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妊娠中に起こる脱肛とは?出産で痔になりにくい健康なおしりを保つ方法も解説

脱肛 妊娠中

妊娠中は体調がいつもと違い、お腹の赤ちゃんのことも心配になってしまうので悩みが尽きないものです。

お尻の痛みや脱肛で悩んでいても、赤ちゃんのことを考えると治療はできるのか・検診まで時間があるけれど、薬を使ってもいいのかなど気になることがいろいろ出てきてしまいます。

今回の記事では、妊娠中に脱肛が起こる原因・治療方法・予防方法などについてをまとめました。

妊娠中の脱肛について気になっている方や痔になりにくいお尻を保つ方法を知りたい方は参考にしてみてください。

妊娠中に起こる脱肛とは?

妊娠中に起こる脱肛とは?

妊娠をして子宮が大きくなってくると、女性の体内ではさまざまな変化が起こります。子宮や胎盤に酸素や栄養を運ぶために骨盤の血流量が増えていくのです。

また子宮が大きくなると、骨盤に静脈を圧迫してしまい足から心臓への血液の戻りが悪くなり、肛門周囲の静脈が滞りやすくなってしまいます。

さらに妊娠中は出産時の出血に耐えられるように、女性ホルモンが働いて血を固めるための凝固能が高まっているので、血栓ができやすくなっています。

このようなことから肛門周囲の血流が悪くなり、肛門の奥・直腸下端粘膜にできる内痔核ができやすくなります。

内痔核が悪化して大きくなると、肛門周囲の皮膚に広がって外痔核も生じ、肛門の外に脱出して、脱肛・出血・疼痛などの症状が出てしまいます。

内痔核の分類について

内痔核の分類について

痔核の分類はいくつかありますが、解剖学的分類・脱出度による分類・肉眼的分類があります。今回は脱出度による分類について解説します。

内痔核の脱出度による分類である、Goligher(ゴリガー)の臨床病期分類は、臨床でよく使われている分類です。

Goligher(ゴリガー)分類はI度からIV度にむけて症状・病態は悪化し、その程度により治療方法が選択されます。ここでは、それぞれ分類での症状について、詳しく解説します。

I度

排便時にうっ血し、肛門内で膨らみますが肛門の外には出てこない状態で、主な症状は出血です。

II度

排便時に力むと内痔核が肛門の外に出ますが、排便後に自然に元に戻ります。

III度

排便時・力が入ってしまった時・長時間立っていた時などに痔核が肛門の外に出てしまい、元に戻すためには手で戻さないといけないものです。

IV度

常に痔核が外に出ていて、外痔核まで一塊になっているものです。これは完全に肛門内に戻すことはできません

痔核は生活習慣の改善や薬物療法で改善する場合が多いです。しかし、III~IV度になり日常生活に支障をきたしたり、出血を繰り返して貧血になってしまったりしている場合には手術適応となることがあります。

妊娠・出産にともない脱肛が起こる原因

妊娠・出産に伴い脱肛が起こる原因

脱肛の原因として便秘や出産で強くいきむことがあります。分娩時のいきみで肛門周辺に力が加わることで肛門括約筋に負担がかかり損傷してしまうことで、肛門の開閉する力が弱くなってしまうのです。

妊娠中は、以下の理由から便秘になりやすくなります。

  • つわりによって食事量が減り、排便リズムが乱れる
  • 黄体ホルモンの分泌が亢進することで、腸管の動きが悪くなる
  • 子宮が大きくなることによって腸管が圧迫されたり、腹圧がかかりにくくなったりする
  • 静脈が圧迫されることで、心臓への血流量が減り、肛門周囲の血流が悪くなる

このようなさまざまな非妊娠時との違いにより、排便時にいきんでしまうようになるので痔になりやすくなり脱肛もしやすくなってしまいます。

脱肛の治療方法

脱肛の治療方法

妊娠中に脱肛になってしまった場合、どのような治療方法があるのかが気になるという方もいるかもしれません。

脱肛の治療は、軽症の場合は薬物療法が行われます。妊娠・出産によって一時的に悪化したものは薬による治療のみで治る場合もあります。

Goligher(ゴリガー)分類でIII度以上の脱出は、薬物療法のみでの治療は困難となり、根治療法は原則として外科治療となります。

ここでは、脱肛の治療方法について解説します。薬物療法・手術療法・注射療法に分けてそれぞれ解説するので、脱肛の治療方法について気になっている方は参考にしてみてください。

薬物療法

薬物療法

薬物療法に使われるものは、外用薬である坐薬・軟膏と内服薬があります。まず外用薬には以下の種類と特徴があるので確認してみましょう。

  • ステロイド含有製剤:腫れ・出血・痛みなどの急性炎症に有効だが、長期使用でまれにステロイド性皮膚炎や肛門周囲白癬症といった副作用を生じることがある
  • トリベノシドやブロメラインを含有する製剤:炎症性浮腫を改善する
  • 局所麻酔剤含有製剤:痛みを和らげる
  • ビスマス系製剤:出血症状を緩和する
  • フラボノイド含有製剤:腫れ・出血・痛みを抑える効果があるが、妊婦に対する安全性は保証されていない

外用剤にはいくつかの種類があり、使用目的はさまざまです。症状を診て医師が薬を処方するため自分に合ったものを使用できます。

次に内服薬にもいくつか種類があり、症状を和らげるために使用されます。便秘の時に便をやわらかくする緩下剤・炎症を抑える消炎剤・化膿止めの抗生物質などが痔の治療に用いられるものです。

薬物療法は腫れ・出血・痛みを抑える効果はありますが、慢性的な脱肛を完治させる効果はありません。

手術療法

手術療法

脱肛の治療に用いられる外科的治療には、以下のようにいくつかの種類があります。

  • 結紮切除術
  • ゴム輪結紮法
  • Stapled hemorrhoidopexy(PPH 法)
  • 分離結紮法

ここでは、それぞれの治療について解説します。

結紮切除術は、痔核の手術療法の中でも根治性・汎用性から標準療法とされているものです。この治療はGoligher(ゴリガー)分類でIII・IV度のどのような種類・重症度の痔核でも治療対象です。

根治療法ではありますが、手術後の痛みや出血などの合併症があります。出血・痛みなどの合併症の少ない半閉鎖式粘膜下痔核結紮切除法という手術方法も使用されていて、肛門の機能を温存できる方法です。

ゴム輪結紮法は、専用のゴムを痔核の基底部にかけて縛り、痔核を壊死・脱落させます。麻酔や入院なしで治療ができるので外来手術として実施されます。

小さめの脱出した内痔核や出血のある場合に行われる方法で、痛みはなく処置後の合併症もほとんどありません。

PPH法は、自動縫合器を用いる手術で機械を用いて痔核を切除・縫合します。内痔核の部分のみの処置なので、傷が外側にできません。

肛門内部には痛覚神経がないため、術後の痛みや出血などが少なく、入院が短いことが特徴です。全周性脱肛やGoligher(ゴリガー)分類でIII・IV度の痔核などに適応があります。

分離結紮法は、古典的な手術方法で術後に強い痛みをともなうことが多いです。そのため、局所麻酔薬を併用して手術を行います。

痔核を脱出させた後、内痔核・外痔核の根元の部分を縛り、局所の血流を止めることで痔核を脱落させます。痔核の大きさによって異なりますが、術後1~3週間程度で痔核が脱落し、脱落後2~3週間で傷口が治癒するでしょう。

Goligher(ゴリガー)分類でIII・IV度のあらゆる脱出した痔核が手術の適応で、注射で治療できないものも適応です。

注射療法

注射療法

注射療法は、痔核硬化療法といわれる治療方法で内痔核を切除することなく治療ができます。使用される治療方法は2種類あり、5%フェノールアーモンド注射による硬化療法ALTA療法(硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸:ジオン注射)です。

5%フェノールアーモンド注射は、痔核や痔核の血管周囲に注射することで痔核の血管周囲に炎症を引き起こし、痔核の血流量を減らす効果があります。これにより痔核を小さくします。主な症状が出血であるGoligher(ゴリガー)分類でIII度までの内痔核に有効な治療方法です。

麻酔や入院の必要がないというメリットのある治療方法ですが、数年で再発することが多いところがデメリットです。

また出血を止める効果は高い治療方法ですが、痔核自体をなくす効果は低いので脱肛になってしまっている状態では効果が落ちます。

ALTA療法(硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸:ジオン注射)は、硫酸アルミニウムカリウム水和物とタンニン酸を有効成分とする薬剤を注射します。ALTA療法は脱肛にも有用な治療方法です。

この薬剤により痔核の血流量を減らし、痔核を小さくし、硬化させて粘膜に固定する治療方法です。内痔核が適応となる治療方法で、1つの内痔核を4つに分けて注射します。この手法を四段階注射法といいます。

手術に比べて痛みや出血が少なく、日帰りでも行えるためすぐに日常生活に戻ることが可能な治療方法です。

頻度は少ないですが有害事象が起こっていて、発熱・下腹部痛・血圧低下・直腸潰瘍などの報告があります。また外痔核に薬が到達してしまうと痛みがでるので、外痔核を伴う場合の治療には注意が必要です。

脱肛になった際の対処方法について

脱肛になった際の対処方法について

内痔核は便秘でいきんだり、腹圧をかけたりすることで悪化し膨らみが大きくなり、脱出してしまうことがあります。これが脱肛です。

最初はいきみが終わると自然に元に戻っていたものが、徐々に手で押さないと戻らなくなり、さらにひどくなると戻らなくなってしまいます。

脱肛したままの状態では、いつもお尻が湿っていて粘液が下着に付いてしまうので不潔になってしまいます。それによりかゆみや痛みを生じてくることになってしまうのです。

そのため、脱肛になってしまったら早めに医療機関を受診し治療を開始し、悪化しないようにすることが必要です。

痔になりにくい健康なおしりを保つためには?

痔になりにくい健康なおしりを保つためには?

この記事ではここまで、妊娠中に痔になりやすくなる原因・治療方法・対処法について解説しました。では、痔にならないようにする予防方法はあるのかということが気になります。

痔を予防してお尻のトラブルなく妊娠期間を過ごして、出産を迎えられることが望ましいので注意できることは気をつけておきたいものです。

ここでは、痔になりにくい健康なお尻を保つための方法について解説します。

食物繊維や水分を十分に摂る

食物繊維や水分が不足すると便秘になりやすくなってしまいます。便秘になると痔になりやすくなってしまうので、食物繊維や水分はしっかり摂りましょう。

水分を十分摂り、脱水を予防することは便秘予防に効果的です。摂取する水分量は個人によって異なりますが、一般的に1日1.5リットル程度の水分を摂ることが望ましいとされています。

便秘は食物繊維、特に水溶性食物繊維を多く摂ることで改善することがあります。食物繊維は腸で水分を吸収して膨らみ、便をやわらかくしてくれます。そして、腸の動きを活発にするため便秘を改善してくれるのです。

食物繊維は、主に豆類・きのこ・海藻・果物・イモ類・穀物などに多く含まれているので、意識して摂取してみるとよいです。

便秘や下痢を防ぐ

強くいきまず短時間で排便をすることができるように便秘・下痢を防ぎ、排便リズムを身に着けることを心がけます。

便秘で腸に便が溜まり、それをいきんで排便をすることで肛門に負担がかかってしまいうっ血したり、傷になってしまったりすることがあります。食物繊維を多く摂り、暴飲暴食を避けるようにしましょう。

下痢は、肛門周囲の炎症を起こしやすくしたり、細菌感染の原因となってしまったりすることがあります。刺激物の摂りすぎや暴飲暴食を避け、胃腸とお尻の健康を維持していくことが必要です。

おしりの清潔を保つ

排便後は洗浄することでお尻をきれいに保つことが必要です。紙で拭いただけでは便や汚れが残ってしまうことがあるので、ウォッシュレットやウエットティッシュなどを使うとよいです。

お尻が汚れていると細菌が繁殖しやすくなってしまうため、肛門に炎症が起きやすくなってしまいます。炎症から膿を出すできものができてしまうと、痛みや炎症の悪化につながり痔になりやすくなってしまうのです。

毎日入浴する

毎日入浴をすると、体やお尻を清潔に保つことができるとともに体が温まり、血行がよくなります。体が冷えると血行が悪くなるので、肛門の血行も悪くなるのです。

肛門周囲の血行不良により、うっ血してしまうと痔になりやすくなるので血行が悪くならないように注意しましょう。

お酒や香辛料の摂取を控える

お酒の飲み過ぎは下痢を起こしやすくなるため、肛門に負担がかかります。また、胡椒や唐辛子などの香辛料は、消化されずに便に排泄されるので肛門粘膜への刺激が強く、うっ血・充血・炎症を起こしやすくなります。

肛門への刺激は、痔の原因となるため、お酒・香辛料の取り過ぎにも注意が必要です。

適度な運動をする

長時間座ったままでいて動かないことで、肛門が圧迫され、肛門周囲がうっ血しやすくなります。このため痔になりやすくなってしまうので、適度な運動をすることが望ましいです。

デスクワークだけでなく、立ち仕事でも同じ姿勢を続けることで肛門がうっ血しやすくなってしまうので、時々屈伸をしたり、少し歩いたり軽い運動をすることで肛門周囲の血行をよくするとよいです。

まとめ

脱肛 妊娠中 まとめ

妊娠中は肛門周囲の血流が悪くなり、便秘になりやすくなることから痔になりやすくなってしまいます。このため、便秘にならないように注意することが妊娠中の脱肛を予防する第一歩です。

脱肛の治療方法には、薬物療法・手術療法・注射療法があり、内痔核の脱出度による分類のGoligher(ゴリガー)分類によって治療方法が選択されます。

この記事では、妊娠中に脱肛が起こる原因・治療方法・対処法についてと痔になりにくい健康なお尻はどのようにして作ることができるのかを解説しました。

妊娠中の脱肛について気になっている方や痔を予防したい方は参考にしてみてください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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