下肢(脚)の静脈が瘤(こぶ)のように膨らむ症状があらわれる下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、自然と治るものではありません。放置すると色素沈着や潰瘍ができる可能性があるため、必ず治療が必要となります。下肢静脈瘤の中にも種類があり、その症状や治療法は種類によって異なります。下肢静脈瘤の種類やその治療法について詳しく説明するとともに、予防法や悪化させないための対策法をご紹介していきます。
下肢静脈瘤について
下肢静脈瘤とは、下肢の静脈が瘤のごとく膨らんでいる状態のことを指します。脚の静脈にはたくさんの弁があり、その弁が血液の逆流を防ぐ役割をしています。しかしその弁が機能不全を起こした場合、静脈圧が高くなり、静脈が延びる、屈曲する、蛇行する、拡張するなどして瘤を発症するのです。下肢静脈瘤を発症するとどのような症状が出るのでしょうか。ご説明します。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の初期症状としては、静脈瘤が生じるだけで症状がない場合が多くなっています。
しかし血流が悪くなるため、
- 脚のかゆみ、浮腫み
- 脚がだるい、重い
- 脚に疲れがある
などの症状が出ることもあります。 症状が深刻化した場合、皮膚炎や静脈炎を引き起こして痛みを伴います。その結果治りにくい潰瘍ができてしまい、手術を必要とすることもあります。 また、色素沈着(茶褐色や黒褐色)が生じることがあり、放置すれば潰瘍ができることもあるため、治療が必要になります。
下肢静脈瘤の予防法
下肢静脈瘤は、薬によって症状の進行を抑え、緩和することはできても、根治するためには手術治療をするほかありません。下肢静脈瘤において完璧な予防法や治療法はなく、治療薬もないのです。血の流れを良くするという点から、考えられる予防法についてご説明します。
適度な運動
適度な運動をすることは、下肢筋肉を使うことによって血流やリンパの流れを良くしてくれるため、積極的に取り入れたいところです。毎日の日課としてウォーキングやスクワットを加えてみるのも良いでしょう。
長時間立ち仕事をしない
長時間立ちっぱなしでいると、重力によって逆流が増加してしまいます。長時間の立ち仕事は避けるようにしましょう。時折脚をフラットにするか、それよりも上げると浮腫み予防にもなります。
マッサージをする
脚のマッサージをすることは、血流改善、リンパ浮腫に良いと言われています。マッサージをする際の注意点として、脚のつま先から上に向かって行うようにしましょう。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤と言ってもいくつか種類があり、大きく分類すると伏在静脈瘤、側枝静脈瘤、網目状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤の4つに分けられます。下肢静脈瘤の特徴や症状を、種類別にご説明します。
伏在静脈瘤
伏在静脈瘤とは、脚の静脈にある弁(血液の逆流を防ぐ役割)が壊れて血液が逆流し、それが脚に滞ることによって血管が拡大し発症する下肢静脈瘤です。
伏在静脈瘤の症状は、
- 脚が痛む
- だるくなる、重くなる
- ひどく浮腫む
- つりやすくなる
などがあります。治療をしないまま放置すると、症状が悪化し湿疹が出る、かゆみが出るなどの症状があらわれ、皮膚炎症や色素沈着などの問題が生じることもあります。
また、伏在静脈瘤の中にも、大きく分けて「大伏在静脈瘤」と「小伏在静脈瘤」の2つの種類があります。
・大伏在静脈瘤
発症例がもっとも多いとされていて、脚のつけ根部分にある静脈の弁が壊れることで発症します。大伏在静脈瘤はひざの内側に静脈瘤の症状が出ることが多くなっています。
・小伏在静脈瘤
大伏在静脈瘤と比べると発症数は少なく、ひざのうしろにある静脈の弁が壊れることで発症します。小伏在静脈瘤の症状は、ふくらはぎに出ることが多くなっています。
側枝静脈瘤
側枝静脈瘤とは、伏在静脈の本幹には静脈瘤や静脈逆流が見られず、脚の血管の末端にある静脈で逆流防止弁が壊れることによって発症します。伏在静脈などから枝分かれした側枝(短い静脈)が拡張してできる静脈瘤であり、ひざより下の部分に発症することが多くなっています。
陰部静脈瘤は妊娠出産時にあらわれる側枝静脈瘤で、瘤が太ももの裏からひざの裏周辺まで広がる場合もあります。
側枝静脈瘤は細い血管で発生し、血液の滞留量が少なく範囲も狭くなっているため、症状は軽いことが多いとされています。そのため発症に気付きにくいのです。伏在静脈瘤と併発する場合と単独でできる場合と両方あり、比較的併発することが多いことから、見落としがないかよく調べる必要があります。
網目状静脈瘤
側枝静脈瘤とは、伏在静脈の本幹には静脈瘤や静脈逆流が見られず、脚の血管の末端にある静脈で逆流防止弁が壊れることによって発症します。伏在静脈などから枝分かれした側枝(短い静脈)が拡張してできる静脈瘤であり、ひざより下の部分に発症することが多くなっています。
陰部静脈瘤は妊娠出産時にあらわれる側枝静脈瘤で、瘤が太ももの裏からひざの裏周辺まで広がる場合もあります。 側枝静脈瘤は細い血管で発生し、血液の滞留量が少なく範囲も狭くなっているため、症状は軽いことが多いとされています。そのため発症に気付きにくいのです。伏在静脈瘤と併発する場合と単独でできる場合と両方あり、比較的併発することが多いことから、見落としがないかよく調べる必要があります。
クモの巣状静脈瘤
クモの巣状静脈瘤とは極めて細い血管(直径0.1〜1.0mm)が皮膚直下で拡張して発症します。皮膚の盛り上がりは少なく、赤紫色をしていることが特徴です。クモの巣状の毛細血管は瘤ではありませんが、日本においては静脈瘤として分類されています。正確には「毛細血管拡張症」と言います。
下肢静脈瘤の原因
下肢静脈瘤は、おもに静脈の逆流防止弁が機能不全になったことで起こります。そもそも、機能不全はどうして発生するのでしょうか。脚の静脈が圧迫されるなど、静脈弁への負荷が中長期的に続くことが原因だと考えられていますが、下肢静脈瘤のおもな因子はどのようなものがあるのでしょうか。具体的にご説明します。
下肢静脈瘤の主な因子
下肢静脈瘤のおもな因子と言えるのは下記のとおりです。
・妊娠、出産経験のある女性
女性は妊娠出産で身体にかかる負荷などによって、下肢静脈瘤を発症しやすいと考えられています。特に第二子出産以降であり、出産の回数が多いほど発症、悪化の危険性が高いとされます。
・立ち仕事やデスクワーク
長時間立ちっぱなしで過ごすと血液が脚に滞留することから、下肢静脈瘤を発症しやすくなると考えられています。また、座りっぱなしであるデスクワークも、血液の滞留が起こりやすくなるため注意が必要です。
・激しいスポーツ
激しいスポーツ(脚に外傷を負うほどの)をしている、または過去にしていたなどといった場合に発症することがあるようです。
・加齢
逆流防止弁の働きは加齢とともに衰えますが、脚への負担が蓄積されて負荷が増えることから発症しやすいとされています。特に60〜70代の発症率が高いと言われています。
・肥満
腹圧が高い場合、下肢静脈や弁への負荷が大きくなってしまいます。また、血液中の脂質やコレステロール値が高い場合は血栓性静脈炎を発症する危険性があり、そうなると静脈瘤に痛みが発生する可能性があります。
・遺伝
血縁者に下肢静脈瘤になった人がいる場合は、先天的に発症しやすい体質(静脈や弁の機能不全が見られる、脚の血流が滞りやすいなど)である可能性があります。遺伝の場合、老若男女問わず発症します。
下肢静脈瘤の治療法
下肢静脈瘤の基本的な治療法は圧迫療法であり、脚を圧迫することで静脈拡張や下肢静脈の血液の停滞を抑えることが目的です。症状がひどい場合、血液の逆流が発生している場合は合併症を引き起こすことがあるため手術をするほうが良いでしょう。症状が軽い場合、側枝(交通枝)静脈瘤の場合は手術をする必要はなく、硬化療法が良いでしょう。それぞれの治療法について、詳しくご説明します。
硬化療法
下肢静脈瘤の硬化療法とは、静脈瘤の内部にポリドカスクレロールと呼ばれる薬剤(硬化剤)を注入して閉塞させる治療法です。 静脈瘤の中に硬化剤が入ることによって、内膜に炎症を起こし、表面から圧迫された結果閉塞するのです。閉塞した後の静脈瘤は徐々に吸収されていき、数ヶ月で消失します。
直径3mm以下の細い静脈瘤(クモの巣状静脈瘤、網目状静脈瘤、側枝静脈瘤など)に適切な治療法であり、施術時間は短時間(約10分)で済みます。(静脈瘤が広範囲にわたっている場合は、数回に分割して治療します)また、ほかの手術をした後に残った細かい静脈瘤(遺残静脈瘤)の治療として、追加で行われることもあります。 メリットとデメリットについては、下記のとおりです。 硬化療法のメリット
- 傷あとが残りにくい
- 身体への負担が少ないなど
硬化療法のデメリット 血栓の形成による合併症(静脈炎、しこり、色素沈着など)を引き起こす可能性がある
圧迫療法
下肢静脈瘤における圧迫療法とは、弾力性と伸縮性にすぐれた医療用の弾性ストッキングを着用することで、静脈のうっ滞を改善し、浮腫みや重足感を緩和するための治療法です。どの種類の下肢静脈瘤にも対応する基本的な治療となっています。仕組みとしては、弾性ストッキングの着用時、脚の表面の静脈瘤がへこむくらいの圧力がかかります。その結果、表面の静脈瘤内に溜まった余分な血液が深部静脈へ導かれてうっ血が解消されるとともに、下肢の静脈の血流も促され、うっ血が改善すると言われています。浮腫みの解消、静脈瘤の縮小、下肢の重さの改善にもつながります。
また、下肢静脈瘤において弾性ストッキングを着用することは発症の予防になると同時に、その進行を遅らせる効果があります。ただし進行を止めることはできず、静脈瘤が縮小することもありません。効果があるのは着用時だけで、脱ぐとまた元に戻ってしまいます。あくまでも保存的な治療になります。
ほかの手術や、硬化療法などの治療の後にも着用します。
血管内焼灼術
下肢静脈瘤血管内焼灼術とは、逆流のある伏在静脈内に極めて細いレーザーファイバーやカテーテルを挿入し、血管内の壁を熱で焼くことによって閉塞させる手術です。おもに伏在型静脈瘤の治療法であり、手術自体は2mmほどの切開でできるため、ほとんど傷が残らないことが特徴です。
現在の日本においての血管内焼灼術は、レーザーまたはラジオ波を使用した手術になります。どちらを使用するかは下肢静脈瘤の状態によって判断されるでしょう。
血管をなくすことは不安であるかもしれませんが、脚の静脈に流れる血液の約90%は、深部静脈と呼ばれる大きな血管を流れています。深部静脈が通常どおり機能していれば、伏在静脈がなくなっても支障はありませんし、伏在静脈を流れていた血液は、ほかの静脈を流れていきます。伏在静脈を原因として静脈瘤が発生している場合は、壊れているその静脈そのものが血流を邪魔して脚の大きな負担になっていることが多くなっているため、なくしてしまうことで脚の症状が軽くなるのです。
健康な大伏在静脈は、ほかの病気で血管が必要になったとき、脚から取って使用する場合のある静脈です。なくしたことによってさらに血流が悪くなることはないため、安心してください。
ストリッピング治療法
ストリッピング手術とは、100年前から存在する下肢静脈瘤の手術方法であり、弁の壊れた伏在静脈を抜き去る手術のことを指します。伏在型静脈瘤の手術として有名であり、再発率が低く、実績のある下肢静脈瘤の根治手術として行われてきました。しかし現在では、カテーテルを使用した血管内治療が主流となっています。
下肢静脈瘤を悪化させないためにできること
脚が重い、だるい、痛い、浮腫むなどの下肢静脈瘤の症状を悪化させない、緩和するためには、どのような方法があるのでしょうか。自分でできる下肢静脈瘤のケアの方法をご紹介しましょう。
下肢静脈瘤のケア
立ち仕事中や長時間立ちっぱなしになっている際には、下肢に血液が溜まらないように、脚を心臓より高くして休息しましょう。なお、定期的に(5~10分間ほど)休息をするようにしてください。脚の静脈の流れをスムーズにするために、その場で足踏みをしたり、歩き回ったりすると良いでしょう。脚の筋肉を使うことによって、筋肉が血管のポンプとしてうまく働いてくれるようになります。
また、就寝時にはクッションなどをひざの下に置き、脚が少し曲がるようにして、脚を高くして眠りましょう。ひざが伸びていると、静脈の血流が流れにくいためです。
下肢静脈瘤のある方は、脚がかゆくても無理にかかないようにし、傷をつけないよう気を付けましょう。傷をつけると色素沈着や潰瘍の原因になってしまうためです。下肢を清潔に保つよう心がけましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。下肢静脈瘤は、一度なってしまうと自分の力で根治することはできず、治療や手術が必要になります。脚に瘤ができた、脚の浮腫み、かゆみ、脚が重い、だるい、脚に疲れを感じるなどの症状が見られた場合は、すぐに病院を受診し、下肢静脈瘤の治療を開始するようにしましょう。また、普段の生活では、血液の流れを良くするために長時間同じ姿勢にならないよう気を付けるなど、予防に努めましょう。
参考文献