肛門がんは、お尻の出口にできる稀ながんです。肛門がんの症状は、排便時の違和感や出血、肛門の腫れや痛み等が挙げられますが、無症状の場合もあります。 本記事では肛門がんの症状について以下の点を中心にご紹介します。
- 肛門がんの症状や兆候
- 肛門がんの原因やリスク因子
- 肛門がんの治療
肛門がんの症状について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
肛門がんとは?
肛門がんは、お尻の出口である肛門管やその周囲の皮膚に発生する、珍しい悪性腫瘍です。日本では全悪性腫瘍の約0.1%を占め、大腸がんの中では約2%とされており、女性に多く見られる傾向にあります。このがんは、肛門管と肛門周囲の皮膚組織にできることから「肛門がん」や「肛門管がん」と呼ばれます。
肛門がんは主に「腺がん」や「扁平上皮がん」等の分類があり、日本では腺がんが約8割、扁平上皮がんが約2割を占めるといわれています。この2つのがんタイプは性質が異なるため、治療方針もそれぞれ異なります。また、肛門管の特殊な上皮から発生するケースもあります。これらのがんは、表在組織の段階で留まることもあり、その状態は「ボーエン病」と呼ばれています。また、肛門がんは直腸とつながっているものの、大腸がんとは異なるがんに分類されます。
肛門がんの症状や兆候
肛門がんの症状は多岐にわたり、患者さんによって異なる場合があります。
主な症状を以下に挙げます。
- 排便時の赤黒い出血や痛み
- 肛門周囲のかゆみ
- 肛門周囲の硬いしこりや潰瘍
- 肛門の狭窄
肛門がんは痔核の出血とは異なり、赤黒い血液が分泌物と共に出ることがあるため、出血の性状を確認しておくことは重要です。
主な兆候を以下に挙げます。
- 排便時の違和感やいきみの増加
- 肛門の腫脹
- 血便
- 肛門からの出血
- 肛門付近のしこり
- 肛門周囲の痛みや圧迫感
- 肛門のかゆみや分泌物
- 排便習慣の変化
しかし、約25%の患者さんではこれらの症状が見られず、定期的な診察によってがんが発見される場合があります。これらの症状が肛門がんによるものかどうかは、必ずしも明確ではないため、問題が見られる場合は、早急に医師へ相談しましょう。
肛門がんの原因は?
肛門がんは多様な原因によって引き起こされます。原因を理解することは予防や治療を進める上で重要です。
肛門がんの原因
肛門がんの発生には複数の原因が関与していますが、主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。特に扁平上皮がんはHPV感染と密接な関係があるとされています。
また、長期間にわたる痔瘻の炎症が繰り返される場合、瘻孔(体内と体外との間、または管腔臓器間に生じる管状の欠損)からがんが発生するリスクがあります。
HPVは性的接触を通じて広く伝播し、性的活動を行った直後に感染する可能性が高いといわれています。HPVは主に性交渉時に感染しますが、性器同士の皮膚接触でも伝播する可能性があります。性交渉を経験する殆どの方が人生のどこかでHPVに感染するといわれ、一部の方は繰り返し感染することもあります。
肛門がんのリスク因子
肛門がんのリスク因子は、下記のものが挙げられます。
- HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染している(尖圭コンジローマ)
- HIV(ヒト免疫不全ウイルス)への感染や臓器移植など、免疫系の機能低下を招く状態や疾患がある
- 外陰がん、膣がん、子宮頸がんにかかったことがある
- 肛門性交の受け手側であること
- 多くの性的パートナーを持っている
- 肛門の皮膚に対する放射線療法
- 白板症
- 慢性瘻孔
- 鼠径リンパ肉芽腫
- 喫煙
肛門がんの検査
肛門がんの診断と治療計画の策定には、さまざまな検査が必要です。がんの存在、種類、拡がりの程度を明らかにし、適切な治療方法を決定するために検査が行われます。
肛門がんの診断
肛門がんの診断の為に、まず患者さんの身体診察と病歴聴取が行われます。この段階で、しこりやその他の疾患の徴候を調べます。
直腸指診では、医師が潤滑剤を塗った指を直腸内に挿入し、しこりや異常を探ります。
続いて肛門鏡検査と直腸鏡検査で、肛門と直腸の内部を観察し、異常な領域やがんの兆候がないか調べます。
これらの検査で異常が見つかった場合、生検(細胞や組織の採取)が行われ、採取された組織は病理学的に調査されます。これにより、がんの存在とその種類が確定されます。
肛門がんの広がりや転移の検査
肛門がんの診断が確定した後、その広がりや転移の有無を明らかにするために追加の検査が行われます。CT、胸部X線、MRI、PETなどの画像検査が用いられ、がんの大きさ、リンパ節への転移、遠隔臓器への転移などを評価します。また、膣、子宮頸部、子宮、卵管、卵巣、直腸の内診も行われ、腫瘍の拡がりを詳しく調べます。
【腺がんの場合の検査】 腺がんの場合、大腸がんに準じた検査が行われます。
まず、がんを確定させるために大腸内視鏡検査が行われます。
がんの正確な位置や広がりを調べるため、以下のような検査が行われます。
- 直腸指診:直腸内のしこりや異常の有無を指の感触で調べます。
- 注腸造影検査、CT検査、MRI検査:がんの広がりや大きさ、転移の有無を評価す調べるために行われます。
- PET検査:他の検査で転移・再発の診断が確定できない場合、全身のがん細胞の検出に用いられることがあります。
- 腫瘍マーカー検査:がんの診断の補助存在として行われます。また、診断後の経過や治療の効果を評価する見る補助的な方法として目的で使用されます。
これらの検査は、がんの種類や進行度を調べ、適切な治療法を決定する為に不可欠です。
肛門がんのステージ(病期)
肛門がんのステージ(病期)は、がんの進行度と広がりを示す指標で、治療計画を立てる上での基礎となります。
病期は、検査結果を元に決定されます。また、病期は腫瘍の大きさ(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、遠隔臓器転移の有無(M因子)によって定義されます。
【0期】
肛門の粘膜に異常細胞が見られますが、まだがん化していない段階です。これは「高度扁平上皮内病変(HSIL)」と呼ばれ、周辺の正常組織へ広がる可能性があります。
【I期】
I期の肛門がんでは、がんが形成されており、その腫瘍の大きさは2cm以下です。
【II期】
II期はIIA期とIIB期に分けられます。
IIA期では腫瘍の大きさが2cmを超えて5cm以下、IIB期では5cmを超えるものです。
【III期】
III期はより進行しており、IIIA期、IIIB期、IIIC期に分けられます。
IIIA期では腫瘍の大きさは5cm以下で、肛門や鼠径部付近のリンパ節に転移しています。
IIIB期では腫瘍の大きさに関わらず、膣や尿道、膀胱などの近くの臓器に広がっていて、リンパ節への転移はありません。
IIIC期では、腫瘍の大きさに関わらず、周辺の臓器へ拡がり、肛門や鼠径部付近のリンパ節に転移しています。
【IV期】
IV期は最も進行した状態で、腫瘍の大きさは問われません。リンパ節や近くの臓器に転移することがあり、肝臓や肺などの体の他の部位にも転移している可能性があります。
肛門がんの治療
ここでは、肛門がんの治療について紹介します。 肛門がんは腺がんと管扁平上皮がんの場合で、治療方法が異なります。治療方法の選択は、がんの進行度や患者さんの状態によって異なります。
腺がんの場合
腺がんの治療方法は大腸がんに準じます。
【内視鏡治療】
初期段階の腺がんでは、内視鏡を用いた「最小侵襲治療」が適用されることがあります。この方法は、がんがリンパ節に転移していない場合、また技術的に切除可能な大きさと部位にある場合に行われます。内視鏡的ポリープ切除術、内視鏡的粘膜切除術、内視鏡的粘膜下層剥離術などがあり、治療法は病変の特性に応じて選択されます。
これらの方法は体への負担が少ないとされていますが、出血や穿孔のリスクも存在します。
【手術治療】
内視鏡治療でがんの完全な切除が困難な場合や、より進行した腺がんには手術治療が適用されます。
手術では、がんが広がる可能性のある腸管とリンパ節を切除します。腫瘍の大きさや位置、及び患者さんの状態に応じて、腹腔鏡手術、開腹手術、ロボット支援手術などが選択されます。人工肛門(ストーマ)を作成する場合もあります。
【化学療法】
進行した腺がん、特にII〜IV期にかけてのがんには、化学療法が行われることがあります。また、手術が困難な場合や、転移を伴う場合には化学療法が中心となります。
化学療法は全身に作用し、がん細胞を攻撃しますが、根治を目指すものではなく、寿命を延ばす目的で用いられることが多いようです。
【放射線療法】
放射線療法は、直腸がんや転移がんの一部に用いられることがあります。この治療法は、腫瘍を縮小させたり、痛みを和らげたりする目的で行われます。
【免疫療法】
免疫療法は、抗がん剤の効果が得られなくなった場合に検討されますが、改善が見込める患者さんは少数だといわれています。
管扁平上皮がんの場合
管扁平上皮がん、特に肛門管に発生する場合の治療法は、病期によって異なります。 I期〜III期の肛門がんの治療法には以下のようなものがあります。
- 外科的切除(局所切除):肛門外側の周辺の皮膚に発生した腫瘍と、肛門開口部の内側に発生した、肛門括約筋には広がっていない腫瘍に行う
- 化学療法を伴う外照射療法
- 放射線療法(単独)
- 腹会陰式切除術:放射線療法および化学療法の後にがんが残存しているまたは再発した場合に行う
- 化学放射線療法
- 化学療法(単独)
- 免疫療法を追加する治療法
I〜III期までの肛門管扁平上皮がんでは、主に「化学放射線療法」が選択されます。この治療は、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせたもので、肛門を温存しながらがんを治療します。
「外科的切除」による治療も成績は化学放射線療法と同等とされていますが、外科的切除では永久人工肛門の造設が必要となるため、肛門を温存できる化学放射線療法が好まれる傾向にあります。
一方で、IV期または再発した肛門管扁平上皮がんの場合、QOL(生活の質)の改善や延命を目的とした緩和的な薬物治療が行われます。IV期の肛門がんの治療法には以下のようなものがあります。
- 症状を和らげ生活の質を高める緩和手術
- 症状緩和目的の放射線療法
- 症状緩和目的の化学療法と場合により放射線療法
- 免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験への参加
- 新しい治療法の臨床試験への参加
治療法の臨床試験とは、既存の治療法の改良や、新しい治療法について情報を集めること等を目的とした調査研究です。複数の臨床試験で現在の標準治療よりも新しい治療法が良好であると判断された場合は、その新しい治療法が標準治療となります。患者さんが臨床試験に参加することは、新しい治療法を試せるだけでなく、将来のがん治療の改善にもつながるため、検討してみても良いかも知れません。
肛門がんを悪化させないために
肛門がんは早期発見が重要で、そのためには定期的な健康診断と自己観察が必要です。
肛門がんに気付くには
肛門がんを早期に発見するためには、便潜血検査、直腸肛門指診、ファイバイースコピー検査などを年に一度は受けることが勧められます。特に、痔瘻がある場合は早期の治療が必要です。
肛門がんの症状には、肛門痛、出血、分泌物などがあります。これらの症状がある場合、1〜2週間位は坐薬などで様子を見て、症状が改善されない場合は速やかに医師の診察を受けましょう。自己診断に頼らず、医師の診断を受けることが、肛門がんを見逃さないために重要です。
肛門がんは予防できるのか
肛門がんの完全な予防は難しいものの、リスクを減らすことは可能とされています。重要なのは、HPV(ヒトパピローマウイルス)やHIVウイルスに感染しないための対策です。 性交時にはコンドームの使用を心掛けましょう。コンドームは感染リスクを完全に除去するわけではありませんが、感染の可能性を減らす助けになります。また、HPVワクチンの接種も肛門がんの予防に役立つ可能性があります。
加えて、禁煙や定期的な健康診断などの健康的な生活習慣を心掛けることが全体的ながんリスクの低減につながります。
まとめ
ここまで肛門がんの症状についてお伝えしてきました。 肛門がんの症状の要点をまとめると以下の通りです。
- 肛門がんの主な症状や兆候として、排便時の出血や痛み、肛門周囲のかゆみ等が挙げられる。また、赤黒い血液が分泌物と共に出ることがあり、しばしば肛門周囲の硬いしこりや潰瘍、肛門の狭窄といった症状を伴う 。
- 肛門がんの発生には複数の原因が関与していますが、主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染である。特に扁平上皮がんはHPV感染と密接な関係があるとされているため、予防が重要 。
- 肛門がんは手術療法や化学療法、薬物療法等があり、腺がんと管扁平上皮がんの場合で、治療方法が異なる。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。