本記事では下肢静脈瘤の血管内塞栓術について解説します。下肢静脈瘤の治療法は”血管内塞栓術”をはじめ、 “保存的治療”、“硬化療法”、“手術”、“血管内焼灼術”など複数あります。中でも血管内塞栓術は患者の負担が少ない治療法として、多くの症例で実践されている治療法です。血管内塞栓術には、その他にもメリットやデメリットがあるので詳しく解説しています。また、費用や血管内塞栓術がおすすめな人についても紹介しているのでぜひ参考にしてください。
下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤は一般的にはあまり知られていませんが、実は身近な病気です。足の重だるさや見た目の変化を放置すると、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。そんな下肢静脈瘤の症状や原因について本項では解説します。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤とは、主にふくらはぎの部分に、静脈が膨らんで形成される瘤(こぶ)が見られる病気です。この病気は急激に進行することは少なく、一般的に命を脅かすようなものではありません。しかし、放置しておくと足のだるさやむくみなどの不快な症状を引き起こし、日常生活の質を下げてしまいます。 初期段階では、足の血管が浮き出ることがありますが、特にその他の症状がないことも珍しくありません。血流が滞ることにより、足が重く感じられる、疲れやすくなる、むくみやかゆみを感じたりこむら返りを起こすといった症状が表れることもあります。 状態が進行すると、皮膚炎や静脈炎が発生し、時には痛みを伴ったり皮膚に色素沈着が起こることもあります。さらに、潰瘍ができてしまい手術が必要になる場合もあります。
下肢静脈瘤の原因
下肢静脈瘤の発生原因は、主に脚の静脈内にある逆流防止弁の機能不全にあります。これらの弁がうまく機能しなくなると、血液が逆流して静脈内に留まり、静脈が拡張して静脈瘤が形成されます。 逆流防止弁の機能不全を引き起こす原因には複数の要因が考えられますが、その中でも主要なものが6つあるので紹介します。
・妊娠と出産
妊娠中は脚への血液の流れが増加し、さらに子宮が大きくなることで静脈への圧迫が起こりやすくなります。出産回数が増えるほど、このリスクは高まります。
・長時間同じ体勢でいること
例を挙げるとすると、長時間立ちっぱなしの職業や、長時間のデスクワークなどです。これらの姿勢は脚の血液の流れを妨げ、静脈に負担をかけます。
・激しい運動を伴うスポーツ
特定のスポーツを行うことによって脚に負担がかかることがあります。例えば、空手やサッカーなどの運動で脚に外傷を負った場合、その影響で下肢静脈瘤が発生する可能性があります。
・肥満
体重の増加は脚への圧力を高め、静脈弁に余分な負担をかけます。また、高脂血症なども血液の流れに影響を及ぼし、静脈瘤のリスクを高めることがあります。
・加齢
年齢と共に静脈弁の機能は自然と低下します。このため、特に高齢者において下肢静脈瘤の発症率は高くなります。
・遺伝
家族内に下肢静脈瘤の症例がある場合、遺伝的要因により発症しやすい体質を持っている可能性があります。この場合、男女の区別なく、また年齢に関係なく発症することがあります。
下肢静脈瘤の血管内塞栓術(グルー治療)とは
血管内塞栓術は下肢静脈瘤の原因となっている異常な静脈を塞栓剤(医療用の瞬間接着剤)で閉塞する治療法です。病院によっては、グルー治療と呼ばれることもあります。
血管内塞栓術の特徴
下肢静脈瘤の血管内塞栓術は、2019年12月に保険適用となったばかりの比較的新しい下肢静脈瘤の治療法です。欧米ではすでに広く普及している治療法で、ベナシールと呼ばれる医療用の瞬間接着剤を下肢静脈瘤ができてしまった血管内に注入し、血管を閉塞することで治療する方法です。
血管内塞栓術と血管内焼灼術との違い
血管内塞栓術と血管内焼灼術の大きな違いは、血管内塞栓術ではカテーテルを入れる部分にのみ局部麻酔をするだけで手術が可能になる点です。血管内焼灼術は血管を閉塞させる際に熱を発し、熱に伴う痛みを抑えるために多くの麻酔薬を必要とします。ですが、血管内塞栓術では熱を発しないため、血管周囲の組織や神経に損傷を与える危険性がないのです。 また、血管内塞栓術では術後の血栓症リスクが低いため、弾性ストッキングを着用する必要もありません。術後すぐに、ほとんど制限なしで日常生活への復帰が可能となります。
血管内塞栓術(グルー治療)のメリットとデメリット
ここまでで、血管内塞栓術の特徴はご理解いただけたかと思います。前項でも解説した通り、下肢静脈瘤の治療法にはいくつかの選択肢があります。血管内塞栓術のメリットとデメリットを知っておくことで、ご自身にあった治療法の検討に役立つのでぜひ参考にしてください。
血管内塞栓術のメリット
・即効性が高い
血管内塞栓術は通常、即座に効果が現れ、患者が症状の改善を早く感じることができます。
・患者の負担が少ない
血管内塞栓術は外科手術を伴わず、局所麻酔で行われることが一般的です。手術中の痛みも少なく、患者の回復もはやいので入院も必要ありません。
・合併症の予防ができる
血管内塞栓術によって異常な静脈が塞栓されることで、合併症や症状の進行を防ぐことが期待されます。
血管内塞栓術のデメリット
・再発の可能性
血管内塞栓術においても、静脈瘤は再発する可能性があるため、完全な治療には複数回の療法が必要な場合があります。
・塞栓剤(医療用の瞬間接着剤)に対するアレルギー反応
使用される医療用接着剤に対するアレルギー反応がまれに発生する可能性があります。
・一時的な腫れや痛み
血管内塞栓術では、治療後に一時的な炎症や赤みが発生することがあります。ですが、通常は数日から数週間で改善するので大きな心配は必要ありません。
血管内塞栓術(グルー治療)がおすすめな人と不向きな人
血管内塞栓術がおすすめな人と不向きな人について解説します。治療法に悩まれている方はぜひ参考にしてください。
血管内塞栓術がおすすめな人
血管内塞栓術は以下に当てはまる方におすすめの治療法です。
- 高齢者の方
- 弾性ストッキングがあわない方
- 手術後すぐに日常生活に復帰したい方
血管内塞栓術が不向きな人
残念ながら、血管内塞栓術は以下に当てはまる方には向いていません。ですが、最終的な判断は医師によるので、ご自身に向いているかどうかは一度医師に相談してみましょう。
- アレルギー体質の方
- 血管が曲がりくねっていたり、複雑なタイプの下肢静脈瘤の方
血管内塞栓術(グルー治療)の治療費用
血管内塞栓術は2019年12月から保険適用されるようになりました。そのため患者さんは3~1割負担で治療を受けることができます。3割負担の費用相場は、約45,000円~47,000円ほど。1割負担の場合は、約15,000円~17,000円ほどになります。医療機関によって多少前後するので、受診する前に各医療機関のホームページを確認したり問い合わせて確認してみてください。
血管内塞栓術(グルー治療)以外の治療方法
血管内塞栓術以外の治療法として、 “保存的治療”、“硬化療法”、“手術”、“血管内焼灼術”などがあります。それぞれの治療法について概要やメリットとデメリットを解説します。
保存的治療
保存的治療は運動、圧迫療法、脚の持ち上げを中心に、手軽な方法で症状を軽減する治療法です。保存的治療には、圧迫療法、運動療法、薬物療法などがあります。 圧迫療法は圧迫ストッキングを使用することで静脈内の血流が改善され、症状の軽減が期待できる療法です。運動療法は定期的に運動することで、足の筋肉が収縮することで血液の循環を促し、静脈瘤の進行を抑制する効果が期待できます。また、薬物療法は炎症を軽減するために薬物が処方される療法です。
保存的治療のメリット
・患者の負担が少ない
保存的治療は手術を伴わないため、リスクや回復期間が短く、患者にとって負担が少ないことが大きなメリットとなります。
保存的治療のデメリット
・効果が限定的になる
保存的治療は下肢静脈瘤が進行した場合には有効でないことがあり、他の治療法が必要となることがあります。
・完治が難しいケースがある
保存的治療では根本的な原因を解決することは難しく、完治が難しいケースがあります。
ストリッピング手術
ストリッピング手術は進行した静脈瘤に対して、異常に拡張をした静脈を取り除き、正常な血流を回復させることを目的としている手術です。
ストリッピング手術のメリット
・合併症の軽減
下肢静脈瘤が進行すると、合併症が発生する危険性がありますが、手術によってこれらのリスクが軽減されることがあります。
・外見の改善
手術によって異常のみられた静脈が取り除かれ、外見的にも改善が見られます。
ストリッピング手術のデメリット
・手術リスク
ストリッピング手術に限らず、あらゆる手術にはリスクが伴います。感染症、出血、麻酔に対する副作用などが発生する可能性があります。
・回復期間
ストリッピング手術後は一定の回復期間が必要であり、その間は動きを制限されることがあります。
・再発の可能性
静脈瘤が再発する可能性があり、他の静脈が拡張することがあります。
・瘢痕
ストリッピング手術で切開した部位に瘢痕が残る可能性があります。
・神経損傷
手術する静脈の近くには多くの神経があり損傷するリスクを避けるため、ストリッピング手術には高い技量が求められます。そのため実績や信頼のできる病院選びが重要となります。
硬化療法
硬化療法は、下肢の静脈瘤に薬を注射して硬化させ、血流の逆流を防ぐ治療法です。硬くなった静脈瘤は、半年ぐらいで吸収されて消えてしまいます。外来で10分程度で行うことができます。
硬化療法のメリット
・患者の負担が少ない
硬化療法は外科手術を伴わないため、外来で治療ができます。もちろん入院の必要もありません。また、大抵の場合、硬化療法は局所麻酔で行われるため、患者にとっては比較的負担が少ない治療法といえます。
・即効性が高い
硬化療法は治療の即効性が高く、患者が症状の改善を早く感じることができます。
・外見の改善
硬化療法は、外見の改善に寄与することがあり、患者の美容的な要望にも応えることができます。
硬化療法のデメリット
・再発の可能性
硬化療法においても、静脈瘤は再発する可能性があるため、完全な治療には複数回の療法が必要な場合があります。
・一時的な腫れや痛み
硬化療法では、注射後に一時的な炎症や赤みが発生することがあります。ですが、通常は数日から数週間で改善するので大きな心配は必要ありません。
・硬化剤注入部への色素沈着
硬化療法で使用する薬剤によって、注入部の皮膚に色素沈着が起こることがありますが、これも通常は一時的です。
・硬化剤へのアレルギー
硬化剤に対するアレルギー反応がまれに発生する可能性があります。
・適用できないケースがある
硬化療法は、進行した下肢静脈瘤の場合においては効果が期待できない場合があります。そのため硬化療法が適用できるかどうかは、医師の判断が必要となります。
レーザー・高周波による血管内焼灼術
血管内焼灼術とはレーザーやラジオ波を用いて、異常な静脈を焼灼(破壊)し、血管内部から治療する治療法です。局部麻酔のため、比較的患者の負担が少ない治療法となります。
血管内焼灼術のメリット
・患者の負担が少ない
血管内焼灼術は外科手術を伴わないため、傷口が小さく、回復が迅速です。また、局部麻酔のため、患者の負担が比較的少ない治療法です。治療後、その日の内に帰ることができます。
・即効性が高い
血管内焼灼術は、治療後に即座に症状の改善が見られることがあります。
・外見の改善
血管内焼灼術も同様に、外見の改善が期待でき、患者の美容的な要望にも応えることができます。
血管内焼灼術のデメリット
・再発の可能性
血管内焼灼術においても、静脈瘤は再発する可能性があり、完全な治療には複数回の療法が必要な場合があります。
・一時的な腫れや痛み
血管内焼灼術の治療後、一時的な炎症や軽度の痛みが発生することがあります。ですが、通常は数日から数週間で改善するので大きな心配は必要ありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。血管内塞栓術は医療用の瞬間接着剤を下肢静脈瘤ができてしまった血管内に注入し、血管を閉塞することで治療する方法でした。カテーテルの注入部分にだけ局部麻酔を行うので、患者への負担が少なくその日のうちから日常生活への復帰ができることが大きなメリットです。また、保険適用もされるので経済的な面でも患者への負担が少ない特徴があります。繰り返しにはなりますが、下肢静脈瘤の治療法は複数あるため、実際に治療する際には医療機関へと相談してご自身に適した治療を受けましょう。最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献