粉瘤は表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)やアテロームと呼ばれる良性の腫瘍で、炎症がない限り特に痛みや違和感などの症状もなく、早急な処置をすることは必要ありません。
しかし炎症を起こすと痛みの出現・治癒時間の延長・傷の瘢痕化など、さまざまな不具合が出てきます。
炎症を起こす前に受診の見極めや自分に合った手術法など粉瘤について正しい知識を手に入れて、正しく対処しましょう。
また粉瘤は顔や背中、うなじなどにできやすく、目立つ部分にできると特に女性にとっては気になってしまう方も多いでしょう。
今回は粉瘤の症状や特徴、治療法などについて、またおすすめのクリニックの選び方など、詳しく解説します。粉瘤でお悩みの方の一助になれば幸いです。
粉瘤(アテローム)の特徴
粉瘤(アテローム)はドーム状に盛り上がった塊の様に触れる良性の腫瘍です。
黒い点のような皮膚と通じる入口があり、強く押すと中からドロドロとしたのりの様な液体が排出されることがあります。
粉瘤は皮膚の下に袋状の組織があり、その中に古い角質や皮脂などのいわゆる垢が溜まって外に排出されずに留まっている状態です。
粉瘤の内容物は白い排出物のため脂肪の塊が出たと受診する方も少なくありません。
粉瘤は皮膚が半球状に盛り上がったような外見をしていて、大きいものですと野球のボール大にまでなることがあります。
内部の物質に細菌などが入り込んで感染を起こすと赤く腫れたり、化膿して膿が溜まったりすることがあり、炎症性(えんしょうせい)粉瘤と呼ばれ痛みが出現します。
多くの場合は発症原因は不明
粉瘤がなぜできてしまうかは詳しくわかっておらず、発生のタイミングもわからないことも多いです。
しかしときには打撲などの外傷の後に毛穴を伝って迷入することで起きたり、ニキビの後にできたりすることもあります。
多くの場合、症状は見られず触れると硬いしこりを感じ、感染などにより化膿した場合にはにおいのする内容物がでてきて痛みが生じることもあるでしょう。
見た目で目立ちやすい
粉瘤は顔・首・耳の後ろ・背中にできることが多く、大きさにもよりますが顔など目立つ部分にできると外観を損ねる可能性があるため、特に女性にとっては大きな問題にもなりかねません。
また炎症を起こした場合にはさらに腫れて赤くなることもあるため、メイクだけではカバーしにくくなります。大きさもまちまちですが、小さいものは数mmのものから大きいものですと数cmに至るものまであります。
良性のものとされ治療は不要の場合が多い
粉瘤は良性の腫瘍であり、症状がない場合にはすぐに治療をする必要はありません。しかし、炎症を起こす可能性があるため、治療が必要になることもあります。
外見に影響したり、刺激を受けやすく炎症を起こしたり、破裂する可能性が高い場合には外科手術となることもあります。
粉瘤は自然になくなることはなく、中の袋状の組織を取り出さない限りなくなりません。
また、角質や皮脂が溜まって時間経過とともに少しずつ大きくなっていきますが、日常生活に支障がなければ治療が必要にならない場合が多いでしょう。
治療法が確立されている
粉瘤は、無症状で特に外見上の問題がなければ無理に治療を行う必要はありません。しかし、炎症を頻回に起こしたり、起こす可能性が高かったり、もしくは外見上の問題を生じる場合には外科的処置で取り除く処置が取られます。
外科的な処置、つまり手術法は、皮膚を切開して中の袋状の構造物を取り除く切除術と切開して内容物を排出して炎症を取り除く切開法と呼ばれる方法があります。
粉瘤は皮膚科もしくは形成外科の医師が診る機会の多い、皮膚の腫瘍であり治療する対象になることも多く、手術が必要な場合は、日帰り手術で行うことが可能です。(※治療前・治療後に通院が必要になる場合があります)
粉瘤(アテローム)の症状
粉瘤は感染を起こして化膿していない状態であれば、特段治療する必要はありません。
しかし、強い炎症や痛みを伴ったり、感染を引き起こしたりすることを頻回に繰り返す可能性もあります。
刺激が加わりやすい場所にある場合などは前もって対処することもありますが、症状の中でも特に対処が必要なのは、炎症を起こしたときと徐々に大きくなってきたときの2つのケースです。
これから、粉瘤にはどのような症状があるか詳しく解説しましょう。
皮膚下にコロコロしたしこりがある
粉瘤があっても症状はありませんが、触ると皮膚の下にコロコロとしたしこりの塊を感じます。
自然に放置しても消えることがなく数ヶ月間同じ場所にしこりがある場合には、粉瘤が疑われます。
腫瘍の中心に黒い点がある
粉瘤は多くの場合、腫瘍の中央部分に黒い点があり、この黒点部分で外と腫瘍の内部が繋がっている開口部になります。この開口部より細菌が内部に侵入すると感染を起こしたりして炎症を起こします。
脂肪腫やガングリオンなどの皮下にできる良性腫瘍と異なる点はこの黒い点の存在であり、粉瘤の特徴といえるでしょう。
ただ中には開口部が見えにくい、もしくは見当たらない場合もありますので自己判断せずに医師に相談するようにしてください。
しこりから角質物が出てくる
粉瘤の内部には古い角質や皮脂が溜まっており、絞り出すと開口部から白い粥状の内容物が排出されます。
白くドロッとした内容物のために脂肪の塊と一般的に呼ばれることもありますが、実際には脂肪ではありません。
通常であれば角質や皮脂といった表皮にある垢の様なもので、内容物はときに悪臭を放つこともあります。
手のひらや足の裏にもできる
粉瘤は体のどこにでもできますが、多くは顔・うなじ・背中・耳の後ろ部分にできます。
時折、手のひらや足の裏にできることがありますが、そのほかの部分にできる粉瘤と比較すると皮膚が盛り上がる様な形状ではなく皮下に袋状のしこりとなります。
この場合には主に皮膚に小さな傷ができた部分から粉瘤となり、魚の目やタコと間違われることがあるでしょう。特に足の裏にできた粉瘤の場合には踏ん張ったときなどに違和感をもつ方もいらっしゃいます。
痛みやかゆみなどは基本生じない
粉瘤は炎症を起こしていない限りは痛みやかゆみなどを基本的に生じることはありません。そのためなかなか粉瘤に気づかないこともあります。
しかし血管を含むような血管脂肪腫と呼ばれる腫瘍の場合にはつまむと痛いことがあります。
粉瘤(アテローム)の治療法
粉瘤の治療方法は手術にて摘出し、袋状の構造物を皮膚の中から取り出さない限りなくなることはありません。手術の方法は主に切開法・くり抜き法の2種類があります。
2種類の手術法の適応とその詳しい方法について解説しましょう。
皮膚を切開して摘出
粉瘤の手術の1つで切開法と呼ばれる手術法があり、皮膚を切開して中の袋状の構造物と内容物である角質を摘出します。
粉瘤が顔にある場合や目立つ部位にある場合には、傷ができるだけ残りにくいように皮膚のシワに合わせて切ることで手術の傷を目立ちにくくすることもできます。傷跡が気になる方は、担当の医師と相談してみると良いでしょう。
粉瘤が手のひらや足の裏にある場合や炎症を繰り返して周囲の組織との癒着がある場合には、くり抜き法ではなく切開法が適応となります。
切開法の場合であっても、手術時間は粉瘤の大きさにもよりますが長くはかからず、日帰り手術で行われることがほとんどです。(※治療前・治療後に通院が必要になる場合があります)
しかし粉瘤が大きい場合や皮膚の深くにできている場合には入院をしての手術が行われることもあります。
くり抜き法
くり抜き法は、特殊な手術器具であるトレパンと呼ばれる円筒状のディスポーザブルパンチを粉瘤の開口部に差し込み、表面の皮膚と一緒に袋状の内容物の一部をくり抜きます。
その後皮膚の差し込んだ部分の穴から、内容物を絞り出して中の袋状の構造物も一緒に押し出して摘出します。多くの場合、そのまま治癒を待ち、施術後は縫い合わせることはありません。
切開法と比べると手術時間も短く簡単に行えますが、治癒するまでにかかる期間は長くなります。
化膿している場合にはくり抜き法は行えず、先に膿を排出させることを優先して、袋状の構造物は炎症が落ち着いてから摘出することになるでしょう。
粉瘤(アテローム)について知っておきたいこと
粉瘤でお悩みの方の中には、手術や受診の際には医療保険が適用するのか、どのタイミングで病院を受診するべきか、そもそも無症状のため病院に行くべきかと疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
ここでは、そのような疑問について知っておきたいことを解説しましょう。
粉瘤は保険適用で治療ができる
粉瘤の除去は健康保険を使って治療が可能ないわゆる保険適用です。手術の方法ではなく、粉瘤の大きさによってかかる治療費が異なり、大きくなればなるほど高額となります。
手術費用は手術の保険点数と手術を受ける本人が保険の何割負担かによって請求額が決定される仕組みになっていますので、保険の負担額については各自でご確認ください。
皮下腫瘍の摘出術の保険点数は2cm未満のもの・2cm以上4cm未満のもの・4cm以上のものの3つに分類されており、大きくなる前に対策するのが良いといえるでしょう。
またこれに加えて、炎症を起こしている粉瘤の場合には抗生物質の投与や膿の排出のための処置も加わるため、保険適応であっても処置費用が加算され医療費が高くなる可能性があります。
急速に大きくなったり皮膚に傷がつくようになったら受診をする
粉瘤は皮膚の中にある袋状の構造物を取り去らない限りなくなることはありません。
袋状の構造物内にある垢は徐々に溜まるため、少しずつ大きくなります。もしも、粉瘤が急激に大きくなることがあれば、2次的な障害・刺激の加わりやすさを考慮して早めに受診するようにしましょう。
粉瘤の皮膚に傷がつくようになったら、粉瘤自体に刺激が加わりやすく炎症を起こす可能性が高くなります。また傷がついて赤く腫れているときに自分で膿を出そうと絞り出したときに、袋状の構造物が破けて脂肪組織内に広がると、慢性化してしまうこともあります。
粉瘤は一旦炎症を起こしてしまうと、中に溜まった膿を出し完全に取り去るまでに時間を開けた再処置や手術が必要となることもあります。また、傷あとが残ってしまう原因にもなりますので、紛瘤の皮膚に傷を見かけたら早めの受診が得策でしょう。
皮膚腫瘍などの可能性も考えられるため自己判断は行わない
粉瘤は皮下にできる良性腫瘍ですが、よく似たさまざまな種類の腫瘍があります。
粉瘤と診断されるにあたって、ニキビ・石灰化上皮腫・ガングリオン・脂肪腫・類皮嚢腫・脂腺嚢腫症・耳前瘻孔などを鑑別しなくてはなりません。
これらの鑑別を必要とするものの中には二次的な障害を起こしたり、感染を起こしたりなど早急な対応が必要なものもありますので、自己判断しないようにしましょう。
粉瘤(アテローム)治療を行うおすすめのクリニックの選び方
では粉瘤が疑われたら、どの病院や医師にかかると良いのでしょうか。皮膚にできたできものは皮膚科への受診、できものの摘出には形成外科の受診が一般的ですが、粉瘤の場合はどちらが良いのか両方の意見があります。
迷った場合には、医師にまず相談してみるのも良いでしょう。もしも皮膚科もしくは形成外科のかかりつけ医があるのであれば、そこでかかることも考慮すると良いでしょう。
手術が早急に必要な場合や希望する場合には形成外科での受診がスムーズかもしれませんが、症状もなく経過観察だけであれば皮膚科に行くのも得策です。
まずはご自身の粉瘤の状態をよく知り、観察してからの受診、またセカンドオピニオンを利用して自分に納得のいくように医師と相談してください。
手術の希望、手術が早急に必要な場合には、自分が希望する切開法もしくはくり抜き法を行なっているかインターネットなどで病院やクリニックについて調べてみるのも良いでしょう。
手術に関しては、日本形成外科学会 形成外科専門医の認定資格を持っている医師は粉瘤に関しての知識も多く持ち合わせています。日本形成外科学会のホームページから形成外科専門医の資格を持っている医師の一覧も閲覧できますので調べてみてください。
ほかにも手術件数が多いクリニックや医師はトラブルシューティングや手術法の適応の見極めなども経験値から判断できることもありますので、参考にして選ばれると良いでしょう。
まとめ
粉瘤は体のどこにでも発生するものですが、顔・うなじ・背中といった目に見えやすい場所にできる良性の腫瘍です。
粉瘤が小さいうち、もしくは感染などの炎症を起こしていない状態であれば特に問題がないのですが、大きくなったり、炎症を起こしたりする前に対処が必要です。
手術は形成外科領域においては一番多いといわれるほどの一般的な手術ですので、病院や医師選びをしっかりと行なっておけば、大きな問題となることはないでしょう。
手術法に関しては目立たないようにしたいなど、ご自身の意思もしっかりと伝えて適切な選択となるように担当医師とご相談ください。
粉瘤は炎症がない場合には皮下に触れるしこりのようなもので、お尻や足の裏など体重がかかる部分にあると硬い違和感があります。
痛みや違和感など自覚症状が全くない場合には治療や受診を後回しにしがちですが、炎症を起こしてしまうと、治癒までに一定の期間を必要とし、簡易な手術法も行えません。
急激に大きくなってきた、皮膚に傷がついているなどの兆候があれば早めに受診しましょう。
今回の記事が粉瘤にお悩みの方にとって、参考になれば幸いです。
参考文献