下肢静脈瘤という足の病気について知っていますか?足の血管が浮き出て気になるという方、それは下肢静脈瘤の症状かもしれません。
本記事では、下肢静脈瘤でやってはいけないことについて以下の点を中心にご紹介します!
- 下肢静脈瘤について
- 下肢静脈瘤でやってはいけないこととは
- 下肢静脈瘤の予防方法
下肢静脈瘤でやってはいけないことについて理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
そもそも下肢静脈瘤とは?
下肢静脈瘤は、足の静脈が異常に拡張し、血液の流れが滞る病気です。足の静脈には逆流を防ぐ弁がありますが、この弁が正常に働かないと、血液が逆流し、静脈が膨らみます。その結果、足の血管が浮き出て突出したり、足がむくんだり、疲れやすくなったり、足がつったり、湿疹ができたりするなどの症状が現れます。
下肢静脈瘤は、日本国内では10人に1人が何らかの症状を経験するといわれています。しかし、命に直接的な危険を及ぼすことはなく、歩行に影響を及ぼすこともありません。ただし、専門の医療機関で適切な治療をしなければ、基本的には自然に治ることはありません。
下肢静脈瘤は、皮膚の下や皮膚内の静脈が拡張し、網目状、側枝、くも状、伏在といった形で現れます。特に、伏在静脈瘤は進行すると大腿部まで広がる可能性があります。また、下肢静脈瘤が原因で湿疹が治りにくくなったり、皮膚が剥がれて皮下組織が露出する「潰瘍」ができたりすることもあります。これらの皮膚症状が現れた場合、皮膚科で治療を受けることもありますが、下肢静脈瘤が原因であれば、専門的な治療を受けないと症状は再発します。したがって、下肢静脈瘤の症状がある場合は、医師の診察を受けることをお勧めします。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状は多岐にわたります。初期段階では、伏在静脈が拡張し、皮膚表面の血管が瘤状に膨れ上がる「静脈怒張」が見られます。また、足のむくみやだるさ、かゆみ、頻繁に足がつるなどの症状が現れることもあります。
症状が進行すると、足全体の血液循環が悪化し、皮膚やその下に老廃物が蓄積します。これにより、「うっ滞性皮膚炎」が発生し、足が広範囲で赤く腫れ上がることがあります。さらに、皮膚表面がただれて潰瘍になることもあります。また、潰瘍化を繰り返すと、皮膚自体も硬く分厚く変性し、茶〜黒褐色の色素沈着が残ることがあります。
その他の症状としては、静脈破裂による噴水のような出血や、血栓性静脈炎による強い痛みなどがあります。これらの症状が現れた場合は、適切な治療が必要となります。下肢静脈瘤の症状は個々の患者さんにより異なるため、症状が現れた場合は医師に相談することをお勧めします。
下肢静脈瘤の原因・因子
下肢静脈瘤の原因とされる因子を解説します。
妊娠・出産経験のある女性
妊娠と出産は、女性が下肢静脈瘤を発症しやすい要因となっています。
まず、妊娠中、母体は以下のような変化があります。
- 血液の量が増加(約1.5倍)
- 女性ホルモンの影響(静脈が柔らかく、伸びやすい)
- 子宮の成長により静脈が圧迫され、足への血液の流れが妨げられる
これらの変化により、静脈は拡張し、逆流防止弁が機能しなくなり、血液の逆流が起こります。これが下肢静脈瘤の発症につながります。
出産後、下肢静脈瘤の症状は一時的に改善することがありますが、再度妊娠すると症状は悪化します。また、出産経験がある女性、特に2人以上の子供を出産した女性は、下肢静脈瘤の発症リスクが高まります。
加齢
年齢を重ねると、静脈の壁は次第に弱くなり、血液の圧力に対する耐性が低下します。これにより、静脈瘤が形成されやすくなります。
また、年齢とともに静脈の逆流防止弁の機能も衰えていきます。一方で、足への負担は増え続け、特に60歳から70歳の間に下肢静脈瘤の発症率が高まります。
立ち仕事・デスクワーク
立ち仕事やデスクワークは、立っているか座っている状態が長時間続く状態は、ふくらはぎの筋肉が動かないため、血液の流れを助ける「筋肉ポンプ」の機能が低下してしまいます。その結果、血液が足に滞留し、静脈の壁や逆流防止弁に大きな負担がかかり、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。
特に、立ち仕事では重力の影響で血液が足に集まりやすく、デスクワークでは長時間同じ姿勢を続けることで血液の流れが悪くなります。
肥満
肥満の方は運動不足により足の筋肉、特に「筋肉ポンプ」の機能が低下し、血液の流れが滞りやすくなります。これにより、静脈の壁や逆流防止弁に負担がかかり、下肢静脈瘤が形成されやすくなります。
さらに、肥満は腹部の圧力を高め、静脈の流れを妨げ、下肢静脈瘤の発症を促進します。また、発症原因ではありませんが、肥満により血液中の脂質やコレステロール値が高まると血栓性静脈炎になりやすく、下肢静脈瘤に痛みを引き起こすことがあります。
遺伝
遺伝は下肢静脈瘤の発症に影響を及ぼす可能性があります。医学的には遺伝が直接的な原因とは確定されていませんが、子どもの発症率について以下のような報告があります。
・両親が共に下肢静脈瘤である場合:約90%が発症
・片方の親が下肢静脈瘤である場合:25〜62%が発症
・両親が共に下肢静脈瘤でない場合:約20%が発症
したがって、血縁者に下肢静脈瘤の症状がある場合、遺伝的な要素が関与している可能性があります。これは男女や年齢に関係なく発症する可能性があります。
便秘
便秘自体が直接的に下肢静脈瘤を引き起こすわけではありませんが、下肢静脈瘤の症状を悪化させる可能性があります。
便秘により大腸に便が溜まると、腹部が膨らみ、腹部の静脈が圧迫されます。さらに、便秘時には排便のために強くいきむことが多く、これにより静脈の内圧が高まります。これらの要因が静脈に負担をかけ、下肢静脈瘤の症状を悪化させると考えられています。
下肢静脈瘤の治療法
下肢静脈瘤の治療にはさまざまな方法がありますが、主な治療法について3つ解説します。
焼灼術
下肢静脈瘤の焼灼術による治療には「血管内レーザーによる焼灼術」と「高周波による焼灼術」があります。
「血管内レーザーによる焼灼術」では、レーザーのファイバーを逆流している静脈内に挿入し、レーザーを使って静脈の内側を熱で焼き、閉塞させます。これにより、静脈は閉塞し、血液の流れが止まり、数ヶ月後には静脈が繊維化します。
この治療法は、長年にわたり根治的な手法として行われてきた静脈抜去術(ストリッピング手術)と同等の影響を及ぼし、局所麻酔で行います。また、皮膚を切らずに細い針で皮膚から静脈を刺す穿刺法を使用するため、審美的にも優れています。
しかし、この治療法にはいくつかのデメリットもあります。稀に、静脈の中にできた血栓が伸びて深部静脈血栓症を引き起こすことがあります。さらに、この血栓が肺に流れ込むと、極めて稀に急性肺塞栓症を引き起こす可能性があります。また、保険適用となった装置以外での治療は自由診療となります。
「高周波による焼灼術」は、逆流している静脈内に細いカテーテルを挿入し、120℃の高周波を使って静脈の内側を熱で焼き、閉塞させる方法です。この治療法は、レーザー治療と基本的に同じ手法ですが、エネルギー源がレーザーではなく高周波である点が異なります。高周波による焼灼術の主な利点は、術後の痛みや皮下出血が少なく、より低侵襲な治療法であることです。また、手術時間が短縮でき、治療成績は同等以上であり、深部静脈血栓症などの合併症も少ないとされています。欠点として、非常に短い範囲の病変の治療には適していないとされています。日本では2014年6月からこの治療法が保険適用となっており、治療費はレーザー治療と同じです。
ストリッピング手術
ストリッピング手術(伏在静脈抜去術)は、下肢静脈瘤の根治的な治療法として長年にわたり用いられてきました。この手術は、弁不全を起こしている静脈を引き抜く治療方法です。具体的には、足の付け根や膝などの皮膚を切開(2〜3cm程度)し、手術用ワイヤーを逆流している静脈に通し、その静脈を引き抜く方法です。
ストリッピング手術の主な利点は、再発率が低く、安定した治療成績が得られることです。しかし、この手術にはいくつかの欠点もあります。下半身麻酔が必要となる場合や入院が必要な場合があり、痛み、皮下出血、神経障害などの後遺症を伴う可能性があります。
硬化療法
硬化療法は、静脈瘤が発生している血管に硬化剤を注射し、弾性包帯で圧迫して血管を固め、静脈瘤を消す方法です。この治療法により、固まった血管は徐々に萎縮し、消えていきます。
硬化療法の主な利点は、外来で治療が可能で、穿刺を行うため傷跡がほとんど残らないことです。しかし、この治療法にはいくつかの欠点もあります。硬化剤を注入した部位に色素沈着が生じることがあり、しこりや痛みが残ることがあります(これらの症状は時間の経過とともに消失します)。また、硬化療法だけでは、表在(伏在)静脈の弁不全による血液の逆流を改善できず、すぐに再発する可能性があります。
下肢静脈瘤でやってはいけないこと
下肢静脈瘤でやってはいけないことを、日常生活で気を付けることと治療後の注意点に分けて解説します。
日常生活で気をつけること
下肢静脈瘤が発生した場合、日常生活で注意すべきことがいくつかあります。
まず、足に血液が溜まらないようにするため、長時間立ち続けることは避けるべきです。立ち仕事をしている場合は、定期的に5〜10分間休息を取り、足を心臓より高くすることが推奨されています。また、足踏みをしたり歩き回ったりすることで、足の筋肉を動かし、血液の流れを改善できます。
寝るときには、足を高くして休むことが推奨されています。これは、血液の流れを改善し、下肢静脈瘤の症状を軽減するためです。また、足がかゆい場合でも、掻きすぎたり傷をつけたりしないように注意が必要です。これは、色素沈着や潰瘍の原因となる可能性があるからです。
下肢静脈瘤の予防には、医療用弾性ストッキングの着用が非常に役立ちます。これらのストッキングは、血液の逆流を防ぐ特殊な編み方で作られており、症状に応じてさまざまなサイズや形、圧迫率のものがあります。立ち仕事が多い方や、足のダルさやむくみを感じる方は、下肢静脈瘤の予防だけでなく、これらの症状の改善のためにも、積極的に医療用弾性ストッキングを着用することをおすすめします。
また、窮屈な下着やハイヒールの長時間の着用は避けるべきです。これらは血行を悪くし、下肢静脈瘤を悪化させる可能性があります。ヒールの低い靴を履き、しっかりと歩くことで、血液の循環を改善できます。
これらの注意点を守ることで、下肢静脈瘤の症状の管理と進行の抑制に役立つでしょう。
治療後の注意点
下肢静脈瘤の手術後には、いくつかの注意点があります。まず、手術当日と翌日の2日間はアルコールを避けることが重要です。これは、アルコールが炎症や内出血を引き起こす可能性があるためです。また、手術の前日または当日には必ず入浴をしてください。手術後は、シャワーは可能ですが、湯船に浸かる入浴は翌日からにしてください。
手術当日は、静脈麻酔の影響で一日中ぼんやりとした感じが残る可能性があるため、外出や職場への復帰は避けてください。また、運転も事故の原因となる可能性があるため、避けてください。翌日からは運転については問題ありません。
仕事や運動については、手術翌日から足をよく動かすことが推奨されています。ただし、激しいスポーツは術後1週間後まで控えてください。歩くことは積極的に行っていただきたいので、ウォーキングなどはおすすめです。
また、手術後1ヶ月間は血栓リスクが高まるため、長時間のフライトを伴う旅行は避けてください。血栓ができないようにするための予防法としては、「よく歩いて足を動かすこと」、「弾性ストッキングを履いて足を圧迫すること」、「水分を積極的に摂ること」が挙げられます。
立ち仕事の方や、普段から運動量が少ない方は、手術後はいつもより積極的に動いていただくことが重要です。これらの注意点を守ることで、下肢静脈瘤の手術後の回復をスムーズに進められます。ただし、個々の健康状態や生活習慣により、その適応は異なる可能性がありますので、必ず医療専門家に相談してください。
下肢静脈瘤は予防できる?
下肢静脈瘤の原因となっているのは、足の静脈の逆流防止弁が壊れてしまうことによる血流のうっ滞です。一度壊れてしまった逆流防止弁は治りません。そのため、予防をすることが大切です。下肢静脈瘤の予防について解説していきます。
適度に運動する
下肢静脈瘤の予防には、足を積極的に動かすことが役立ちます。足を動かすことで、ふくらはぎの筋肉がポンプのように働き、足から心臓への血液の流れを促進します。これにより、血液が足に滞留することを防ぎ、下肢静脈瘤の発症を予防できます。
毎日の生活の中で足を動かす機会を増やすために、具体的には、エレベーターの代わりに階段を使ったり、駐車場で車を遠くに停めて歩く距離を増やしたり、電車やバスで一駅分を歩いたり、買い物の途中で遠くのトイレを利用したり、天気の良い日には車ではなく自転車で移動したりするなど、日常生活の中で工夫することが重要です。
また、長時間立っているか座っていると、血液が足に滞留しやすくなります。そのため、長時間の立位や座位を避け、定期的に足踏みをしたり歩き回ったりして足の筋肉を動かすことを心がけましょう。
これらの予防策は、下肢静脈瘤の発症を防ぐだけでなく、既に下肢静脈瘤が発症している場合でも症状の進行を遅らせます。健康的な生活習慣を維持することで、下肢静脈瘤の予防と管理に役立ちます。
足をマッサージする
足をマッサージすることで、足から心臓への血液の流れが改善され、血液が足に滞留することを防ぎます。これにより、下肢静脈瘤の発症予防や症状の進行を抑制することが期待できます。具体的な方法としては、足全体を下から上に向かって手のひらで2〜3分間マッサージします。足の血液が心臓へと流れるイメージで、下から上に向かって手のひらで押し上げるように行います。休憩時間や入浴時、寝る前など一日数回、足のマッサージを取り入れると良いでしょう。
ただし、痛みを伴う場合や、症状が悪化する可能性がある場合は、マッサージを行う前に医療機関を受診し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
バランスの良い食事
適切な食事と運動により肥満を改善し、食物繊維を多く含む食事を心掛けることで便秘を改善することが、下肢静脈瘤の予防に役立ちます。肥満や便秘は、足から心臓への血液の流れを妨げ、下肢静脈瘤の発症や症状の悪化につながる可能性があります。
また、塩分や油分の多い食事は肥満や脂質異常を引き起こしやすく、これらは下肢静脈瘤の原因となります。したがって、バランスの良い食生活を送ることは、血流の改善や静脈への負担を軽減し、下肢静脈瘤の予防につながります。
弾性ストッキングを着用する
下肢静脈瘤の予防には、弾性ストッキングの使用が役立つといわれています。これらのストッキングは特別な弾力性を持ち、足首から上に向かって徐々に圧力を減らすことで血液の流れを改善し、血液の停滞を防ぎます。市販のものもありますが、下肢静脈瘤の症状の緩和や進行抑制、予防を期待するのであれば、高い圧迫力を持つ医療用のものを使用することが推奨されます。
しかし、糖尿病や高血圧、脂質異常症を有する方や喫煙者で、歩行時にふくらはぎが痛む、または安静時でも足の色が悪い、痛みを伴うなどの症状がある場合は、足の動脈に高度の動脈硬化が存在する可能性があります。このような状態で弾性ストッキングを使用すると、足の動脈の血流に悪影響を及ぼす可能性があるため、循環器内科や血管外科などの医療機関で相談することが重要です。
また、仕事で長時間立ち続ける必要がある方にとって、弾性ストッキングの使用は特に有効です。これらのストッキングは、下肢を圧迫し、血液の流れを促進することで、下肢静脈瘤の予防に役立ちます。ただし、個々の健康状態により、その使用が適切であるかどうかは医療専門家に相談することが最善です。弾性ストッキングの使用を検討している場合は、必ず医療専門家に相談してください。
まとめ
ここまで下肢静脈瘤でやってはいけないことについてお伝えしてきました。
下肢静脈瘤でやってはいけないことの要点をまとめると以下の通りです。
- 下肢静脈瘤は足の静脈にある逆流弁が壊れて血液の流れが滞る病気で、足の血管が浮き出て突出したり、足がむくんだり、疲れやすくなったり、足がつったり、かゆみや湿疹などの症状が現れる
- 下肢静脈瘤でやってはいけないことは、長時間立ち続けることや窮屈な下着やハイヒールの長時間の着用などで、足に負荷がかかり血液が溜まるような行動は控える
- 下肢静脈瘤の予防方法は、適度に運動すること、足をマッサージする、バランスの良い食事を摂ること、弾性ストッキングを着用することなどが挙げられる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。