下痢を伴うお腹の痛みは誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
さまざまな病気から引き起こされる下痢や腹痛ですが、原因を特定し適切な処置を受ける必要があります。
軽い下痢だからと放置してしまうと、原因となる病気や脱水症状を見逃してしまい重症化してしまう可能性もあるのです。
本記事では原因となる病気や対処法、診断方法について詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら参考にしてください。
下痢を伴うお腹の痛みの原因
下痢を伴うお腹の痛みがある場合、さまざまな原因が考えられます。特に、ご自身で思い当たる原因がある場合は、原因を明確にして受診することも大事です。
また、医療機関を受診することで原因を明確にし治療に繋げ、下痢や腹痛の苦痛から解放されるでしょう。
主に下痢を伴ってお腹の痛みを引き起こす原因は以下の8つです。
- ストレス
- 大腸がんによる下痢
- 生活習慣による下痢
- 過敏性腸症候群による下痢
- 薬剤による下痢
- 感染性腸炎による下痢
- 炎症性腸疾患による下痢
- 虚血性腸炎による下痢
それぞれの原因について解説しますので、ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
ストレス
身体的なストレスと精神的なストレスも原因の一つ です。消化器の働きをコントロールするのは自律神経が密接に関わっています。
ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、腸の働きが異常に活発になってしまうことから下痢を引き起こしてしまう可能性もあるのです。
極度の緊張時や通勤通学時など、気づかぬうちにストレスを感じ突然腹痛が発生し下痢になるケースも多くみられます。
ストレス社会といわれる現代では約20%もの人が有病していると報告されるほどです。性別や年齢に関わらず、ストレスによって腹痛や下痢を発症する割合は高いと考えて良いでしょう。
大腸がんによる下痢
大腸がんがあるから腹痛や下痢の症状が出る訳ではありません。大腸がんの初期は無症状のことが多いのです。
大腸がんに気づかないまま進行しがんが大きくなった場合、腸管内が狭くなり便が通りにくくなります。その結果、下痢などの便通障害が発生し腹痛を伴うケースもあるものです。
大腸がんが進行した場合の代表的な症状は以下の通りです。
- 下痢や便秘など排便習慣の変化
- 血便
- 腹痛
- 嘔吐
- 便が細くなる
- 残便感
大腸がんは発生部位によって症状が異なるといわれていますが、特に下行結腸やS状結腸にがんが発生した際に下痢や腹痛の症状が確認されます。
大腸がんと一言でいっても、症状が異なるので注意しましょう。
生活習慣による下痢
生活習慣の乱れによっても腹痛を伴った下痢の症状がみられます。特に、食生活の乱れによって引き起こされることが多いです。
以下の食品を摂取すると腹痛や下痢を引き起こすケースが多いとされています。
- 刺激の強い香辛料
- 脂っぽい食事
- 炭水化物過多の食事
- アルコール
- コーヒー
以上の食品を摂取した際に腹痛や下痢を発症するケースが多くみられます。
これまでに食事後に腹痛を伴う下痢を経験した方なら思い当たる節もあるでしょう。下痢を誘発しやすい食事はなるべく避けておきましょう。
特に、栄養バランスを考えた規則正しい食事と食物繊維を積極的に摂取するのがおすすめです。暴飲暴食を避け、食生活を改めて見直してみましょう。
過敏性腸症候群による下痢
腸内に炎症や潰瘍などの所見がみられないにも関わらず、腹痛や下痢を慢性的に発症する場合は過敏性腸症候群の可能性があります。
過敏性腸症候群の原因はさまざまで、特定しにくく対処に時間がかかってしまうケースもあります。名前の通り、腸がさまざまな刺激に対して敏感になりすぎている状態なのです。
過敏性腸症候群の主な原因は以下の通りです。
- ストレス
- 食生活の乱れ(暴飲暴食・アルコール過多)
- 腸内細菌叢の変化
過敏性腸症候群の原因を解決することで、腹痛を伴う下痢の解消にも繋がるでしょう。ただし、過敏性腸症候群には下痢症状ではなく、便秘を主訴とするものもあります。
下痢だけが過敏性腸症候群の症状ではないことを知っておきましょう。
薬剤による下痢
感染症でない場合の下痢のうちほとんどが薬剤性のものといわれる程、よくみられる原因の一つです。
薬剤性の下痢の場合、薬によって腸内の粘膜が炎症を起こしたり、腸内細菌のバランスが変化したりすることによって引き起こされています。
特に原因となる薬剤は以下の通りです。
- 抗がん剤(イリノテカン、シタラビン等)
- 抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系等)
- 痛風発作予防薬(コルヒチン)
- 免疫抑制薬
抗がん剤の場合、早発性の下痢と投与開始後10日あたりから現れる遅発性の下痢がみられます。
その他の薬剤を原因とする場合は、投与を開始して1〜2週間程度で下痢症状が現れることが多いです。
薬剤による下痢は一時的なものが多い一方、抗がん剤や抗菌薬、免疫抑制薬は重度の下痢症状を引き起こし重症化するケースもあります。
薬を服用する際は、主治医や薬剤師に副作用まで確認しておくことが大切です。
感染性腸炎による下痢
ウイルスや細菌が腸内に感染することによって、急に激しい腹痛を伴った下痢症状が出現します。急に発生する下痢の原因の90%は感染性腸炎によるものといって良いでしょう。
主に食品から感染しますが、感染者との接触で発症します。夏場に多くみられるのは細菌感染で、主な病原体は以下の通りです。
- サルモネラ菌:生肉や卵
- ブドウ球菌:汚染食品
- ウェルシュ菌:カレーなどの煮込み料理
- 腸管出血性大腸菌「O157」等:生肉・加熱不十分な肉
一方でウイルス感染は冬場に発生しやすく、主な病原体は以下の通りです。
- ノロウイルス:井戸水や牡蠣などの二枚貝
- ロタウイルス・水や二枚貝
- カンピロバクター:鶏肉
上記のような食品を食べた後、急な腹痛を伴う下痢を生じた場合は、感染性腸炎による下痢を疑いましょう。
炎症性腸疾患による下痢
炎症性腸疾患は主に潰瘍性大腸炎とクローン病に分類されます。
免疫機構の異常により、腸内の粘膜に炎症が起こることにより発病するとされていますが、いまだ原因は明らかでなく根治療法も確立されていません。
潰瘍性大腸炎の場合、大腸の粘膜が炎症を起こし潰瘍ができます。下痢や腹痛、血便などの症状が慢性的に続き、良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴です。
一方、クローン病は大腸だけでなく口から肛門までのあらゆる消化管に病変が生じるのが特徴です。
症状は潰瘍性大腸炎と同じく下痢や腹痛、血便を主とし発熱や倦怠感など全身に症状が出ることもあります。まれに重症化すると穿孔を起こす場合もあります。
虚血性腸炎による下痢
虚血性腸炎は腸内の粘膜への血流不足によって発症する血管性の病変です。
主な原因として重い便秘の際に腹圧がかかることで、血流が途絶えてしまうことが発症に繋がります。
その他、動脈硬化や高脂血症などの生活習慣病に罹患している方はリスクが高まるので注意が必要です。
主な症状は、急に下痢・腹痛・血便を発症するのが特徴です。左側腹部から下腹部あたりが突然激しい腹痛に襲われ、下痢症状に加え便器が赤く染まる程の血便が生じて受診されるケースが多くみられます。
便秘がちな高齢女性が発症する傾向が多いですが、最近では若年層でも増加しています。
下痢の症状
通常、便中の水分は60〜70%ですが下痢になると90%以上が水分となり、便中の水分が過剰状態で水のような便を何度も繰り返す症状のことです。
また、回数だけでなく1日で200ml以上の便量の場合も下痢と診断されます。
下痢が発生する機序は主に以下の4つに分類されます。
- 便から十分に水分が吸収できていない
- 腸液の分泌量が増えている
- 腸のぜん動運動が過剰になっている
- 腸に炎症があり腸内の体液が滲み出ている
以上のように、腸の働きに何らかの異常があると下痢の症状が出るのです。
下痢が続くと脱水症状となり、重症化すると命の危険を脅かす症状です。短期間で症状が引き起こされるものを急性下痢、4週間程度続くものを慢性下痢と症状に合わせて分類されます。下痢症状と共に腹痛や発熱を伴うケースも多くみられます。
急性下痢か慢性下痢に関わらず、身体的に苦痛な場合は医療機関を受診しましょう。受診の際は消化器内科を受診することをおすすめします。
特に、以下の場合は速やかに医療機関を受診してください。
- 血便を伴う下痢
- 高熱を伴う下痢
- 1日に10回以上の下痢
- 1週間以上続く下痢
緊急性の高い症状がある場合は、早めに検査をして診断確定した方が良いでしょう。
下痢から考えられる大腸や肛門の病気とは?
下痢を起こす病気はさまざまですが、主に大腸に原因があると考えて良いでしょう。
下痢を症状とする大腸の主な病気は以下の通りです。
- 大腸がん
- 感染性腸炎
- 過敏性腸症候群
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)
- 薬剤性腸炎
病気によって下痢の度合いや症状も異なるので、見極めが重要です。また、年代や性別によっても疑われる病気が異なります。
下痢になりやすい人は体質と捉えがちですが、慢性的に下痢症状が続いている場合は消化器内科を受診しましょう。
一方で、肛門の病気で下痢症状を発症する病気はありません。逆に下痢症状によって、きれ痔や肛門周囲の皮膚炎を発症してしまう恐れがあります。
下痢が起きた際の対処法
便を無理に出し切ろうとせず、安静にしてください。下痢が起きた際は、まず脱水にならないように水分補給を心がけましょう。
特に冷たいものは避け、常温あるいは温かい飲み物で水分補給をしてください。また、刺激の強い食品は避け、消化に良いものを摂取しましょう。
下痢が起きた際に対処法として効果を期待できる対処法を以下で解説します。
整腸剤を服用する
下痢で体力を消耗し、脱水症状がある場合は整腸剤を服用しておくのも良いでしょう。整腸剤は腸の働きを正常にし、腸内細菌のバランスを保ってくれます。
整腸剤といってもさまざまなタイプがあり、一般的には以下の3種類に分類されます。
- 腸内環境を整える
- 消化を補助
- 腹部の膨満感の解消をサポートする
下痢や腹痛を主訴とする場合は、腸内環境を整えるタイプの整腸剤を選んでください。
下痢止めではないので即効性は期待できませんが、4週間以上長期的に続けて服用することで下痢症状を和らげます。また、整腸剤は毎日飲み忘れのないように続けて服用することが重要です。
また、1ヶ月程度整腸剤を服用しても症状に変化がない場合は、整腸剤が身体に合っていない可能性があります。市販薬では成分をご自身で見極めるのは難しいため、医師や薬剤師に相談した方が良いでしょう。
腹部を温める
腹部の冷えによる下痢の場合は、腹部を温めるのも有効です。身体が冷えてしまうと消化管の動きが弱まり食事を十分に消化できず下痢や腹痛に繋がるケースもあります。
特に、慢性的な下痢に悩む場合は、腹部を温めることを意識すると下痢予防にもなるでしょう。
また、腹部を温めることは腹痛の緩和にも繋がるので、日頃から腹部を冷やさず温めることを意識してください。身体の外側からカイロや腹巻で温めることも有効ですが、身体の内側から温めると良いでしょう。夏場も冷たい飲み物の摂りすぎには注意が必要です。
下痢の原因が分かる検査
下痢の原因を特定するためには、症状を聞き取ったうえで必要に応じて検査を追加します。特に下痢の期間や回数、便の色などを問診し、診断を行うことが多いです。
主な検査方法は以下の通りです。
- 血液検査
- 腹部CT検査
- 大腸内視鏡検査
血液検査
血液検査によって炎症の有無や炎症の程度を診断できます。そのため、細菌感染による腸炎が疑われる場合、血液検査を実施し白血球やCRPの値を基に、腸炎の診断に役立てることが多いです。
ウイルス感染による腸炎は血液検査では判断不可のため、抗原検査にて診断します。
また、血液検査の数値から他の病気が潜んでいないか判断材料にもなります。特に、血液検査で腫瘍マーカーを測定し大腸がんの発見に至るケースもあるのです。
腹部CT検査
腹部CT検査は下痢症状を伴う消化器疾患を診断するうえで有用な検査方法です。
特に大腸CT検査はバーチャル大腸内視鏡検査とも呼ばれ、立体的に大腸を観察できるため高精度で病変を発見できます。
下痢の原因となる病気の中でも感染性腸炎の場合、CT検査で特有の像を呈するため診断の際に有用です。また、大腸がんが疑われる場合も造影剤を用いてCT検査を実施することがあります。
大腸内視鏡検査
下痢や腹痛の原因が大腸内の病変だと疑われる場合、まずは大腸内視鏡検査を行う医療機関が多いです。肛門から内視鏡を挿入し盲腸まで到達させ、徐々に抜きながら腸内をくまなく観察します。
直接病変を観察するだけでなく、病変の細胞を採取し診断を行うことも少なくありません。
大腸内視鏡は検査の身体的苦痛があるとイメージされていますが、近年ではハードルが低くなり健康診断でも導入される検査です。
検査時の痛みや苦痛が気になる人には静脈麻酔で無痛の検査を実施するケースもあります。不安な人は一度消化器内科を受診し、医師に相談することをおすすめします。
特に下痢や腹痛の症状がある方は、大腸がんや炎症性の腸疾患を否定するために実施することもあるのです。下痢や腹痛の原因を特定するためにも大腸内視鏡検査は有用であると考えて良いでしょう。
まとめ
下痢や腹痛は誰でも経験する症状ですが、下痢を放置すると脱水症状を引き起こす恐れもあります。また、下痢や腹痛が何かの病気の症状の一つである可能性もあるのです。
お腹が痛い状態で下痢症状がある場合、ご自身で原因を特定することは難しいです。対処法も一時的なもので、根本的な解決にはなりません。急性下痢か慢性下痢に関わらず、身体的に苦痛な場合は医療機関を受診しましょう。
下痢や腹痛が主訴の場合、主に大腸に病変があるとされますが早めに診断し適切な治療を受ける必要があります。
下痢や腹痛は日常生活に支障をきたす症状です。軽度だからと放置せず、消化器内科を受診しましょう。
参考文献