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肛門の腫瘍 | 肛門がん・肛門周囲膿瘍などの症状・治療方法を解説

肛門 腫瘍

肛門がん・肛門周囲膿瘍はいずれも大腸肛門外科の取り扱う疾患です。肛門がんは臨床例は極めて少ないですが、初期に無症状のケースもあるのが厄介です。

一方、肛門周囲膿瘍は命に関わる疾患ではありません。しかし、放置すると肛門がんに移行するケースがあるので油断はできません。

本記事では、肛門がん・肛門周囲膿瘍の症状・原因・検査・治療法・予防法・術後後遺症など、詳しく説明します。

肛門にできる腫瘍(肛門がん・肛門周囲膿瘍)の症状・原因について

男性 お尻 ハート

肛門に腫瘍ができたらどのような病気が考えられますか?
肛門に腫瘍ができた場合、主な疾患としては以下のようなものが考えられます。
  • 肛門がん
  • 肛門ポリープ
  • 肛門周囲膿瘍
  • 痔核(いぼ痔)
  • 直腸がん
  • 直腸ポリープ

肛門周辺の腫瘍のなかでは、肛門がんは極めて稀な疾患です。とはいえ、直腸がんと同様に悪性腫瘍のため、放置すれば命に関わります。肛門周囲膿瘍は進行すると痔ろうとなりますが、それ自体は死病ではありません。
ただし、痔ろうを放置すると肛門がんに移行するケースがあることが確認されているため軽視はできません。
また痔核はがん化することが考えにくいですが、ポリープはがん化のリスクがあるため注意が必要です。

肛門がんの場合はどのような症状がみられますか?
肛門がんの症状としては以下のようなものがみられます。
  • 排便時の違和感
  • 肛門の腫脹
  • 肛門周辺の痛み
  • 血便

肛門周囲膿瘍をはじめとする痔疾と似ている症状が多い傾向があります。また、2割程度はまったく症状がないケースもあります。
がんの種類としては日本では腺がん8割・扁平上皮がん2割です。海外では扁平上皮がんの方が多いという、日本とは真逆ともいえるデータもあるのです。
肛門がんは悪性腫瘍で早期発見が重要であるため、慎重な検査が必要になります。発症例自体が極めて少ないことも、誤診を防ぐために慎重になる必要がある理由のひとつです。

肛門周囲膿瘍の症状について教えてください。
肛門周囲膿瘍の症状は、以下のように肛門がんと類似しているものが多いようです。
  • 肛門周辺の違和感
  • 肛門の腫脹
  • 肛門周辺の痛み
  • 全身の発熱

進行して肛門周辺に穴が開いて膿が外に出ると痛みは治まりますが、治癒したわけではありません。
何らかの理由で穴がふさがり膿が排出されなくなると、再び痛みが出るようになります。膿が溜まる場所によっては、痛みをあまり感じないこともあるでしょう。
痔ろうになって痛みがなくなると放置する人もいますが、長期にわたって放置すると肛門がんの原因となってしまいます。

肛門に腫瘍ができる主な原因は何ですか?
肛門がんの原因は完全には判明していませんが、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染者に発症例が多いことが広く知られています。肛門周辺でのHPV感染は男性間での性交渉が原因で起きるケースが多く、男性同性愛者は肛門がんのリスクが高いです。
痔ろうが原因のケースは初期発見が2割を切っているなど発見が難しく、予後はよくありません。
肛門周辺膿瘍は肛門腺に細菌が入り、炎症を起こすことが原因のひとつです。下痢が引き金となり、肛門腺に細菌が入ってしまうのです。腸の粘膜に異常を起こす指定難病、クローン病が原因で起きることもあります。
顔にできるニキビと同じように、毛嚢炎が原因となるケースもあります。この場合は肛門腺の炎症とは違い、進行して痔ろうになるようなことはほとんどありません。

肛門にできる腫瘍の検査・治療方法

手術中

肛門の腫瘍にはどのような検査を行いますか?
腺がん・扁平上皮がんとも大腸内視鏡検査を行って病変が肛門周辺にとどまっていることを確認したうえで、原発巣の病理検査を行います。
肛門がんのなかには大腸などから転移してきたケースもあり、原発巣であることを確認しなければならないからです。その後、CTをはじめとする画像検査を行い、進行状態を確認して病期を確定させます。
肛門がんの初期は無症状であることも少なくなく、そうしたケースでは検査自体を行うことが難しくなります。
扁平上皮がんの場合は肛門周囲の皮膚の状態変化として見逃されるケースもあるので、病変部が広がっていくようならば検査が必要です。痔ろうががん化したケースの場合は腺がんの一種である粘液がんとなります。
長期化した場合、これまでになかった粘液の排出などがないかどうかをしっかりと確認しておかなければなりません。がん化の重要な指標のひとつだからです。
肛門がんの治療方法について教えてください。
腺がんの場合は、外科手術が第一選択となります。
がんのサイズが2cm以下で浸潤がない場合には、病変部周辺の5mm前後の組織とともに切除します。放射線治療などの選択肢もありますが、外科手術と比較すると治癒率が落ちるのが現状です。
扁平上皮がんの場合は、抗がん剤と放射能治療を組み合わせた化学療法が世界標準となっています。扁平上皮がんは化学療法の効果が高いうえ、外科手術がQOL(生活の質)に悪影響を及ぼす可能性があることが背景にあります。
ステージ3までなら外科手術でがんを完全に切除することが可能ですが、人工肛門を設置することになる可能性が高いためです。
痔ろうのがん化については外科手術が原則で、進行状態によって直腸切断術・骨盤内臓全摘術のいずれかを行います。
肛門周囲膿瘍はどのような治療を行いますか?
肛門周囲膿瘍は治療に先立ってCT・MRI検査・内視鏡・X線撮影・超音波検査などで内部の状態を確認します。痔ろう化してトンネルができていないか確認するためです。
治療法の第一選択は外科手術で、患部を切開して膿を排出します。化膿による疾患であるため、抗菌剤の投与も必要です。
進行して痔ろうになっている場合には、手術によってトンネルの切除・トンネルのくり抜きのいずれかを行います。
トンネルの切除は根治性が高い半面、括約筋へのダメージが大きくなるリスクがあります。トンネルのくり抜きは括約筋へのダメージは小さいですが、再発率はトンネル切除と比較すると高めです。
肛門周囲膿瘍・痔ろうはクローン病などの合併症として生じるケースもあり、その場合はもととなる疾患に対する治療も必要となってきます。

肛門の腫瘍に対する注意点・予防法

医師 バツ

治療をしても再発する可能性はありますか?
肛門がん全体の再発率は3割程度で、外科手術によって切除した場合も経過観察が必要です。ただし、その多くは局所再発です。
扁平上皮がんの場合はがん細胞が目視で確認できる範囲よりも広がっており、肛門機能を残すことを意識しすぎてがん細胞を残してしまうことが再発の原因のひとつとして挙げられています。
痔ろうがんの場合はステージ1の5年生存率は90%ですが、トンネル内にできるため早期発見そのものが難しいという問題があります。5年生存率はステージ2が67%、ステージ3が29%となっています。
いずれにしても、再発のリスクがあるため経過観察は欠かせません。
手術による合併症・後遺症はありますか?
がんがある程度進行している場合、直腸切断術を行わなければなりません。このときに肛門を温存したケースでは、術後に排便障害が起きることが想定されます。
直腸には便を溜めておく機能がありますが、直腸の一部を切り取ることによってその機能が低下してしまうことが原因のひとつです。
手術によって肛門括約筋が傷ついてしまうことも、排便障害の原因となります。手術によって直腸周辺の神経が傷つけば、排尿障害・性機能障害が起きることもあるのです。
また、直腸切断術を行った場合には縫合不全・創感染をはじめとする合併症のリスクもあります。縫合不全が起きる可能性は5%前後で、重篤な場合は一時的に人工肛門を設置して患部の回復を待ちます。
創感染は手術を行う場所が必ずしも衛生的とはいえないことが原因です。感染が起きた場合には患部を切開し、膿を排出する処置を行います。
効果的な予防法があれば教えてください。
肛門がんのうち、扁平上皮がんの発症者の多くはHPV感染者です。肛門に性器の挿入を行わないことが予防につながります。また、HPVワクチンの接種も感染予防には効果的で、男性も全額自己負担にはなりますが接種は可能です。
痔ろうがんの場合は長期間放置しなければ発症しないので、肛門周囲膿瘍の早期治療を行うことががん予防につながります。
肛門周囲膿瘍そのものの予防法は下痢・便秘を防ぐことで、食生活を整えること・ストレスを解消することなどが推奨されています。

編集部まとめ

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肛門がんは極めて稀な疾患ですが、痔疾と症状が似ていることもあり早期発見は簡単ではありません。早期発見できなければ、外科手術に伴うQOL低下のリスクがあります。

ただし、扁平上皮がんは肛門周辺のHPV感染、痔ろうがんは疾患の長期にわたる放置というわかりやすいハイリスク要因があります。

HPV感染についてはリスクがある行為は避けられるようなら避け、無理な場合はワクチンによる感染予防などの対策が効果的です。

痔ろうがんについては肛門周囲膿瘍の早期治療が予防対策になります。いずれにしてもハイリスク要因を可能な限り排除し、排除できない場合は定期的に検査を行うことが重要です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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