痔ろう(あな痔)とは肛門以外に直腸と皮膚をつなぐトンネルの出口ができてしまうタイプの痔をこう呼びます。
下痢・軟便・大便をいきむなどにより肛門周囲に炎症を起こして膿がたまる肛門周囲膿瘍が慢性化すると痔ろうとなります。
痔ろうは大腸とつながってトンネルを形成しているため感染を繰り返し、自然治癒は望めず、放置しておくと癌に発展する可能性も否めません。気付いたら早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
ここでは、痔ろうの初期症状・なりやすい人の特徴について、また痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍とは何か・初期症状と治療法について解説しましょう。
お尻のトラブルでお悩みの人はぜひ参考にしてください。
痔ろう(あな痔)の初期症状
お痔ろうは肛門周囲の皮下に膿が溜まることで起こるため、膿がたまり同時に発熱と痛みをともないます。痛みや発熱の程度は膿の大きさと大体比例しているため、痔ろうが大きいと症状はひどくなります。
ほかにも痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍では、肛門周囲の皮膚に吹き出物やニキビと同様の毛穴が赤くなって膿が出ることもあるでしょう。
気付きやすい症状は、肛門周囲の腫れと痛みです。中に溜まった膿が持続的に排出されるために、下着が汚れたり、時に血が混じった膿が排出されたりすることもあります。
痔ろう(あな痔)の症状
お尻にトラブルをお持ちの人で、痔ろう(あな痔)の症状にはどのようなものがあるか気になることもあるのではないでしょうか。ここでは、痔ろうの具体的な症状について解説しましょう。
肛門湿疹
痔ろうにより肛門の周囲にかゆみをともなう湿疹が現れることもあります。
痔ろうは肛門の周囲の皮下に膿が溜まり、それが皮膚を破って出てしまうことが原因であるため、炎症を起こしている・またはその滲出液(しんしつえき)で肛門が常に湿っている状態になります。
このような場合、皮膚がふやけて少しの擦れなどでも皮膚トラブルを起こし赤くなるため、湿疹の原因になりうるでしょう。自覚症状としてはかゆみとしみるような感覚が出現します。
肛門分泌物
痔ろうがあると、肛門周囲の皮膚の下に溜まっている膿が出口である痔ろうから排出されるために肛門周囲や肛門からも膿である分泌物が排出されます。膿が出ることで下着が汚れてしまうといったデリケートな問題が出現することもあるでしょう。
ほかにも痔ろうにより直腸の肛門周囲も炎症を起こしている状態であり、滲出液が分泌されるため結果として肛門から分泌物がみられ、痒みや違和感をともないます。
出血
痔ろうにより肛門周囲に炎症を起こしている状態では、皮膚は傷つきやすく擦れて出血の原因にもなり、膿に血が混ざって排出されることもあります。
また排便の際に皮膚や粘膜が圧力や便により擦れて出血を起こし、痔核(いぼ痔)と間違えられることもあります。そのため、自分で判断することは大変危険ですので、自己判断せずに専門の医師の診断を受けましょう。
疼痛
痔ろうがあると肛門周囲に炎症を起こして、熱が出たり腫れたりするだけではなく疼痛つまり痛みを引き起こします。
疼痛は特に、椅子に座る・用を足す際に激痛となり出現しますが、膿が溜まっていると圧力がかかりじっとしていてもズキズキと痛むこともあります。
疼痛には鎮痛薬の内服などでコントロールしたり、膿が溜まったり場合は切開排膿して痛みの軽減を図る方法が取られることもあるでしょう。
痔ろう(あな痔)になりやすい人は?
まず痔ろうは、30〜40代の若い世代に見られることが多く、女性よりも男性に多い傾向があるといわれています。
痔ろうは後述する下痢によるものが大きな原因の1つですが、アルコールの飲み過ぎやストレスがあることも原因の1つとなるでしょう。他にも、裂肛(さけ痔)・クローン病・結核・膿皮症・HIV感染などでも引き起こされることがあります。
下痢が主な原因
痔ろうは肛門のやや内側にある肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれるくぼみから細菌が入りこんで感染し、炎症を起こすことが原因の1つです。
下痢があると、便の形態からこの肛門陰窩に細菌が入り込みやすく肛門周囲に感染を起こしやすくなります。そのため、下痢をしやすい人や下痢が続いている場合には日常生活、特に食生活に注意するとよいでしょう。
クローン病
例えば、繰り返し肛門周囲膿瘍が起こるようであれば、クローン病など大腸に何か問題がないか調べる必要があります。クローン病は特に腸に炎症を起こす炎症性腸疾患の1つで、腸全体に炎症によるびらんや潰瘍ができるものであり、原因はわかっていません。
しかしクローン病により肛門にも潰瘍ができることがわかっており、肛門周囲膿瘍や痔ろうに発展することもあります。
痔ろうの前段階に起こる肛門周囲膿瘍とは?
肛門周囲膿瘍は肛門の周りに膿がたまる状態でいわば痔ろうの1歩手前の状態です。そして溜まった膿が皮膚の中に留まっており、皮膚を突き破って外に出てくるのが痔ろうです。
肛門周囲膿瘍は肛門内の肛門陰窩に便が入り込んで感染を起こして膿が溜まってしまうことで起こります。先にも書いたように下痢になると肛門陰窩に細菌が入り込みやすくなります。
それとは別に肛門周囲の皮膚にニキビや吹き出物のような毛穴が化膿(毛嚢炎)して起こる肛門周囲膿瘍の場合にはさほど重症にはなりません。この場合には皮膚の表層だけのため瘻孔が残ったり、痔ろうになったりする可能性も低いでしょう。
膿が溜まってしまうと発熱・腫れ・痛みが出現し、膿瘍の大きさが大きければ大きいほど症状は重篤になります。肛門周囲膿瘍があると診断されれば、局所麻酔時には腰椎麻酔下での切開排膿が基本となるでしょう。
排膿すると症状は軽くなりますが、肛門周囲膿瘍の段階できちんと治療することで痔ろうへの移行が抑えられます。しかし約3割は痔ろうへと移行してしまうため、次に解説するような症状がある場合には、早めに専門の医師の診察を受けましょう。
肛門周囲膿瘍の症状
痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍と診断された場合にはどのような症状があるのか、代表的な症状である発熱・腫れ・痛みといった症状について解説しましょう。
これらの症状についてよく知ると肛門周囲膿瘍が複雑になる前に対処が可能で、また痔ろうへの発展を抑えることができます。お尻のトラブルにお悩みの人の一助になれば幸いです。
発熱
肛門周囲膿瘍は肛門周囲の感染により炎症を起こし膿が溜まるため、発熱します。発熱は炎症の程度によりますが、時には38度以上の高熱となることもあります。
切開排膿により症状が落ち着くこともありますが、炎症が繰り返し起こると熱もぶり返す場合もあるでしょう。
腫れ
肛門周囲膿瘍のために炎症を起こしている肛門周囲は腫れもともないます。肛門部に触ると熱感がある腫れが生じることもあります。
痛み
肛門周囲膿瘍に伴う痛みは持続的で、座る・用を足すと痛みが増強します。大抵の場合は膿の量が徐々に増え、皮膚の中にできた膿が周囲を圧迫して、痛みが徐々に広がっていくように感じます。
またこの痛みは激痛と表現されることも多くかなり耐え難いものですが、排膿すると痛みの軽減が図れるでしょう。
瘻孔
瘻孔とは肛門周囲膿瘍でできたトンネル状の膿が溜まっていた場所が排膿された後に残ったものです。トンネル状のため、瘻管と呼ばれるケースもあります。
この瘻孔は存在することで、細菌が入り込みやすくなり感染を引き起こす頻度も高くなるため、肛門周囲膿瘍・痔ろう共に再発防止のために瘻孔を取り除く手術をしないといけません。
手術法に関しては、次項の治療方法で詳しく解説しましょう。
痔ろう・肛門周囲膿瘍の治療方法
痔ろうもしくは痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍と診断された場合には、いったいどのような治療法が選択されるのでしょうか。痔ろうは放置しても自然治癒はほぼ望めません。
また放っておくと皮下にある瘻孔がどんどんと複雑になり、治療も手術後の肛門機能の温存も難しくなります。デリケートな部分ですので躊躇しがちですが、専門の医師に診断を仰ぐようにしてください。
では以下に治療法について詳しく解説しましょう。
排膿
肛門周囲膿瘍と診断されたら中に溜まっている膿を外に出してしまう必要がありますが、切開排膿前に自然に皮膚が破けて排膿されるケースもあります。この処置の後、肛門周囲膿瘍の症状の改善がみられるでしょう。
切開排膿の際には、肛門周囲に局所麻酔を行い皮膚を切開して膿を出してしまう処置が行われます。しかし時に膿瘍が存在する部位が複雑な場合には、腰椎麻酔下での排膿が行われることもあるでしょう。
併せて次項にある内服薬などで炎症を落ち着かせたり、痛みが強い場合には鎮痛薬を用いることもあります。
抗菌薬投与
肛門周囲膿瘍では直腸内や皮下にある膿瘍周囲に炎症を起こしていることもあります。炎症を落ち着かせるために抗菌薬と呼ばれる炎症を起こしている菌を殺す薬が処方されるでしょう。
広範囲に炎症をともなっている・糖尿病や心臓弁膜症があり排膿だけでは改善しない場合には抗菌薬を服用すべきだといわれており、さらに免疫低下が顕著な場合には、この抗菌薬が処方されます。
瘻孔切除
そもそも瘻孔とは、皮膚や粘膜など身体の組織内に炎症などによりできた穴のことをいい、痔ろうもしくは肛門周囲膿瘍の場合には膿が排出された後に残されたものをいいます。
肛門周囲膿瘍・痔ろうにおいては、瘻孔の内部に溜まっていた膿を排膿した後、トンネル状の瘻孔が残ることで、再発しやすくなるため大きな問題となるでしょう。
トンネルの形状はCTやMRIなどの検査で確認することができますが、ほかにも内視鏡や超音波検査などが行われることもあるでしょう。
瘻孔が肛門括約筋・肛門挙筋より内層か否かによってIからIVに分けられ、数字が大きいほど難治です。また大腸側に深いかどうかにより、HもしくはLに分けられ、この2つを組み合わせた分類で表されます。
このトンネルの形状も放置すればどんどん複雑になり手術も難易度が上がります。また放置すると癌に移行する可能性もあるため、早めの対処が重要です。
しかし肛門周囲膿瘍の急性期に手術による根治術を行うと、肛門括約筋を傷つけてしまうリスクが高く肛門機能の温存が難しくなるために、急性期の症状が落ち着いてから瘻孔切除を行われることが多いです。
肛門機能が損なわれると、便が押し出しにくくなる・便意を我慢することができなくなってしまいます。
肛門周囲膿瘍・痔ろうの手術には肛門括約筋の一部も取ってしまう手術と肛門括約筋を温存して行う(くり抜き法)手術、そして次項にあげるシートン法の3つのタイプがあります。詳しく解説しましょう。
- 痔ろう切除術(肛門括約筋も切除):一般的な手術法で、痔ろうと一緒に周囲の皮膚・肛門括約筋と呼ばれるお尻の穴を閉めたり緩めたりする筋肉も一緒に切除します。肛門の背中側に瘻孔がある場合に適応となります。
- くり抜き法(肛門括約筋を温存):痔ろうだけをくり抜いて肛門括約筋をできるだけ切り取らずに、肛門の機能を温存する方法です。肛門括約筋が薄いお腹側(肛門の前方)の痔ろうに適応となります。
シートン法
痔ろうを結紮(けっさつ)切除する方法をシートン法と呼び、古くから行われている痔ろうの治療方法で、簡単で単純な手術のためよく行われている方法です。
直腸側にある原発口から痔ろうの出口である二次口にかけてゴム紐を通し時間をかけて徐々に痔ろうのトンネルを外に向けて膿を出すように解放します。
紐を徐々に縛って時間をかけて瘻孔を解放し、肛門括約筋や周囲の組織も徐々に治癒しながら切開されていくので、肛門機能が温存されます。
まとめ
痔ろうは痛みや腫れ、分泌物が続くといった症状があり、自然治癒が望めない・放置すると複雑になり時にがん化する厄介なものです。
また痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍は高熱・激痛となることもあり、切開排膿しないと症状の軽減が望めません。そして、その対処により痔ろうに発展するか否かにも大きく関わってきます。
痔ろうの治療法は基本的に手術によりその瘻孔を切除する必要があり、肛門括約筋を巻き込んでしまい、複雑な瘻孔の手術は術後の肛門機能の温存に大きく関わります。
痔ろう・肛門周囲膿瘍は下痢により肛門周囲に細菌が感染することが原因といわれており、生活習慣や食生活の見直しなどにも気をつけるようにしましょう。
特にアルコールの過剰摂取やストレスなども悪影響の原因として挙げられていますので、心当たりの人は注意してください。
デリケートなエリアの病変にも関わらず、若い30〜40代に起こるため、受診を躊躇してしまうこともあるかもしれません。しかし適切な対処法を早期から行うことが非常に重要なため、専門の医師に早めに受診しましょう。
今回の記事がお尻のトラブルでお悩みの人の一助になれば幸いです。
参考文献