「下肢静脈瘤って怖い病気? どういう人がなりやすいの?」と思っている方もいるのではないでしょうか。病気の名前を聞いたことはあっても、詳しいことはよくわからない方もいると思います。また、血管の病気は種類がたくさんありますので、個人の間違った判断で病気が進行してしまうリスクもあります。本記事では下肢静脈瘤のメカニズムやどのような症状があるのか、間違いやすい疾患等について詳しくご紹介します。ぜひ参考にしてください。
下肢静脈瘤の発症
下肢静脈瘤は、静脈瘤の種類によって自覚症状がない場合もありますが、足に典型的な症状が出るのが特徴です。統計的にどのような人が発症しやすいかも解明されています。ここでは、発症のサインや発症しやすい人の特徴、危険因子を詳しく見てみましょう。
発症のサイン
下肢静脈瘤は、足に血液が滞ることで発症しやすくなるため、午後から夕方に症状が強くなるのが特徴です。足がむくむ、だるくなる、足の血管が浮き出て目立つなどの症状が見られたら、それは発症のサインかもしれません。また、朝方に足がつりやすくなる方もいます。足の症状はその他の病気でも見られるため、発症のサインが出たときは自分で判断せず、医療機関を受診するといいでしょう。
統計的に発症しやすい人
下肢静脈瘤は、男性に比べて女性の発生率が高いことが統計学的にわかっています。女性のほうが発生率は2~3倍多く、30歳以上の女性の62%が発症するといわれています。40歳を越えると、年齢とともに増加していくのも特徴です。また、妊娠・出産がきっかけで発症する方も多く、出産経験のある女性の半数が発症するといわれています。 家族歴がある場合も発症しやすく、両親ともに下肢静脈瘤になると、その子どもは90%の確率で発症します。
下肢静脈瘤の危険因子
危険因子とは、病気が発生する危険性を高める可能性のある要因のことをいいます。下肢静脈瘤は肥満が危険因子になり、これはお腹の静脈の流れが悪くなることが原因です。女性では、BMI30以上で下肢静脈瘤のリスクが高まります。 また、肥満の方は日常的に運動不足の傾向があります。運動不足になると足の筋力が低下するため、筋肉のポンプ作用が低下し、足に血液が滞りやすく、静脈瘤の危険因子になるのです。
下肢静脈瘤の原因とメカニズム
下肢静脈瘤は、原因やメカニズムが解明されている病気です。原因やメカニズムを知って、ほかの病気との違いを理解しましょう。
原因
下肢静脈瘤は、血液が正常に動かなくなることが原因で発症します。血液が滞る原因は、足の筋力が衰える、老化などで逆流防止弁(静脈弁)が壊れる、血液がドロドロになっている、お腹や胸の中の圧が高くなることで血液が戻りにくくなる、などさまざまあります。
メカニズム
血管は動脈と静脈に分かれており、どちらも内膜・中膜・外膜の3層構造になっています。内膜の内側はなめらかで薄い皮膜になっており、血液から物質の取り込みを行い、スムーズな血液の流れを維持する役割があります。中膜は3層の中で最も厚く、血管を緩めたり縮めたりする動きに最も重要な部分で、これが血管の弾力性を保っています。外膜には血管の動きを支配する神経が通っており、血管に栄養や酸素を供給する非常に小さな栄養血管があります。 加齢とともに中膜の弾性繊維が少なくなり、弾力性が低下することで血管壁が硬くなります。これに加えて、静脈弁が壊れることで血液が逆流しやすくなり、血管が拡張し瘤になるのです。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤は大きく4つの種類に分けられ、どこの静脈に瘤ができるかで症状や治療法が変わります。ここでは、それぞれの静脈瘤の特徴を詳しく見てみましょう。
伏在静脈瘤
伏在静脈瘤は、足に血液がたまることで血管が広がり、静脈の弁がうまく機能しなくなることで生じます。最も多い大伏在静脈瘤では、足の付け根部分の静脈弁が壊れ、膝の内側に静脈瘤ができることが特徴です。小伏在静脈瘤は比較的まれで、膝の後ろの静脈弁が問題となり、ふくらはぎに静脈瘤ができます。 伏在静脈瘤の症状は、足が痛んだり、だるさや重さを感じたり、むくんだり、つりやすくなったりすることです。放置すると、湿疹やかゆみ、皮膚の炎症、潰瘍、色素沈着などの問題が引き起こされる可能性があります。そのため適切な治療が必要です。
側枝静脈瘤
側枝静脈瘤は、伏在静脈そのものではなく、その支流である側枝の静脈弁が機能不全となり、逆流が生じることで発症します。これによって、膝周辺やふくらはぎの短い静脈に瘤ができるのが特徴です。血管が細いため血液の滞りが少なく、また範囲も狭いため、症状が軽く気付きにくいことがあります。 特に陰部静脈瘤は、妊娠や出産によって発生しやすく、太ももの裏からふくらはぎにかけて瘤が広がるケースが一般的です。
網目状静脈瘤
網目状静脈瘤は、皮膚のすぐ下にある小さな静脈が拡張することによって引き起こされます。太ももの外側から裏側、膝の裏などに直径2~3mmほどの細い静脈が網目状に広がり、青色をしているのが特徴です。 自覚症状がほとんどないため、他人から指摘されて初めて気付くこともあります。進行しないタイプの静脈瘤のため、治療の必要がないケースが一般的です。ただし見た目などが気になる場合は、体に負担が少ない硬化療法がおすすめされます。
クモの巣状静脈瘤
クモの巣状静脈瘤は、皮膚表面にある直径0.1~1mm程度の細い血管が拡張して現れます。正確には静脈瘤ではなく、「毛細血管拡張症」と呼ばれます。このタイプの静脈瘤は盛り上がりが少なく、赤紫色をしています。特に自覚症状はなく、通常は進行することもありませんので、治療の必要はないことが一般的です。ただし、場合によっては伏在静脈瘤が同時に存在することもあるため、超音波検査や適切な診断を受けることが推奨されています。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤には、見た目や自覚症状など、さまざまな変化が見られます。静脈瘤の種類によっては進行するため、症状が現れた場合は注意が必要です。
外見の症状
静脈瘤の種類にもよりますが、足の血管が瘤のようにボコボコする、血管が網目状やクモの巣状に透けて見える、青筋が立っているように見える、足がむくむなどの症状があります。
外見以外の症状
外見以外の自覚症状は主に足に見られ、足がだるく重くなる、疲れやすい、むくむ、つりやすくなるなどの症状があります。
進行した場合の症状
治療が必要な伏在静脈瘤を放置してしまった場合、病状が進行してしまい、色素沈着や湿疹、潰瘍、出血が見られるようになります。皮膚が黒ずんだり、穴が開いたりする危険性もあるのです。また、少しの接触などで怪我をしてしまったり、怪我が治りにくかったりという症状も見られます。
下肢静脈瘤と間違いやすい症状の疾患
下肢静脈瘤には特徴的な症状がありますが、似た症状の出る病気もあります。なかには早急な治療が必要な病気もあるため、注意が必要です。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症とは、手足の血管に起こる動脈硬化です。別名「末梢動脈疾患」ともいいます。50歳以上の男性が多く発症し、主な原因は肥満や高血圧、糖尿病、喫煙です。 特徴的な症状としては足の冷感やしびれ、歩くときの痛みなどがあり、一定の距離を歩くとふくらはぎに痛みが生じます。また、進行すると安静にしていても手足に痛みが現れ、さらに進行すると手足に潰瘍ができ、最悪の場合は壊死してしまいます。
脊椎管狭窄症
脊柱管狭窄症は、腰の骨の間を通っている神経が圧迫されることで発症する病気です。中高年に多く、腰の骨周囲の組織の変化によって、椎間板(ついかんばん)、関節、靭帯で囲まれた神経を圧迫することが原因となります。 症状は足の痛みやしびれ、麻痺が見られ、立ったり歩いたりすることでさらに症状が悪化します。長時間歩けず休み休みになってしまい、前屈みになると痛みが軽減するのが特徴的な症状です。まれに、股関節のほてりや残尿感、便秘なども見られます。
深部静脈血栓症
深部静脈血栓とは、下腹部や太ももなど、膝の中心を走る深部静脈に血栓ができる病気です。とても怖い病気で、血栓が足の静脈から心臓や肺に流れてしまうことで肺塞栓症を発症すると、命の危険につながります。 片足全体や膝より下が急に赤く腫れ上がり、痛みが出るのが特徴です。数日かけてゆっくり進行することもあり、放置すると腫れが続いて皮膚が茶色く変色し、潰瘍ができてしまいます。また、肺塞栓症になってしまった場合は、胸の痛みとともに呼吸が苦しくなり、死に至る場合もあります。 はっきりとした要因はわかっていませんが、手術や癌、過去に深部静脈血栓になったことがある、寝たきり、避妊薬などのホルモン剤で発症しやすくなるといわれています。
全身疾患関連の浮腫
皮膚の下に余分な水分がたまっている状態を浮腫といい、これはさまざまな病気で現れる症状です。動脈から身体のそれぞれの組織に出た水分は、その働きを終えると静脈やリンパ管に戻ります。しかし、何らかの原因で静脈やリンパ管に戻れなくなると、皮膚の下に水分がたまり、むくみが生じます。肥満をはじめとして、さまざまな病気で浮腫が見られますが、その中でも腎不全、心不全は特に緊急性の高い病気で、一刻も早い治療が必要です。
下肢静脈瘤の検査と治療方法
下肢静脈瘤の検査や治療は、医療の進歩により選択肢が増えてきました。また、種類によって有効な治療法が異なります。ここでは一般的な検査方法と、治療の種類をご紹介します。
検査方法
下肢動脈瘤の診断には、以前は「静脈造影法」という痛みを伴う検査が一般的でした。現在は、身体の負担が少ない超音波検査が主流になっています。超音波検査では肉眼で確認できない静脈の状態をリアルタイムで確認でき、血流や静脈弁の状態が把握できます。被曝の心配がない安全な検査方法です。 見えにくい場所などは、ドプラ血流計やカラードプラ検査を併用します。
ドプラ血流計は、ドップラー現象を利用して血液の逆流を調べる検査法です。赤血球に超音波をあてて血液の流れの速度変化を音として表します。音の長さで逆流の程度を判断する、聴診で行う検査方法です。カラードプラ検査は、足にゼリーを塗り、プローブという器具をあてる痛みのない検査法です。血液の流れを色分けして表すため、逆流の有無が正確にわかる、原因の場所も正確に把握できる、診断や治療方法をすぐに提示できるというメリットがあります。血管内径や血流速度も測定でき、画像で残せるというのも利点です。
治療方法
下肢静脈瘤の治療方法はさまざまで、静脈瘤の種類や症状、進行状況に合わせて複数の治療を組み合わせることもあります。
・圧迫療法
圧迫療法は、「弾性ストッキング」と呼ばれる伸縮性のあるストッキングを着用することで、血液の流れを促す治療法です。この方法は、全体的に足を圧迫することで、血液を心臓に戻すことを助けます。逆流のない細かい静脈瘤に対して適用となりますが、効果は着用した日のみで、持続効果はありません。
・硬化療法
硬化療法は小さな静脈瘤に対する治療法で、注射によって血管内に泡状の硬化剤を送り込み、血管を閉塞させます。外来でも10分で治療ができ、治療後の生活制限が少ないことがメリットです。しかし、再発しやすく、まれに薬剤アレルギーや皮膚潰瘍が発生するリスクがあります。
・血管内治療
血管内治療は大きく、血管内焼灼術(けっかんないしょうしゃくじゅつ)と血管内塞栓術(けっかんないそくせんじゅつ)の2種類に分けられます。 血管内焼灼術はレーザーや高周波を使って静脈を熱で焼き、血液の流れを変える治療法です。麻酔をするため痛みは少ないのですが、治療後は一定期間、弾性ストッキングの着用が必要になります。 血管内塞栓術はグルー治療ともいい、医療用接着剤を注入して血管を固める治療法です。メリットは熱を伴わず、傷口も小さいため痛みや神経障害、やけどのリスクが小さいことです。しかし、接着剤が体内に残ってしまい、アレルギーや血管の炎症が生じる可能性もあります。 また、血管内治療はスタブ・アバルジョン法という瘤切除術を同時に行うことで、再発しにくくなり見た目の改善も期待できます。
まとめ
下肢静脈瘤は、足の筋力が低下する、静脈弁が壊れるなどが原因となり、足に血液が滞ることで発症する良性の疾患です。しかし、足に見られる症状は、動脈硬化症や血栓症、全身疾患関連の浮腫といった一刻を争う病気と似ている症状もあるため、ほかの病気との鑑別はとても大切です。足の血管が浮き出て目立つ、だるい、むくむ、つりやすくなるなどの症状が見られたら、自分で判断せず専門の医療機関を受診しましょう。
参考文献