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痔瘻の原因は下痢や切れ痔など…痔瘻の基礎知識から治療方法まで

痔瘻の原因は下痢や切れ痔など…痔瘻の基礎知識から治療方法まで

排便をした、していないに関係なく常におしりが痛む、熱が出た、おしりに腫れがある、膿のようなものが下着に付着する……。その症状は、痔瘻(じろう)かもしれません。痔瘻とはどのような病気で、一体何を原因として発症してしまうのでしょうか。また、痔瘻の症状は、病院へ行かずにそのまま放置しても大丈夫なのでしょうか。気になる痔瘻の基礎知識や検査方法、治療方法などについて詳しくご説明します。

痔瘻とは

痔瘻とは 痔瘻とは、おしりに膿の通り道である瘻管(ろうかん)が発生することによって、繰り返し化膿してしまう厄介な病気です。おしりに穴ができてしまうといった特徴から、「あな痔」とも呼ばれています。痔瘻とはどのようなものなのかを、次にわかりやすくご説明します。

痔瘻とはどのような病気か

痔瘻とは、なんらかの理由で便が肛門と直腸の境目にある小さなくぼみ(肛門陰窩)に侵入することによって細菌に感染し、それが化膿して肛門周辺膿瘍(のうよう)を発症。この病状が進行した結果として、膿の出入り口がつながってしまった状態のことをいいます。痔瘻が発生する状況を、順を追ってわかりやすく説明していきます。
肛門と直腸の境界線となる歯状線(しじょうせん)には、前述した肛門陰窩が存在しています。この小さなくぼみは、粘液を出す役割である「肛門腺」へとつながっています。通常、肛門陰窩に便が侵入することはないものの、下痢をした際に水様便が出ることなどによって便が肛門陰窩を通して肛門腺へと侵入すると、大腸菌などの細菌に感染してしまう場合があります。
その細菌感染によって炎症を起こしたことで化膿してしまい、肛門腺に膿がたまると肛門周囲膿瘍を発症します。これは痔瘻になる前の段階として発症するもので、体の抵抗力の低下、免疫力の低下などがあると起こりやすいとされています。
この肛門周囲膿瘍が繰り返されていき、膿がたまって、おしりの皮膚に膿の排出口(二次口)ができてしまうと「痔瘻」ということになります。膿の通り道は瘻管(ろうかん)と呼ばれます。瘻管はおしりの内部にそのまま残り続けてしまうため、細菌の侵入と膿の排出を繰り返すことにつながるのです。 なお、痔瘻にはいくつかの種類があり、皮膚に開口部がない痔瘻も少なくありません。

痔瘻の症状

主な痔瘻の症状としては、以下のようなものがあります。

  • おしりから膿が出てきて下着が汚れる
  • 排便をした、していないに関係なく痛みがある
  • おしりに腫れがあって痛む
  • 熱が出る(人によっては、38~39℃と高熱が出ることもある)

直腸と肛門周辺の皮膚がつながり、そこから溜まった膿が出て下着が汚れることや拍動性の痛みを伴うことがあります。特に触れたり排便したりしていないのに痛む場合も多いです。病状によっては、椅子に座れないほどの激しい痛みを感じる場合があります。

痔瘻の種類

痔瘻は、瘻管が発生する場所によって大きく4つの種類に分けられます。それぞれの特徴について詳しくご説明します。

・Ⅰ型痔瘻(皮下痔瘻、粘膜下痔瘻)
瘻管が肛門上皮の下にできていて、なおかつ筋肉を貫通していない痔瘻のことです。裂肛(切れ痔)の裂けた部分に便が詰まってしまうことで発生する場合が多くなっており、肛門腺とは関わりのないところにできます。「裂肛痔瘻」とも呼ばれます。

・Ⅱ型痔瘻(筋間痔瘻)
瘻管が内肛門括約筋と外肛門括約筋の間を通っている種類の痔瘻のことです。痔瘻の中でも特に頻度が多いといわれているのがこのタイプです。
Ⅱ型痔瘻の中にも、瘻管のできている場所の深さの違いで、2種類の痔瘻があります。
低位筋間痔瘻(歯状線よりも低いところにできる)は、膿がたまるとおしりの皮膚に膿の出口である二次口ができ、膿が排出されてしまうことがあります。
高位筋間痔瘻(歯状線よりも高いところにできる)は、膿の通り道が体の上側にある直腸へと伸びていくことが特徴です。膿の通り道は体内の奥へと向かっていき、膿の出口が皮膚側にできないことから、肛門の奥に痛みを感じたり、違和感が出たりすることがあります。

・Ⅲ型痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻)
瘻管が外肛門括約筋を越えて伸びていくことが特徴の痔瘻です。Ⅱ型痔瘻の次に頻度が多くなっている痔瘻だとされています。

・Ⅳ型痔瘻(骨盤直腸窩痔瘻)
瘻管が外肛門括約筋の奥の肛門挙筋と呼ばれる筋肉を貫通して進んでいくことが特徴の痔瘻です。なお、このⅣ型痔瘻の発生はまれだと言われています。

痔瘻の原因

痔瘻の原因 ここまでは痔瘻の概要やその種類について、説明しました。では、痔瘻になる具体的な原因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。痔瘻の原因とされる要因について、それぞれ見ていきます。

下痢

痔瘻は下痢を繰り返しやすい人に起こりやすい傾向があり、どちらかというと男性に多い疾患だといわれています。しかし女性であっても、普段から下痢をしやすい人は注意しておくといいでしょう。
また、慢性的な便秘で困っている人の中には、刺激性の下剤を服用することで下痢となってしまう人もいるのではないでしょうか。下痢が痔瘻となる明確な原因とはされていませんが、下痢によって肛門陰窩への便の侵入が起こりやすいとされているため、下痢になりやすい人は注意しておくに越したことはありません。

裂肛(切れ痔)

通常の切れ痔では、傷がみられるのは肛門の皮膚(肛門上皮)のみであり、その下にある筋肉(肛門括約筋)への創傷は少ないとされています。しかし肛門は便が毎日のように通っていくため、なかなか治らないまま傷がふさがらずに深くなっていき、慢性化してしまう場合があります。
特に慢性的な便秘などで切れ痔(裂肛)を繰り返している人は、だんだんと傷が深くなっていき、潰瘍ができてしまうこともあるのです。深い傷が治らないままでいると、そこから細菌が侵入してしまい、痔瘻へと変わってしまう危険があります。そのため、慢性的な切れ痔(裂肛)がある人も痔瘻にならないよう注意したいところです。

クローン病

腸に炎症を起こす病気「炎症性腸疾患」のひとつであるクローン病は原因不明の病気であり、厚生労働省の「難病」に指定されています。
クローン病の痔瘻は、直腸の潰瘍からトンネルができることによって発生し、一般的な痔瘻と比較すると複雑な形になることが多いともされます。クローン病自体は医学では治すことができないといわれており、クローン病の痔瘻であることが判明した場合、長期にわたって治療をしていく覚悟が必要になります。
経過の良い人であれば痔瘻が完治することもありますが、完治できないとしても、痛みや膿の排出に伴う苦痛をできるだけ生活に支障のない範囲にまで緩和し、その状態を維持することによって、おしりにかかる苦痛を最小限にすることはできます。

そのほかの病気

そのほかの病気として、HIV感染、結核、膿皮症などの感染症が痔瘻の原因として挙げられることがあります。そのため、感染症には十分注意をしておくことが大切です。

痔瘻になりやすい要因

上記に挙げた以外の要因としては……

  • 過度なストレスや緊張を感じる
  • 肛門括約筋の緊張が強い
  • 糖尿病を患っている
  • 過度の飲酒や喫煙をしている

といった生活習慣を原因として免疫力が低下した人は、痔瘻を引き起こしやすい傾向にあるとされています。健康的な生活を心がけるようにしましょう。

痔瘻の検査・診断方法

痔瘻の検査・診断方法 痔瘻の検査や診断は、どのような方法で行われるのでしょうか。気になる痔瘻の主な検査・診断方法について、詳しくご説明します。

医師による診断

医師による痔瘻の診断は視診の後、指診や双指診が行われることがあります。 指診とは、肛門に入れた人差し指を内部で回転させながら、その指で前後左右を圧迫してみることで痛みがある部分がないか、瘻管の出口から溜まった膿が出てくるかどうかを調べる検査です。双指診では、肛門に人差し指を差し込み、肛門の縁に親指(あるいはもう片方の人差し指)を当てて指で挟むことによって、腫れやしこりがある部分がないかを調べます。

CT検査

CT検査は、痔瘻の治療を始めていくにあたって、瘻管がどのような方向にどれくらい伸びているのかを把握するために必要であり、主にⅢ型痔瘻(坐骨直腸窩膿瘍)やⅣ型痔瘻(骨盤直腸窩痔瘻)を診断するために行われます。

エコー(超音波)検査

肛門から超音波用プローブを入れて、肛門周辺膿瘍がないか、痔瘻がどこにあるのか、痔瘻がどれくらい広がっているのかなどを診断する検査です。検査を受ける人の負担を少なくすることができ、すぐに病変の情報を得ることができます。

MRI検査

MRI検査は、CT検査に比べて空間分解筋間コントラストに優れていて、横断像や冠状断像、矢状断像を自由に得ることができるため、複雑な痔瘻の場合に補助的に用いられる検査です。

内視鏡検査

膿瘍、痔瘻の発生原因となる原発口がどこにあるのかを確認するために行う検査です。痔瘻の症状を繰り返している場合や複雑な痔瘻の場合は肛門菅が硬くなっていて、うまく広がらないこともあるため、直腸肛門鏡にゼリーを塗って滑りを良くし、できるだけダメージがないように行われます。

痔瘻の治療方法

痔瘻の治療方法 痔瘻になってしまった場合、必ず手術をしなければならないものなのでしょうか。手術以外の治療方法はあるのでしょうか。気になる痔瘻の治療について、ご説明していきます。

痔瘻は放置できる?

痔瘻は人によって高熱(38~39℃)が出たり、激しい痛みを伴うことが多くなっています。病状が進んで膿が破れて排出されると、一時的に痛みが軽減され症状も改善したように感じることがあります。しかし、これは改善されたように感じているだけであって、痔瘻そのものが治ったわけではありません。再度膿が溜まってくると、再び激痛となる危険性が高いです。また、症状によっては瘻管から排出される膿によって皮膚がかぶれて、ひどいかゆみを感じることもあります。
瘻管の数が増加していくと、肛門の機能に支障をきたして排便しづらい、便が細くなるなど排泄状況にも大きく関わってきます。 基本的に痔瘻は放置しても自然治癒はしません。少しでも症状がある場合は、早めに病院を受診してください。

痔瘻治療には手術が必要

痔瘻の治療は、基本的に手術が必要となります。手術をしないまま放置してしまうと、再度膿が溜まって患部が腫れたり、痔瘻の瘻管が曲がるなどして複雑な形に枝分かれしてしまうケースがあります。また、痔瘻を10年以上といった長期にわたりそのまま放置してしまうと、痔瘻癌が生じる危険性もあります。そのため、痔瘻との診断を受けた場合は、なるべく早く病院で手術を受けるようにしましょう。

痔瘻手術の種類

痔瘻手術の種類 痔瘻の手術には、さまざまな方法があります。ここでは主な痔瘻の手術方法について、種類別に詳しくご説明していきます。

瘻管切開開放術

浅いところにできている痔瘻に対して用いられる手術方法で、瘻管を入り口(原発口)から出口(二次口)までを切り開いて開放します。瘻管と同時に、排便をコントロールするために必要な筋肉である括約筋も切除しますが、括約筋は端のほうを少し切除する程度なので肛門の機能に大きな影響はなく、便が漏れるということもほとんどありません。

肛門括約筋温存手術

こちらは括約筋を温存する手術方法で、括約筋の機能が落ちている人(高齢者など)や、前方痔瘻の人に適しています。また、痔瘻が括約筋の深い場所を通っている場合に用いられる手術でもあります。 痔瘻の入り口から出口までをくりぬくような形で切除。瘻管のみを切除するため、括約筋を残したまま患部を除去することが可能となります。そのため、深い場所にできた痔瘻だとしても、肛門の機能をそのまま残して切除できます。 肛門括約筋温存手術の中でも、筋肉充填法、くり抜き法、括約筋外アプローチなどに細分化できます。

シートン法

瘻管にひも(シートン)を通して少しずつ縛っていくことによって、長い時間をかけてゆっくりと瘻管を開放していく手術方法です。開放するまでは常時シートンが体に入っている状態になるため、違和感や痛みがある場合があります。 時間をかけて少しずつ切開していく手術なので、ほかの手術方法と比較すると治療にかかる期間は長くなるものの、括約筋の損傷を少なくすることができます。治療期間はどこに痔瘻ができているかで異なりますが、約3か月半から半年かかります。また、定期的に通院してシートンを交換することが必要です。

まとめ

痔瘻の症状や種類、原因や治療方法などについて、詳しくご説明しました。痔瘻にならないためには、普段の生活習慣に気を配ることも大切です。痔瘻になった際、「恥ずかしい」「たかがおしりの病気」と侮ってそのまま放置してしまうと、最悪、痔瘻癌を患うことにもなりかねません。もしもおしりが痛む、違和感があるなど、気になる自覚症状があれば早めに病院で診察してもらいましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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