潰瘍性大腸炎と聞くと、一般的な大腸炎を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、難病指定されており、罹患者は深刻な問題・悩みを抱えています。
問題・悩みのなかでも重大と考えられているのは、完治させる治療方法がない点でしょう。一度罹患すると、様子をみながら上手に付き合っていかなければなりません。
本記事では、潰瘍性大腸炎について紹介します。症状・悪化のサイン・検査方法・治療などについて解説するので、参考にしてみてください。
潰瘍性大腸炎の症状
- 潰瘍性大腸炎の原因を教えてください。
- 潰瘍性大腸炎の原因は不明です。
大腸の粘膜でびらん・潰瘍が形成されて発症することはわかっています。しかし、なぜびらん・潰瘍が形成されるのかについてはわかっていません。
遺伝・環境の2つの因子が消化管の免疫細胞に作用し、過剰な免疫反応が原因で発症するのであろうと考えられているのが現状です。ただしこの説も確定的とはいえず、現在も研究が続けられています。
- 潰瘍性大腸炎の症状を教えてください。
- 症状としてあげられるのは主に下記の4つです。
- 血便
- 粘血便
- 下痢
- 血性下痢
ただし、これらの症状がみられるのは潰瘍性大腸炎がある程度進行してからでしょう。
軽症段階にある場合には、上記のような症状は伴いません。重症化すると滲出液(しんしゅつえき)と血が混じった水溶性下痢がみられます。
なお滲出液とは、傷の治癒・再生を促す液体のことです。膝や腕などに深い擦過傷を負った場合、傷口がジュクジュクになることがあるでしょう。この液体のことを指します。
潰瘍性大腸炎の悪化のサイン
- 潰瘍性大腸炎の悪化のサインにはどのようなものがありますか?
- 潰瘍性大腸炎の病状が進行すると、以下のような症状がみられるようになるので注意が必要です。
- 発熱
- 食欲不振
- 体重減少
- 貧血
さらにこれらとあわせて、排便回数が1日に6回以上になるなどの症状もみられるようになります。
また、貧血の症状が進むとめまい・顔面蒼白・動悸などの症状も確認できるようになるでしょう。
- どのような合併症が起こりますか?
- 潰瘍性大腸炎に伴う合併症としてあげられるのは、主に以下の4つです。
- 関節炎
- 虹彩炎
- 膵炎
- 結節性紅斑・壊疽性膿皮症
虹彩炎は、目のなかにある虹彩に炎症が起こる病で失明してしまう恐れもあります。免疫異常と病原菌の2通りがありますが、潰瘍性大腸炎の合併症として引き起こされる場合は免疫異常のほうではないかと考えられているのが現状です。
また結節性紅斑は下肢に赤い斑点のようなものが確認でき、押すと痛みを生じます。主に女性に多くみられる特徴がありますが、発症の原因はわかっていません。
- 潰瘍性大腸炎の発症に遺伝は関係ありますか?
- 潰瘍性大腸炎の発症に、遺伝は関係していると考えられています。その理由として、欧米では約20%に潰瘍性大腸炎の罹患歴を持つ近親者がいると報告されているからです。
しかし、遺伝だけの原因で発症するわけではありません。世界中で家族間での発症例が発表されていますが確診例は得られていないのが現状です。
確診例が得られていない現状から考えて、家族の誰かが潰瘍性大腸炎を発症したからといって血縁関係者に必ず発症するとはいえないでしょう。
遺伝単体で発症するわけではなく、それ以外の環境などの外的要因も関係していると考えられています。
- 潰瘍性大腸炎にかかりやすい人の特徴を教えてください。
- 潰瘍性大腸炎は多くの点で不明なため、かかりやすい人に共通する特徴の断定は難しいでしょう。ただし、以下のような特徴から逆説を考えれば、ある程度の推測は可能です。
- 発症年齢のピークは20~29歳
- 喫煙する人は発症リスクが低い
- 盲腸を切除した人は発症リスクが低い
発症年齢におけるピークは上記の年齢層ですが、ピークを過ぎれば発症リスクが低くなるわけではありません。発症年齢自体は弱年齢層から高齢者層まで幅広く確認されています。
また喫煙する人はしない人に比べて発症リスクが低いとされていますが、これは禁煙後に潰瘍性大腸炎を発症した人が喫煙を再開したことで寛解したという症例報告があるからです。
寛解の原因としてニコチン・一酸化炭素を吸収したことにより体内の抗炎症作用が刺激され、潰瘍性大腸炎も寛解したのではないかと考えられています。しかし確定ではなく、必ずしも喫煙が寛解の効果をもたらすとはいえません。
なおこれらの特徴から、以下のような人がかかりやすいのではないかと推測できます。- 喫煙しない人
- 盲腸を切除していない人
ただし年齢という点では幅広く発症しているため、上記2点に該当しない人でも罹患する可能性はあります。
潰瘍性大腸炎の検査方法や治療
- 潰瘍性大腸炎の検査方法・診断方法を教えてください。
- 潰瘍性大腸炎の検査・診断方法の手順は以下の通りです。
- 病歴・症状経過などの問診
- 細菌・感染症の検査
- 画像診断(X線・内視鏡)
- 生検検査
診断は問診から始まり、血性下痢の有無を確認します。潰瘍性大腸炎の症状として血性下痢の確認があげられますが、ほかの可能性もあるので注意が必要です。
潰瘍性大腸炎以外の可能性を排除する目的で、細菌・感染症の検査を行います。主な検査内容としては血液検査と便検査があげられるでしょう。
その後、画像診断にて炎症・潰瘍の有無などを確認します。潰瘍性大腸炎の可能性が低い場合はX線検査が多いかもしれません。
ただし、可能性が高いと判断される場合は内視鏡検査を行います。その理由として、病巣の一部を採取する生検を並行して行わなければならないからです。
大腸の粘膜を採取して検査を行い、潰瘍性大腸炎の確定診断を行います。
- 潰瘍性大腸炎の治療方法を教えてください。
- 潰瘍性大腸炎の治療方法は、大きく分けて以下の2通りです。
- 内科的治療
- 外科的治療
内科的治療とは症状をコントロールするためのものであり、完治を目的とした治療ではありません。その理由は、完治を目的とした内科的治療がないからです。
ただし、腸の強い炎症を抑える薬剤は存在しています。薬剤を使用した主な内科的治療は以下の6つです。- 5-アミノサリチル酸:炎症の持続を抑え、それに伴う下痢・血便・腹痛などの症状を減少させます。また再発予防の効果も期待されており、症状が落ち着いた後も継続治療を行うことがあるでしょう。
- 副腎皮質ステロイド:中~重症の場合にみられる強い炎症を抑えることが目的です。ただし再発を予防する効果はないため、症状がやわらぐとほかの内科的治療への変更が一般的でしょう。
- 免疫調整薬・抑制薬:副腎皮質ステロイドの治療をストップすると悪化する場合に有効な方法です。
- 抗TNFα拮抗薬:腸炎の原因としては複数の物質があげられますが、そのなかでも代表的なものがTNFαであることがわかっています。この物質の効果を抑制するために用いられる方法です。
- 抗接着分子抗体:炎症を引き起こす原因としてリンパ球もあげられます。腸管粘膜にリンパ球が侵入することで炎症が起こるため、そのリンパ球の侵入を防ぐことが目的の治療です。
- 抗インターロイキン12/23拮抗薬:炎症の原因となっているインターロイキン12及び23の効果・働きを抑制します。
使用される薬剤はこの他にも多く存在し、病院によって異なる点を念頭に置いておいてください。 なお、内科的治療の一環として薬剤を使用しない血球成分吸着除去療法があります。腸の炎症に関係している白血球を取り除く方法です。副腎皮質ステロイドの治療で著しい効果がみられない場合に用いられることが多いでしょう。
一方の外科的治療は以下のような症状がみられる場合に必要とします。- 内科的治療の効果がみられない
- 副作用により内科的治療が不可能
- 大腸に穴が認められる
- 大量出血
これらはすべて重症化した場合にみられる症状です。このような症状が認められる場合は、大腸全摘術を行います。
潰瘍性大腸炎の経過や注意点
- 潰瘍性大腸炎はどのような経過をたどりますか?
- 病院で治療を受けることで、改善・寛解が認められますが、その一方で再発する患者さんが多いのも事実です。
継続的な内科的治療を行うことで再発のリスクは軽減されます。そういった意味では、罹患後は長期的な治療を必要とする病気といえるでしょう。
また、長期化すると合併症として大腸がんを発症するリスクが高くなります。
目安は発症から7~8年とされていますが一概にはいえません。7年を待たずに発症する可能性もあるため、病院での定期的な診断・検診が重要といえるでしょう。
- 予防のためにできること・日常生活での注意点を教えてください。
- 潰瘍性大腸炎の原因の1つとして、外的要因が考えられています。この観点から、規則正しい生活が重要といえるでしょう。バランスの良い食生活を送り、十分な睡眠を取りましょう。
また過度のストレスで下痢の症状がみられることがありますが、これが原因で潰瘍性大腸炎を引き起こす可能性もないとはいえません。そういった意味では、ストレスをためないようにすることも予防の1つになりえます。
ただし具体的な発症原因は解明されていないため、日常生活で気をつけていても発症するリスク・可能性は0にはなりません。定期的に繰り返す下痢・腹痛などの症状がみられる場合は、速やかに医師の診断を受けてください。
編集部まとめ
潰瘍性大腸炎について解説しました。
どのようなメカニズムで発症するのかわからない難病のため、完治を目的とした治療方法もありません。一度罹患すれば長期的な治療が必要な病気です。
また、発症からの期間が長くなればなるほど大腸がん発症のリスクも高まります。目立つ症状がみられないからといって、自主的に通院・治療をストップすることは控えましょう。
ただし、多くのケースで寛解後は発症前とほぼ同様の生活を送っています。医師の診断を受けて、正しく治療を行いましょう。
参考文献
- 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針
- 097 潰瘍性大腸炎
- ぶどう膜炎を合併した潰瘍性大腸炎の1例
- 潰瘍性大腸炎に合併した多発性関節炎,結節性紅斑に対して顆粒球除去療法が著効した1症例
- 潰瘍性大腸炎の家族発生例の検討
- 潰瘍性大腸炎(指定難病97)|難病情報センター
- 禁煙後に発症し,喫煙再開により粘膜治癒が得られた治療抵抗性潰瘍性大腸炎の1例
- 慢性炎症から癌が発生する:潰瘍性大腸炎‐大腸癌系の観察から新概念を導く
- 潰瘍性大腸炎|独立行政法人国立病院機構岩国医療センター
- 潰瘍性大腸炎|国立研究開発法人国立成育医療研究センター
- 潰瘍性大腸炎に合併した若年者大腸癌の1例
- 潰瘍性大腸炎(指定難病97)|難病情報センター