痔瘻(じろう)とは、肛門の周りに膿のトンネルができて化膿を繰り返す病気です。下痢や切れ痔などが原因で、肛門腺に細菌が感染して膿が溜まります。 痔瘻は自然に治ることはないとされ、手術が必要です。 本記事では痔瘻の症状について以下の点を中心にご紹介します。
- 痔瘻の症状
- 痔瘻の原因や、なりやすい方
- 痔瘻の治療法
痔瘻の症状について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
痔瘻とは?
痔瘻(あな痔)は、肛門の周りに直腸から細菌が侵入し、肛門周辺におできができ、炎症を引き起こすことで膿を生成し、最終的に直腸と皮膚がつながるトンネルが形成される状態です。主に老年から中年の男性に多く見られますが、女性にも発症する可能性があります。痔瘻の初期症状は肛門周辺の痛みと発熱で、進行するとトンネルから膿が出てきます。さらに痛みや発熱を伴い、長期間放置するとトンネルが枝分かれし、稀にがん化(痔瘻がん)するリスクもあります。
痔瘻の主な原因は、下痢などによって肛門陰窩に下痢便が入り、細菌に感染することです。これにより肛門周囲膿瘍が形成され、最終的には外向きに破れて膿が出ます。痔瘻の治療には、薬による治療はほとんど効果がなく、根本的な治療法としては手術が必要です。手術方法には、瘻管を開く方法、切除する方法、くりぬく方法などがあり、痔瘻の形や広がり方、肛門からの距離、深さなどに応じて選択されます。
トンネルが枝分かれした状態は、大腸と皮膚が肛門以外でつながっているため、自然治癒は期待できません。放置すると悪化する可能性が高いため、早期の受診と適切な治療が重要です。特に進行した場合は、複雑な手術が必要になることもあります。また、痔瘻が長期間にわたって存在すると、多くの二次口を造り、治療が困難になることもあります。そのため、症状が見られた場合は、早めに医師の診断を受けることが推奨されます。
痔瘻の症状
痔瘻は肛門周辺のトラブルで、放置すると深刻な合併症を引き起こすことがあります。症状の理解と早期治療が重要です。痔瘻の症状は以下の段階で進行します。
痔瘻の初期症状
痔瘻の最初のサインは「肛門周囲膿瘍」から始まります。肛門周辺の痛み、かゆみ、しこり、膿が出るといった症状がみられます。放置すると、膿で下着が汚れるほど顕著になることがあります。
肛門周囲膿瘍を介さずに、ほかの疾患から痔瘻へ発展することもありますが、膿の症状は共通しています。
膿がトンネルを通じて外部に出ると、肛門周囲の痛み、かゆみ、腫れ、発赤、発熱、倦怠感などが見られます。
また、痔瘻によって形成されるトンネルは通常1つとされていますが、クローン病などの原因で複数のトンネルが形成されることもあります。
痔瘻になる前段階(肛門周囲膿瘍)
「肛門周囲膿瘍」は、肛門の近くに膿瘍が形成される状態です。これは痔瘻に至る前段階で、膿の蓄積によって肛門周囲が腫れ、激しい痛みや38〜39℃の発熱を伴います。膿瘍が肛門の浅い部分にある場合、痛みが強くなり、深い部分にある場合は腰痛を引き起こすこともあります。
腫れている部分が自然に破れて膿が出ることもありますが、医療機関で切開して膿を取り除くことで治療されます。
膿が出ると痛みは治まるとされています。
痔瘻を繰り返し「瘻管」が形成される
痔瘻が繰り返されると、肛門周囲に「瘻管(ろうかん)」が形成されます。瘻管は、体内の異なる2つの器官や組織、または体内と体外をつなぐ異常な通路です。これは、感染、炎症、外傷、手術などによって形成されることがあります。瘻管が形成されると、通常は分離されているべき体液や組織が互いに交流するようになり、感染の拡大や慢性的な炎症を引き起こすリスクが高まります。炎症が継続すると、膿や分泌物が絶えず出る状態となり、下着が汚れるようになります。
瘻管は自然に閉じることは少なく、多くの場合、適切な医療介入が必要です。治療方法は瘻管の位置や原因によって異なり、薬物療法や手術が行われることがあります。瘻管の存在は患者の生活の質に影響を及ぼすこともあるため、早期発見と治療が重要です。瘻管の形成にはいくつかのタイプがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。
- Ⅰ型痔瘻:肛門上皮や皮下に瘻管がある状態で、「皮下痔瘻」「粘膜下痔瘻」とも呼ばれる。 「切れ痔」の裂け目に便が詰まることで起きることが多いといわれ、ほかの痔瘻とは異なり、肛門腺とは関係のない場所にできる。
- Ⅱ型痔瘻:「筋間痔瘻」とも呼ばれ、痔瘻の中でも多く見られる傾向にある。 内肛門括約筋と外肛門括約筋の間を瘻管が走る痔瘻であり、瘻管の深さによって分類が異なり、歯状線より上にできるものを「高位筋間痔瘻」、下にできるものを「低位筋間痔瘻」と呼ぶ。 また、瘻管が1本のものは「単純型」、瘻管が2本以上あるものは「複雑型」と呼ばれる。
- Ⅲ型痔瘻:瘻管が肛門括約筋の奥にある肛門挙筋より下方に発生するもので、「坐骨直腸窩痔瘻」とも呼ばれる。 男性に起こることが多いとされる。
- Ⅳ型痔瘻:「骨盤直腸窩痔瘻」とも呼ばれ、発生は稀といわれている。 肛門挙筋を貫いて進行する。
これらの瘻管は複雑な形状を取ることがあり、適切な治療が必要です。
痔瘻の原因
痔瘻の原因は、主に肛門部に細菌が侵入して起こる感染です。下痢等によって、肛門の歯状線にある「肛門陰窩」という小さなくぼみに、便が入り込むようになります。
肛門陰窩には、粘液を出す「肛門腺」があり、便が侵入すると、大腸菌などの細菌が入り込んで感染し、化膿することがあります。また、肛門陰窩に傷があったり、免疫力が低下したりしていると、細菌感染により化膿しやすくなります。これが肛門周囲膿瘍を形成し、最終的には肛門の内外をつなぐトンネル、つまり痔瘻が形成されます。
肛門陰窩や肛門腺に便が侵入し、感染・化膿すると、まず「肛門周囲膿瘍」という状態になります。この肛門周囲膿瘍が繰り返されると、くぼみが深くなり痔瘻へと進行します。肛門周囲膿瘍の約3〜5割が痔瘻へと移行するとされています。
また、切れ痔やクローン病、結核、膿皮症などを原因として痔瘻になることもあります。
痔瘻になりやすい人
痔瘻になりやすい方の傾向や特徴はあるのでしょうか。排便時に関連した要因や免疫力、病気が関連しています。以下に詳しく解説します。
いきむ力が強い
排便時に強い力でいきむ方は注意が必要です。特に青年期から中年期の男性は、筋肉が発達している為、排便時に強い力を使う傾向にあります。
強いいきみにより、便が肛門腺窩に入り込む可能性が高まります。また、勢いよく排便することで便が肛門腺に直接触れ、細菌感染のリスクを高めることになり、これが痔瘻の形成に寄与すると考えられています。
下痢をしやすい
下痢を頻繁に起こす方は痔瘻になりやすいとされています。 下痢は普通便よりも肛門陰窩(肛門の歯状線にある小さなくぼみ)に便が入り込みやすい傾向にあります。このとき、免疫力が低下していると、細菌が肛門腺で繁殖し、感染を引き起こして肛門周囲膿瘍を発生させる可能性が高まります。
肛門周囲膿瘍がさらに進行して悪化すると、痔瘻に発展することがあります。
過度の飲酒やストレスは下痢を引き起こす要因となるため、飲み会の多い方や仕事でのストレスを抱えている方は注意が必要です。
免疫力が低下している
免疫機能がしっかり働いている場合は、肛門陰窩に便が入り込んでも感染症を起こすことはありませんが、免疫力が低下している方は、感染源となる最近に押し勝つ力が不足しているため、痔瘻を発症しやすくなります。
過労やストレス、風邪などによる体調不良や、過度の飲酒や喫煙による免疫力の低下が、細菌感染のリスクにつながります。
適切な休息と健康管理が、痔瘻の予防に役立ちます。
痔瘻になりやすい病気
痔瘻の発生には、特定の病気が関連していることもあります。切れ痔(裂肛)、クローン病、結核、膿皮症、HIV感染症などの疾患が痔瘻を引き起こすことがあります。中でもクローン病による痔瘻は、若い方に多いといわれています。クローン病とは、消化管に慢性的な炎症を引き起こす病気です。主に小腸や大腸に影響を及ぼし、症状には、腹痛、下痢、体重減少、疲労感などがあります。原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、免疫系の異常、環境要因などが関与すると考えられています。治療には、炎症を抑える薬物療法や、場合によっては手術が必要になることもあります。原因不明かつ上記の不調を自覚した際は、病院の受診を推奨します。
上記の病気は、大腸の炎症や免疫システムの問題に関連しており、痔瘻の形成に影響を与える可能性があります。症状が繰り返し出現する場合は、これらの病気の有無を確認するために大腸内視鏡検査を受けることが推奨されます。
お尻の診察は恥ずかしいと感じる方もおられるかも知れませんが、対処が遅れると予後が悪くなる可能性があります。症状に気が付いた場合は、早めに受診するようにしましょう。
痔瘻の診断
痔瘻の診断は、主に視診や触診、指診によって行われます。 浅い肛門周囲膿瘍は、目で見て発赤や腫脹を確認し、指で触って膨らみや痛みを感じることにより診断されます。
深い部分にある膿瘍は、目で見ても分かり難いことがあるため、指で触って診断されます。さらに、CT検査や超音波検査を補助的に用いて診断が行われることもあります。
痔瘻自体は、肛門周囲にできた二次口(膿の出口)を目で見て確認し、瘻管を指で触って診断します。より複雑な痔瘻の場合、その広がりを知るためにMRI検査が行われることもあります。
肛門周囲膿瘍の症状には肛門周囲の突然の痛み、腫脹、発赤があり、痔瘻になると持続的な膿の排出や時に出血も見られます。
肛門の指診では、医師が肛門に指を入れ、肛門部や直腸の状態を調べます。さらに肛門鏡を使用して詳細な情報を得ることもあります。必要に応じてCT検査やMRI検査を補助的に行い、痔瘻のタイプや正確な位置を特定します。また、クローン病など大腸の疾患が疑われる場合は、大腸カメラ(内視鏡)検査を行うこともあります。
これらの手法を組み合わせることで、痔瘻の正確な診断につながります。
痔瘻の治療と手術の種類
痔瘻は痛みや不快感を伴う状態であり、適切な治療が必要です。 痔瘻の治療にはさまざまな方法があり、症状や状況に応じて手術法が選ばれます。
治療について
痔瘻の自然治癒は稀とされ、基本的には手術が行われます。主に痔瘻の管を開いたり、切除したりする手術が行われます。
痔瘻の治療は、膿を排出するための「切開・排膿」が原則とされています。診断がつけば、基礎疾患や抗血栓薬の使用の有無に関わらず、速やかに切開・排膿が行われます。膿瘍が浅い所にある場合は局所麻酔下で切開されますが、深いものは腰椎麻酔下などで行われます。 また、皮下に広範囲に広がったものや全身的な合併症を持つ場合や、切開だけでは症状の改善が長引くと予想される場合は、抗菌薬が投与されます。
瘻管が残った場合には、根治を目指す手術が必要です。場合によっては、肛門周囲膿瘍の段階で根治手術が行われることもあります。
切開開放術
切開開放術は、痔瘻の形が単純で浅い位置にある場合に行われる手術法です。瘻管を切り開き、痔瘻のトンネル(膿の入り口から出口まで)と共に括約筋を切除します。そして、下から肉を自然に盛り上げていきます。
切開開放術手術は、肛門の機能への影響は少ないとされ、便が漏れることはほぼ無いといわれています。しかし、括約筋が大きく傷つく可能性があり、肛門の締まりが悪くなったり、形が変わったりすることも稀にあるようです。
括約筋温存術
括約筋温存手術は、瘻管をくりぬくことで、括約筋の損失を抑えるための方法です。痔瘻が括約筋の深い位置を通っている場合に行われます。
括約筋温存手術は、膿の入り口や膿の元、出口部分だけを切除し、括約筋を温存させます。そのため、瘻管が深い位置を走る複雑な痔瘻や、肛門の側方や前方を走る痔瘻に適するとされています。
くり抜き法や筋肉充填法、括約筋外アプローチによる術式などがあります。
シートン法
シートンとは、糸を意味します。
シートン法は、瘻管にゴム糸を通して徐々に切開し、開放する手法です。肛門の変形が少なく、再発も少ない方法とされています。
どの部位に痔瘻ができているかにもよりますが、治療は3ヶ月〜半年程にわたって行われ、定期的な外来通院が必要です。ゴム糸の締め直しや交換が行われ、最終的にゴムが外れることで治療が完了します。
シートン法は、括約筋の機能を保ちつつ、再発が少ないといわれています。
まとめ
ここまで痔瘻の症状についてお伝えしてきました。 痔瘻の症状について、要点をまとめると以下の通りです。
- 痔瘻は肛門周辺の痛み、腫れ、発赤、発熱、膿や分泌物の排出が特徴。痔瘻を繰り返し「瘻管」が形成され、症状が継続することもある
- 痔瘻の主な原因は肛門腺の細菌感染で、特に下痢しやすい方、免疫力が低下している方、強くいきむ方がなりやすいとされる
- 痔瘻の治療には切開排膿、切開開放術、括約筋温存術、シートン法などがあり、手術法は症状や痔瘻の形状に応じて選ばれる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。