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査は、先端に超音波装置が備えられた内視鏡を用いて検査する方法です。
通常の内視鏡では、食道や胃の表面しか観察できませんが、超音波内視鏡では消化管壁の層構造も観察できます。
これにより、潰瘍などの病変がどの層にまで到達しているかの診断が可能となりました。
超音波内視鏡検査が特に有効なのが膵臓や胆道の観察です。
膵臓や胆道の診断に有効な検査として、超音波検査が挙げられます。通常の超音波検査では、お腹などの体表にプローブと呼ばれる器具を当てて超音波を体内に送り込みます。
しかし、超音波の進む方向に空気・脂肪・骨などがあると超音波が妨げられるため、診断に必要な画像が得られない場合があるのです。
特に、膵臓は胃の裏側に位置しているため、通常の超音波検査で綺麗に描出するのは難しいとされています。何故なら、胃には空気や胃液などがあり、超音波が妨げられるからです。
しかし、超音波内視鏡を使えば胃壁を通して膵臓に超音波を送り込めるため、通常の超音波検査よりも詳細な画像が得られます。
このように、超音波内視鏡検査は消化管壁の病変の観察や、膵臓・胆道の精密検査にとても有効な検査方法です。
大腸内視鏡で見つかる病気
大腸内壁を直接観察できる大腸内視鏡検査は、大腸がん・潰瘍性大腸炎・クローン病などの大腸疾患の発見にとても役立ちます。
それぞれの疾患を、以下で詳しく解説します。
大腸がん
大腸がんは大腸に発生するがんで、その多くは腺がんです。まれに扁平上皮がんや腺扁平上皮がんが発生する場合もあります。
大腸がんの主な発生原因は、腺腫と呼ばれる良性ポリープのがん化です。このほか、正常な大腸の粘膜から直接がんが発生する場合もあります。
大腸内に良性ポリープや早期の大腸がんが発生しても、自覚症状はほとんどありません。そのため、定期的に内視鏡検査を受けて大腸内を調べておくことがおすすめです。
特に、厚生労働省が大腸がん検診の実施を推奨する40歳以上の方は、一度大腸内視鏡検査を受けてみるとよいでしょう。
がん化しそうなポリープや早期の大腸がんであれば、開腹手術をしなくても大腸内視鏡検査で切除可能です。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こる疾患です。大腸の粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍が発生します。主に直腸から口方向に連続的に症状が広がっていくのが特徴です。
潰瘍性大腸炎の発症原因は不明ですが、遺伝的要因や環境要因が複雑に組み合わさり発症するとされています。
潰瘍性大腸炎を診断するうえで大腸内視鏡検査はとても重要な検査です。
大腸内視鏡検査で大腸内壁の炎症の程度や広がりを確認したり、組織を採取して生検をしたりして潰瘍性大腸炎かどうかを診断します。
潰瘍性大腸炎は発症原因が解明されていないため、完治する治療法がない疾患です。症状が落ち着く寛解と、症状が再発する再燃を繰り返すため、大腸内視鏡検査での定期的な観察が必要となります。
激症例や重症例では大腸を全て摘出する大腸全摘術を行う場合もあります。
クローン病
クローン病は潰瘍性大腸炎と同じく、原因不明の炎症性腸疾患の1つです。主に若年者に見られる傾向にあります。
クローン病は口腔から肛門まで、消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が発生する可能性がありますが、主な発症部位は小腸や大腸が中心です。特に、小腸末端部(回盲部)が好発部位です。
クローン病の病変の広がりに連続性はなく、不規則に病変が広がります。
大腸や小腸を中心に広がるクローン病を診断するうえで、大腸内視鏡検査は重要な検査です。
腸管内を直接観察し、クローン病の炎症の程度や広がりを確認します。また、必要に応じて組織を採取して生検を行います。
クローン病を完治させる治療方法はありません。しかし、症状が進行する前に治療を開始すれば、手術や入院のリスクを減らせます。
下痢や腹痛といった症状が続く場合には医療機関を受診し、大腸内視鏡検査を検討しましょう。
胃カメラで見つかる病気
食道や胃の内壁を直接観察できる胃カメラは、胃がんやポリープといった病変の発見に役立ちます。
以下でそれぞれの疾患を詳しく解説します。
胃がん
胃がんは、胃の内壁の粘膜が何らかの原因でがん化して発症します。
胃がんの主な発症リスクとして挙げられるのがピロリ菌です。細菌の一種であるピロリ菌に感染した影響で胃壁に炎症や潰瘍が発生する場合があり、これにより胃がんの発生確率が高まるとされています。
ピロリ菌のほか、塩分・アルコール・喫煙・肥満・ストレスなども胃がんの発症リスクを高める要因です。
胃がんの多くは腺がんで、がんが大きくなるにしたがって胃壁の中に深く進んでいきます。
胃がんの中には胃壁を硬く厚くさせながら広がるスキルス胃がんという種類があります。このタイプは進行が早く、がんがお腹の中に散らばって広がる腹膜播種を起こしやすいのが特徴です。
胃がんの症状として、みぞおち周辺の痛みや違和感・胸焼け・吐き気などが挙げられます。しかし、早期の胃がんには自覚症状がほとんどありません。なかには進行しても症状があまり現れない場合もあります。
そのため、健康診断などで胃カメラを受け、偶然胃がんが見つかる場合も多いです。
胃がんの発症リスクを高める要因を持っている方や、気になる症状がある方は、一度胃カメラ検査を受けてみるとよいでしょう。
ポリープ
胃にできるポリープには主に過形成性ポリープと胃底腺ポリープの2種類があります。どちらも良性のポリープで、基本的には治療の必要はありません。
過形成性ポリープはピロリ菌に感染し、萎縮性胃炎のある方に発生しやすいポリープです。表面が赤色をしており、胃のどの部位にも発生します。
ピロリ菌除菌後に過形成性ポリープが小さくなったり消えたりといったケースがあります。
基本的には治療の必要がない良性のポリープですが、まれにがん化する場合があるため、年に1回程度は胃カメラによる定期観察が必要です。
過形成性ポリープが2cm以上の大きさに増大する場合や、がん化の可能性がある場合には切除を検討します。
胃底腺ポリープはピロリ菌に感染していない方に多くみられる良性ポリープです。胃壁と同じような色合いをしており、大きさは2〜3mm程度です。主に胃底部や大湾側に発生します。
胃底腺ポリープもまれにがん化する場合がありますが、その発生頻度はとても低いため、原則的に経過観察のみで切除は行いません。
どちらのポリープもそれほど心配する必要のない病変ですが、診断を受けた場合には、年に1回程度は胃カメラを受けるようにしましょう。
内視鏡検査による合併症
内視鏡検査を行う際には、患者さんの負担が少なくなるように安全性に配慮して検査が行われます。しかし、まれに内視鏡検査による合併症が起こる場合があります。
内視鏡検査の合併症として挙げられるのが、血便・腹痛・穿孔・発熱などです。
それぞれの合併症について解説します。
血便
内視鏡検査後に血便が出る場合があります。これは、大腸内視鏡検査後に多くみられます。
主な原因は、内視鏡が大腸内壁を擦り、血が滲むためです。内壁の粘膜はデリケートなので、内視鏡が擦れたり吸引で粘膜を吸ったりすると血が滲む場合があります。
このような少量の出血が便に混じった血便は、それほど心配ありません。
しかし、内視鏡検査でポリープを切除したり組織を採取したりした後に、大量の出血が見られる場合にはすぐに検査を受けた医療機関に相談しましょう。
腹痛
内視鏡検査後に腹部の違和感や腹痛が起こる場合があります。原因の多くは内視鏡が胃壁や腸壁を刺激するためです。ほとんどが一時的なもので自然と収まります。
しかし、なかには炎症や穿孔が原因で腹痛を起こす場合もあるので、痛みが徐々に強くなる場合にはすぐに検査を受けた医療機関に相談しましょう。
穿孔
内視鏡検査によって胃壁や腸壁に穴が空く穿孔を起こす場合があります。
穿孔・出血の発生はとてもまれで、0.012%との報告があります。穿孔を起こす主な原因は、内視鏡による圧迫・ポリープ切除や組織採取時の組織損傷・前処置の影響などさまざまです。
症状は穿孔を起こした部位によって異なりますが、急激な腹痛や発熱などが現れます。
内視鏡検査後に腹部に強い痛みを感じたら、すぐに医療機関で検査を受けましょう。
発熱
内視鏡検査後の合併症で発熱が起こる原因としては、上部消化管内視鏡時に唾液が気管に入り誤嚥性肺炎を起こした場合や、穿孔により腹膜炎を起こした場合などが考えられます。
熱がなかなか下がらなかったり、咳や腹痛などが見られたりする場合には、すぐに医療機関に相談しましょう。
内視鏡検査を受ける際の注意点とは?
内視鏡検査では、検査前と検査後に注意点があります。
検査前の注意点としては、飲食や薬の制限が挙げられます。
内視鏡検査の種類にもよりますが、検査の1〜3日前から飲食に制限が設けられるのが一般的です。検査を受ける医療機関の指示に従いましょう。
また、薬の内服も制限が設けられる場合があるため、検査前に医師に相談してください。
内視鏡検査後の注意点は以下のとおりです。
- 飲食は検査後1時間程経過してから行う
- 車やバイクの運転は控える
- 激しいスポーツや旅行は控える
胃カメラでは喉に麻酔を行います。麻酔の効果は1時間程度持続するので、この間に飲食すると誤嚥する危険性があります。そのため、飲食は麻酔が切れてから行いましょう。
検査で鎮静剤を使用した場合には、車やバイクの運転は控えましょう。医療機関には公共交通機関を利用して来院するのがおすすめです。
ポリープ切除や組織採取を行った場合、再出血の危険性があるため、しばらくは激しいスポーツや旅行を控えましょう。
内視鏡検査の注意点については事前に説明があるので、各医療機関の指示に従うようにしてください。
まとめ
内視鏡検査では胃や大腸などの消化管を直接観察できるため、胃がんや大腸がんといった疾患の早期発見にとても役立ちます。
また、早期がんであれば内視鏡下で切除が可能なので、治療の負担も少ないです。
消化管の粘膜には痛覚がないため、がんなどの病変が発生しても、早期では自覚症状がほとんどありません。
定期的に内視鏡検査を受けて、消化管異常の早期発見に役立てましょう。
参考文献
- 最新がん統計|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 経口内視鏡と経鼻内視鏡の違いは何ですか?|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- 3.1)上部消化管内視鏡検査(食道・胃・十二指腸内視鏡)と治療|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- 大腸内視鏡検査ってどんな検査ですか?|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- カプセル内視鏡で消化管すべてを観察できますか?|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- カプセル内視鏡| 東京大学大学院医学系研究科 消化器内科
- 専門性の高い最適な医療の提供|EUS|東京大学医学部附属病院 消化器内科 胆膵グループ
- 大腸がんの症状について|国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院
- がん検診|厚生労働省
- 大腸がん(結腸がん・直腸がん)| 国立研究開発法人国立がん研究センター
- 潰瘍性大腸炎(指定難病97)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- 【大腸肛門外科】潰瘍性大腸炎|広島大学 第一外科
- クローン病について|慶應義塾大学医学部消化器内科
- クローン病(指定難病96)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- 胃がん|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 胃がんについて|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 胃がんの基礎知識|東京医科大学病院
- 胃ポリープにはどんなものがありますか?|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- 大腸内視鏡検査は、どんな時に行う検査でしょうか?|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- 3.2)大腸内視鏡検査と治療|一般社団法人 日本消化器内視鏡学会