下肢静脈瘤は、下肢静脈に血液が滞ることで、足の不調を引き起こします。その治療や手術の方法には、いくつかの選択肢があります。本記事では、下肢静脈瘤の手術について以下の点を中心にご紹介します!
- 下肢静脈瘤について
- 手術を伴わない下肢静脈瘤の治療とは
- 下肢静脈瘤の手術方法とは
下肢静脈瘤の手術について理解するためにもご参考いただけると幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
そもそも下肢静脈瘤とは?
下肢静脈瘤とは、足の静脈が異常に拡張し、蛇行したりうねったりする病状を指します。この状態は、静脈内の血液がうまく心臓に戻れなくなることで発生します。静脈の内部にある弁の機能不全が主な原因で、これにより血液が下肢に滞り、静脈が拡大します。下肢静脈瘤は見た目にも明らかな変化を引き起こし、しばしば足の重だるさや痛み、不快感などの症状を伴います。
立ち仕事や遺伝的要因、妊娠、肥満など、さまざまな要因によって発症することがあります。日常生活における不快感や美観の問題だけでなく、長期にわたって放置すると皮膚の変色、潰瘍形成、血栓形成などの合併症を引き起こすリスクもあります。したがって、下肢静脈瘤が疑われる場合は、早めに診断を受け治療することが重要です。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤の種類には、伏在型静脈瘤、側枝静脈瘤、網目状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤などがあり、症状や見た目によって分類されます。以下で下肢静脈瘤の種類について解説します。
伏在型静脈瘤
伏在型静脈瘤は、表在性大静脈、特に皮膚直下の静脈で見られる病状です。このタイプの静脈瘤では、静脈が異常に広がり、太く蛇行するようになり、皮膚表面に目立つようになります。この状態は、静脈内の弁機構の機能不全により血液が逆流し、それが静脈の拡張および静脈瘤の発生に繋がることが原因です。
伏在型静脈瘤の発生は、長時間立ち続ける仕事、長時間座っている生活様式、または遺伝的な要因が関連しているとされます。症状としては、足の痛みや重だるさ、疲労感があり、さらに進行すると皮膚の色素沈着や潰瘍が生じる場合もあります。
この静脈瘤は、血液循環の障害が原因で起こるため、足を高くする、適度に運動する、圧迫ストッキングを使用するなどの予防策がおすすめです。しかし、症状が進んだ場合は医師による適切な治療が必要となります。
側枝静脈瘤
側枝静脈瘤は下肢静脈瘤の一形態で、小規模な静脈、すなわち側枝静脈の異常な拡張によって生じます。足の表面に特に見られるこの状態は、細かい網目状や枝状の静脈が拡大することによって特徴づけられますが、しばしば目立たない症状として現れることが一般的です。側枝静脈瘤は、影響を受ける静脈が小さいため、ほかのタイプの静脈瘤より症状が軽度であることが少なくないとされています。
このタイプの静脈瘤に伴う症状には、足の重さや疲れが含まれることがあります。また、症状が進行すると、皮膚の色の変化や腫れなどを引き起こすこともあります。側枝静脈瘤は、日常生活に影響を及ぼすことは少ないものの、美容上の問題や不快感の原因となることがあります。
側枝静脈瘤の治療は、症状の重さや個人の健康状態によって異なり、重症度に応じて医師のアドバイスを受けることが重要です。
網目状静脈瘤
網目状静脈瘤は足の皮膚に近い位置にある小規模な静脈が拡大して形成される静脈瘤です。このタイプの静脈瘤では、細かい青や緑の色がかった静脈が皮膚表面上にはっきりと浮かび上がり、特に足の裏側や足首の周辺でよく見られます。
網目状静脈瘤の発生には、長時間立ち続ける職業や座りっぱなしの仕事など、特定の生活習慣が関係していることがあります。多くの場合、この静脈瘤は痛みや不快感を引き起こさず、主に外見上の問題として扱われますが、まれに皮膚のかゆみや腫れといった症状が現れることもあります。
網目状静脈瘤は、医学的な治療を必要としない場合が少なくないですが、外見上の問題が気になる場合や症状がある場合は、医師に相談することをおすすめします。
クモの巣状静脈瘤
クモの巣状静脈瘤、別名蜘蛛状静脈瘤は、下肢の静脈瘤の一形態で、特に細い静脈が拡大することによって特徴づけられます。この状態では、皮膚のすぐ下に位置する非常に細かい静脈がクモの巣を思わせるようなパターンで拡張し、肌上に顕著な模様を作り出します。これらの静脈は、青や紫色の細い線として皮膚表面に現れ、その蜘蛛の巣のような独特な外観が特徴です。
クモの巣状静脈瘤は通常、痛みや不快感を伴わないことが多く、主に美容上の問題として考えられます。しかし、場合によっては皮膚のかゆみや軽度の痛みを伴うこともあります。このタイプの静脈瘤は、特定のライフスタイルや遺伝的要因によって発症することがあり、適切な治療や生活習慣の改善によって症状を軽減できます。
手術を伴わない下肢静脈瘤の治療
手術を伴わない下肢静脈瘤の治療は、静脈瘤の進行を抑え、症状を緩和することを目的としており、患者さんの状態や静脈瘤の症状に応じて選択されます。 ここでは、手術を伴わない下肢静脈瘤の治療の保存的治療法について解説します。
圧迫療法
圧迫療法は、保存的治療において重要な役割を果たします。この方法は、静脈瘤内の余分な血液の蓄積を予防し、血液の流れを深部静脈へと促進します。これにより、血液が下肢から上へと効率的に移動し、むくみの軽減や静脈瘤の縮小、足の軽さを実感できます。
この治療法のメリットとしては、低価格であり、日常生活に容易に取り入れられる点が挙げられます。しかし、デメリットとして、弾性ストッキングを着用している時間にしか効果がなく、暑い季節にはかぶれやすく、保険適用外のこともあります。
また、注意が必要なのは、下肢末梢動脈狭窄症がある場合です。ABI(下肢圧/上肢圧比)が0.8未満の場合は圧迫療法をしないほうが良いとされています。圧迫療法は、手術治療を受けていない場合に継続的に行うべきであり、手術後も2〜3ヶ月は続けることが望ましいとされています。圧迫療法は根本的な治療ではなく、静脈瘤の悪化を遅らせ症状を軽減するための方法であるため、適切な使用と医師との相談が重要です。
圧迫療法にて用いるアイテム
圧迫療法において重要な役割を果たすアイテムには主に弾性包帯、医療用弾性ストッキング、サポートストッキングがあります。
- 弾性包帯:伸縮性を持つ包帯で、圧迫力や範囲を調整しやすい一方で、ずれやすさやほどけやすさがデメリットです。特に潰瘍がある場合には、痛みの軽減やガーゼの固定のために有用です。足の部分から均一に圧迫し、膝または大腿まで巻きます。使用するには正しい巻き方を学ぶ必要があります。
- 医療用弾性ストッキング:下肢静脈瘤やリンパ浮腫、深部静脈血栓症の治療用に特化されたストッキングです。パンティストッキング型、ストッキング型、ハイソックス型などがあり、足のサイズや圧迫力のニーズに応じて選びます。適切な使用のためには、医師の処方と履き方の指導が必要です。
- サポートストッキング:医療用ではなく市販の衣料品としての弾性ストッキングで、「ひきしめ用ストッキング」や「圧着ストッキング」として販売されています。サポートストッキングは治療用ストッキングより圧迫力が弱いため、下肢静脈瘤の治療には適さない場合があります。また、サイズ選びが重要で、適切でないサイズを使用すると、圧迫が不十分な場合や、逆に過度な圧迫が生じることがあります。
手術や薬を伴う下肢静脈瘤の治療
手術や薬を伴う下肢静脈瘤の治療には、静脈切除術、高位結紮術、硬化療法、血管内焼灼術などが含まれます。 ここでは、手術や薬を伴う下肢静脈瘤の治療方法について、以下で詳しく解説します。
静脈抜去術(ストリッピング手術)
静脈抜去術、一般にストリッピング手術と呼ばれるこの治療法は、進行した下肢静脈瘤の根本的な治療手段です。この手術は、1900年代初頭から標準的に行われており、主に大伏在静脈や小伏在静脈など、弁不全を起こしている静脈を対象にしています。手術では足の付け根や膝裏などから約2cmの小さな切開をし、特殊な器具(ストリッパーワイヤー)を使用して静脈を抜去します。
ストリッピング手術は多くの経験があり、再発率も極めて低いことが確認されています。手術により抜去された静脈の代わりに、血液は正常な深部静脈へと流れるため、血流の悪化はありません。ただし、手術により細かい神経が損傷することがあり、その結果、術後に約10%の患者さんがしびれ感を経験することがあります。
高位結紮術
高位結紮術は、中等度の伏在型下肢静脈瘤に対する手術の一つであり、特に足の付け根(大伏在静脈の場合)や膝裏(小伏在静脈の場合)で行われます。この手術では、約2〜3cmの皮膚を切開し、局所麻酔のもとに実施されます。手術の主要なステップは、皮下組織を丁寧に分離し、伏在静脈を露わにすることから始まります。その後、深部静脈へと流れる部位を特定し、静脈を二重に結んで切断するとともに、分枝も結紮して取り除きます。
この手術法の大きなメリットは、単純であり、局所麻酔により術後の不快感や出血が少なく、体への全体的な負担が軽減される点にあります。ただし、手術単独での再発率が高いため、多くの医療機関では、高位結紮術後に硬化療法などの補助的な治療を併用し、再発を抑制する努力をしています。
高位結紮術は、患者さんの健康状態や生活環境、医療機関の能力や医師の経験に基づき、それぞれの患者さんに適切な治療計画が立てられます。患者さんの状態や静脈瘤の特性を考慮し、医師との相談を通じて治療法を選択することが重要です。
硬化療法
高位結紮術は、伏在型下肢静脈瘤の中等度の症例に対する一般的な外科手術です。この手術では、大伏在静脈の場合は足の付け根、小伏在静脈の場合は膝裏に2〜3cm程度の切開を施し、局所麻酔を用いて実施されます。手術の主な流れは、皮下組織を慎重に剥離して伏在静脈を露出させた後、深部静脈への接続部を特定し、静脈を二重に結びつけて切断することです。さらに、深部静脈につながる側枝も同様に結紮して除去します。
この手術法の長所は、その簡単な手順と局所麻酔による術後の痛みや出血の少なさにあり、患者さんの全身への負担が軽減されます。しかしながら、この方法だけでは静脈瘤が将来的に再発する可能性が高いとされています。そのため、高位結紮術をした後、多くの医療施設では硬化療法などの追加の治療をすることが一般的で、再発を防ぐための取り組みがなされています。
高位結紮術は、患者さん一人ひとりの状態や生活スタイル、医療施設の資源や医師の経験に基づいて適切な治療計画を立てることが重要です。そのため、手術を検討する際には、医師との十分な相談を通じて適切な治療オプションを選ぶことが大切です。
血管内焼灼術
血管内焼灼術は、伏在型下肢静脈瘤の治療に用いられる先進的な手法です。この治療では、細いカテーテルを静脈内に挿入し、レーザーや高周波エネルギーを使って静脈の内側を熱で焼灼します。その後、静脈瘤を圧迫し、閉塞させることで、静脈瘤は体内で吸収されて繊維化することになります。この手術は日帰りで行える低侵襲な方法であり、体への負担が少ないことから多くの患者さんに選ばれています。また、国際的にも伏在型下肢静脈瘤治療の標準的な方法として広く認識されています。
心臓や脳の血管治療にも使われる医療機器を利用し、治療は下半身麻酔や全身麻酔の下で実施されることがあります。治療後は、超音波検査を定期的に行い、深部静脈の血栓形成などの合併症をチェックします。
しかし、極めて稀な場合には肺動脈血栓塞栓症のリスクがあるため、治療後のケアと注意が重要です。患者さんの健康状態や静脈瘤の種類に応じて適切な治療法を選択することが肝心であり、治療前には医師と十分な相談が必要です。治療内容や費用については、受診する医療施設が提供する情報を参照することが望ましいとされています。
血管内焼灼術を用いた下肢静脈瘤の不適切治療について
血管内焼灼術は、2011年に日本で保険適用となり、その低侵襲性から下肢静脈瘤治療の標準手法として広く普及しました。しかし、その普及に伴い、一部の医療機関で不適切な治療が行われている問題が浮上しています。具体的には、うっ滞症状を伴わない軽症の静脈瘤や、治療が必要ない正常な静脈に対してもETAが施行されているケースが報告されています。
このような不適切な治療は、患者さんに不必要な侵襲を与えるだけでなく、医療倫理に反する行為であり、将来的な心臓や下肢のバイパス手術のための代用グラフトの喪失につながる可能性も指摘されています。
医療関係者に対しては、治療の必要性を慎重に判断し、特にうっ滞症状を伴わない軽症の静脈瘤や正常な静脈に対しては、無用な血管内焼灼術をしないよう注意喚起が行われています。患者さんも、治療の必要性について十分な説明を受け、適切な治療法を選択することが重要です。
下肢静脈瘤の手術の費用
下肢静脈瘤の手術費用は、手術の種類や治療法、保険の適用範囲、症状の重さなどによって大きく異なります。以下は一般的な手術方法ごとの片足の費用相場です。
- 静脈抜去術(ストリッピング手術):(1割負担)約10,000円、(3割負担)約31,000円
- 高位結紮術:(1割負担)約3,000円、(3割負担)約9,000円
- 硬化療法:(1割負担)約2,000円、(3割負担)約5,000円
- 血管内焼灼術:(1割負担)約14,000円、(3割負担)約43,000円
具体的な費用については、治療を受ける医療機関に直接問い合わせることをおすすめします。また、治療に際しては、保険の適用範囲や追加費用についても事前に確認することが重要です。
下肢静脈瘤の手術前後の注意点
下肢静脈瘤の手術前後は、以下のような点に注意しましょう。
手術前:
- 食事は手術当日の朝は軽く済ませる。手術時間の6時間前からは禁食。
- 水分は手術直前まで摂取可能。ただし、手術の6時間前からはゼリー状やヨーグルト状のものは避ける。
- 楽な服装で、替えの下着を持参する。
- 手術日には車や自転車の運転は避ける。
手術後:
- 手術後は適度な運動をし、深部静脈血栓症のリスクを減らす。
- 手術直後から通常の食事を再開可能。
- 負担のかからない家事は当日から行って問題ない。
- 翌日より仕事や軽い運動をしても問題ない。
- 激しいスポーツなどは手術1週間後の受診で問題なければ可能。
- 術後数日間は飲酒を控える。炎症、内出血、痛みを増幅させるリスクあり。
- 入浴は手術の翌日から可能。ただし、特定の手術を受けた場合はシャワーのみ。
- エコノミークラス症候群や旅先でのトラブル対応を考慮し、旅行のスケジュールを組む。術後1ヶ月間は長期フライトを避ける。
これらの注意点は、術後の早期回復と合併症のリスクを減らすために重要です。詳細な指示や個別の状況については、医師の指導に従ってください。
まとめ
ここまで下肢静脈瘤の手術についてお伝えしてきました。 下肢静脈瘤の手術の要点をまとめると以下の通りです。
- 下肢静脈瘤とは、静脈内の血液がうまく心臓に戻れなくなることで発生し、足の静脈が異常に拡張し、蛇行したりうねったり、足の重だるさや痛み、不快感などの症状を伴う病状
- 下肢静脈瘤の手術を伴わない治療として「圧迫療法」があり、弾性包帯や医療用弾性ストッキングを使用して、患部に適度な圧力を加えることで血液循環を改善し、症状の軽減を目指す
- 下肢静脈瘤の手術方法には、「静脈抜去術(ストリッピング手術)」「高位結紮術」「硬化療法」「血管内焼灼術」などがあり、患者さんの状態によって適切な方法が選択される
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。